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グッバイ・ユーテラス



(1)

ぼんやりと空を眺め息を吐く。赤かった空も今は藍色に変わり静寂が深まっていく。
友人や仲間達は既に就寝していてとても静かで1人だった。

もう1度空を見上げる。満天の星空に目を細めてみる。まるでこのまま空が光の雨を降らしそうだと思った。
星を読むことも占うことも出来ない自分はそれくらいしか感想が出てこなかったがこれはこれで美しいとも思った。
もしかしたら自分の父や家族の魂があの空で光っているのかもしれない。

ふと思いつき、尊敬してもただの人間である親達が星になっているのは可笑しいか、と1人納得して笑みを作った。

1人が辛いわけではない。けれどどこかで見守ってくれたならどんなに心強いだろうと思った。


そうこうしていく内に夜の気配も深まりそろそろ寝ようと座っていた石段から腰を上げ背伸びをする。
明日も早いのだ。さっさと寝てしまおう。そう思った。

「…っ!」

気配がした。戦場で戦う男達程の勘の鋭さはないが培われた動物的感覚が視線を誘導する。この感覚が麻痺すれば命を落とすことだってあるのだと身をもって知っていた。

暗闇に慣れた瞳は月の光でも十分気配を追うことができる。誰かが建物から出てきたようだった。足音を聞く限り男のようだ。そのことにドキリとする。
私は息をひそめ、その場に隠れるように身を縮めた。敵ではないだろうが咎められるのは割に合わない。


足音が近づくにつれ、心拍数も早くなる。気配が自分の数メートル先に来た時視線を上げた。
月に照られた姿は暗闇の中でも白く光り輝いてるように見えた。髪も肌も穢れを感じない程の白く、そして威風堂々とした姿に地面に平伏した。

自分は見てはいけないと思ったのだ。現に視認した途端脂汗が噴き出し手足が震えている。たまたまとはいえ見てしまったことが『不敬』だと思ってしまった。


足音が遠のき、聞こえなくなるまで私はただひたすら気配を消し、騒がしい心臓の音を飲み込んでその場にやり過ごすしかなかった。