蕩けてしまう・1




これでもかと降った雪のせいで半ば屋敷内に隔離された達は屋敷の中で出来ることに専念していた。明日には佐助が雪をどうにかしてくれると幸村が豪語してたので多分なんとかしてくれるのだろう。佐助ご愁傷様。

その佐助とはあれ以来顔を合わせていない。どんな顔で話しかければいいのかわからないから精神的には助かっているが、この雪の中仕事しっぱなしはさすがに身体を壊す気がする。

癒しの力で佐助を元気にしてあげれてたことを思えば、自然と何か出来ないか、と思ってしまうのは普通で。でもできない自分にもやもやとした気持ちだけが胸を巣食ってた。



。」
「小十郎さま…」

私にも出来る仕事、ということで針仕事をしていれば小十郎が部屋に入ってきた。一緒に針仕事をしていたおせんさんは飲み物を持ってくると席を外し、は火鉢を彼の方へ向けた。

「ここ数日元気がないようだが何かあったか?」
「え…」

居住まいを正すとそんなことを問われ目を丸くした。そんなにわかりやすいのだろうか。頬に手をあて眉を下げると「これでもお前の後見人だからな」と苦笑した声が返ってくる。

「甲斐に残りたいか?」
「そんなことはないですけど…でも、」
「でも?」
「妙芳さまに関わる件はまだ解決したと聞いてないので…」


奥州を離れなければ自分は早々に死んでいただろうし、綱元達にも迷惑がかかっただろう。それを考えると大手を振って奥州に帰ることは出来ない。

佐助や幸村には奥州に帰るとはいってもいつ帰れるのか私自身がわからない。自分の気持ちに嘘はついてない。けどこれ以上甲斐にいたら、政宗と離れたらその気持ちすら揺らいでしまいそうで怖い。

目を伏せ視線を下げると火鉢を避け小十郎が膝を進めてきた。


。お前に頼みたいことがある」
「?はい」
「政宗様の湯浴みの手伝いを俺の代わりにしてくれ」

とんでもないことに顔を上げれば小十郎はいたって真面目な顔では困惑した。
そういう身の回りは奥方とか小姓とか小十郎がするもので一介の下女がすることではないのでは?

何でまた私なんかに、という顔をしたが後見人とはいえ、上司の小十郎の頼みを断れることは出来ず訝しがりながらも頷いたのだった。



*



多分、政宗本人に聞けということだろう。そのセッティングは有難いけど今は正直政宗に会いたくない。だってあの人の機嫌悪いんだよ?当り散らさない分だけマシだけどただじっと殺気放ちながら静かにしてる様は異様だ。
私の癒しの力も効かないみたいだし越後に行った時みたいになったらどうしよう。あんな殺気向けられたら生きてられる自信ない。

長襦袢の裾をたくし上げ後ろ帯に挟み込んだは脱衣所を出ると岩陰まで近寄り政宗の名を呼んだ。


です。お背中を流しに参りました」

そういえば、温泉はお風呂と違ってなだらかな場所がない。岩でごつごつしてるし温泉から上がると寒いし。
そういえば昨日まで腹の傷のことがあって政宗だけ屋敷内の風呂を使ってた気がする。ということは政宗の傷の具合も良くなってるのか。

そう考えながら返答が返ってこないことに不安になって温泉を覗けば目の前にぬっと手が現れそのまま胸倉を掴まれ一気にお湯の中に落とされた。

「ぶは!な、何?!げほっ鼻に入ったー!」
「HAHAHA!引っかかったな。Don't be so careless!」 (油断は禁物だ!)
「政宗さま何するんですか?!」


酷いですよ!と濡れた髪を避けながら目の前の彼を睨みつければ脇の下に手を差しいれられ沈みそうだった身体を起こしてもらった。あーもう、着物びしょびしょじゃないか。

「何だよ。着たまま入るつもりだったのか?」
「そんな訳ないじゃないですか。私は小十郎さまの代わりに政宗さまの身体を洗う手伝いを」
「この中で出来ると思ってんのか?」

それは私も思いました。

「腕と肩くらいは出来ると思いますけど」
「Hum.じゃ、頼むわ」



あまり乗り気じゃないようだが、腕を差し出した政宗はそのまま岩肌に寄りかかった。水気を吸った髪を後ろに追いやって、腕を捲くったは持ってた手拭で政宗の腕を撫ぜる。

なんかやり辛いな…。政宗が寄りかかってるせいだなきっと。
というか思ってたより筋肉ついてるよなあ。傷あるけど肌も綺麗だし。程よく硬い、たくましい腕に溜息が漏れそうになる。
男の人なんだなって思えば思うほど心臓が早鐘を打つみたいに波打っていく。そこまで考えて頭を振った。

いかんかん。これじゃただの変態だ。早く終わらせよう、そう思いつつ反対側の腕も同じように手拭を動かした。




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2016.02.29
英語は残念使用です。ご了承ください。

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