蕩けてしまう・2




「背中は良くなったか?」
「お陰様で」
「腕もあとはかさぶたぐらいか」
「はい。まあこっちは痕が残るみたいですが」

残るのは私で政宗じゃないのに。そんな難しい顔しなくていいよ。
何だか申し訳なくて眉尻を下げ笑みを浮かべば政宗は「次は背中だったな」と背を向けた。何気に範囲広がってる。

仕方なく見えないところも手拭で背中を擦っていると(とんでもなくやりづらいんだけど)不意に手を掴まれ顔が彼の背中にぶつかった。


「ま、政宗さま!いきなり引っ張らないでください!!」
「Oh,sorry.背中に目がなくて加減できなかったぜ」

よくもまあそんなことがいえたもんだ。と半目で彼のうなじを睨みつけるともう1度手を引っ張られうなじにキスをしてしまった。おい、見えないんじゃなかったのか?

「政宗さ…」
「これが俺の傷だ。もう少しすれば戦にも出れる」
「出れるって…」


政宗の手が誘導してきたのは彼の腹の傷で歪な凸凹には息を呑む。戦の前に傷が開いたらどうするつもりだ。糸の感触が指から伝わってくるのに。
目の前のたくましい背中には息を吐くと頬を寄せもう片方の手も彼の腹に回した。自分から抱きしめるなんて殆どなかったように思う。

「無理しないでくださいね」
「心配してくれるのか?」
「当たり前です。政宗さまは他にいないんですから」

自分の手で彼の傷を撫でればくすぐったかったのか、の手を覆うように政宗が手を重ね押し付けてくる。そんなことして痛くないのかと少し心配したが「そうか」と笑う声が聞こえて肩の力を抜いた。


「雪が溶けたら奥州に帰るぞ」
「私も一緒に、ですか?」
「嫌か?」

「…奥方さまは?」


正確には妙芳さまを取り巻く人達だけど。でも、自分が政宗の近くにいれば妙芳さまだっていい気分ではいられないだろう。彼女は正室なのだから。

「Beats me.俺が北条に攻め込む時期に危篤の早馬が来たくらいだ。生きて会えるかまではわからねぇ」 (さぁな)
「じゃあ、こんなところで悠長にしてる場合では」
「戦はお互いこれで最後かもしれないという気持ちで望んでる。それはあいつもわかってることだ」
「でも、」


そうはいうけれど、妙芳さまは寂しいかもしれない。身体が弱くて同じ城にも住めなくてただ夫が来てくれるのを待つなんて。風邪をひいて1人ぼっちで寝てる時ですら寂しくて泣きそうなのに、それが延々と死に間際まで1人なんて…。

ぎゅっと抱きしめる手に力を込めるとその手を引き離され彼の身体がこっちを向いてきた。迫る隻眼に思わず息を呑む。

「それでお前が死んじまったら元も子もないだろうが、」
「でも、だけど、」
「"でも"も"だけど"もねぇ。竹中にされたことをもう忘れたのか?この腕もお前の背中も心の傷も。あんな形で手放して敵地で殺されるなんて冗談じゃねぇ」
「……」

。お前が帰る場所は、安息の地はここじゃねぇ。俺の元だけだ」


吐き出した言葉と一緒に政宗が唇を合わせてくる。乱暴かと思ったそれはどこか怯えてるように思えて背筋がゾクリと震える。本当、これで咆哮して奇声をあげない私は随分図太くなったというか、何というか。
きっと政宗も私のこと子供だって思ってないんだろうな、と応じるように彼の下唇を甘噛みすれば、はぁっと震えるような息が漏れた。


「だったら尚更早く妙芳さまの下に行ってあげてください。きっと妙芳さまも寂しいって思ってるはずだから。政宗さまを待ってるはずだから…」

大人だって寂しいものは寂しいのだ。私だってそうだった。ただ子供の時より我慢とプライドがあって素直にいえないだけで。
まっすぐ見つめ訴えれば諦めたような顔の政宗が「All right.」といって私の頬を撫でた。


「だが、帰る時はお前も一緒だ。You see?」
「お、OK…ってなんで凄んでくるんですか!」
「俺のKittyはいまいち男心ってやつをわかってねぇみたいだから、な?」

怖いですよ!と身を引いたが目を細めた政宗は無言で迫ってくるだけで広くもない温泉ではすぐに追い詰められてしまう。当たった岩肌に視線を巡らせると両側に手のバリケードが張られた。う、袋の鼠だ。

「俺がここ数日機嫌が悪かったのは知ってるよな?Do you know why?」 (なぜだだか分かるか?)
「さ、さぁ?…っうひゃ!」

耳元で囁かれた低い声に動揺してとぼけると耳朶を噛まれた。甘噛みだから痛いって程じゃないけどそれと一緒にぬるりとした感触もして肌が粟立つ。あ、やだ、舐められてる。


。お前、前田と一緒に温泉入ったんだってな」
「な、何で?!」

それを、という前に自分の手で口を塞いだ。そして後悔した。いや、声裏返ってる時点で試合は終了だったけど。

そろりと彼を見やれば据わった目でニヤリと笑い、塞いでた手を無理矢理外してろくなことをいわない口を塞いだ。片手は後ろ頭にもう片方の手は逃げないように掴んでいては空いてる片手で政宗を押し返してみたが通じるわけもなかった。

縦横無尽に荒らしていく舌に息が苦しくなって抵抗を含めて舌を噛んでみたけど離れたのはほんの一瞬で冷たい息を吸い込む前にまた塞がれた。




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2016.02.29
英語は残念使用です。ご了承ください。

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