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グッバイ・ユーテラス



(26) ※Attention参照

目を覚ませば見知った白い部屋の中にいた。身体を起こし、帰ってきたんだっけ、と身を息を吐く。
第7特異点は無事修復された。厳密には違う歴史になったが達が生きる現代ではおよそ問題のない結果に終わっている。その話は見舞いに来ていた藤丸とマシュが再度教えてくれた。

しばらくぼんやり宙を見ていたが、布団を捲って自分のお腹を擦ってみる。レイシフトする前とほとんど変わっていないお腹だ。
のお腹の中にいたものは全て消滅し、魔術回路もそこだけぽっかりと穴を開けている。

マーリンには全部引き剥がした方がいいといわれたが、諦めの悪い私は半分だけ繋がりを残しておいた。そうすれば何かあった時に対処できると思っていたし、あわよくば魔力だけを吸いだし中の子供を守れないものかと画策していた。
しかしそれはティアマトを倒すことと、藤丸や自分を救うことで全部失ってしまった。


掌を見れば汚れも何もないいつもの掌が見える。けれど、の目には真っ赤な血が見えた。
あの時、ギルガメッシュ王が藤丸を庇って傷を負った時、私はギルガメッシュ王を助けようとした。溢れ出る血を止めようと縋りつき両手で塞いでみたが指の隙間から真紅の血が後から後から流れてきて。

その時はイシュタルに魔力を全部あげてしまった後だったから残すはお腹の魔力だけだった。
1人の身体を分けて魔力が保持できるなんて正直驚きだったけど、その時のは迷うことなくギルガメッシュ王の回復に使おうとした。どんなに勝手な子供でも囲っているのはで主導権も持っている。
無理矢理にでも行使しようと思えば行使できたのだが最後まで彼を助けることはできなかった。


「王様、断るんだもんなぁ」

自分が死ぬかもしれないという時に「今使うべき時ではない」といってを留めさせた。の気持ちを知ってるくせに"彼女"の想いも知ってるくせに頑なに拒否したギルガメッシュ王を思い出すと怒りさえ湧いてくる。

手を見つめ、そして目を閉じると彼に抱きしめられた感覚も思い出した。
離れる手前、片手でも抱きしめてくれたことは嬉しかったけど、一緒に死ぬこともできなかったという考えが生まれてしまった今では捨てられた気持ちの方が大きい。

服も手や腕も赤く染まっていく中、ギルガメッシュ王は笑ってを引き離し藤丸に押し付けたのを思い出しやっぱり少し腹が立った。
けどまあ、そのお陰では生き残れたわけで。帰ってきた早々昏倒して惰眠を貪ることになったけど生きて帰れたことを考えれば回路が壊れたくらいどうってことない話だろう。


「よし。回想終わり!」

大きく息を吐き布団を再び被ったは時間を確認して目を閉じる。あと数十分経ったらソロモン王と対決する。それまでに少しでも回復して藤丸達の手伝いをしなくてはいけない。
壊れた魔術回路も元に戻ることはないが元々知らなかった回路なのだ。今更使えないと嘆くこともない。それに有難いことに自分にはカルデア職員としての仕事が残っている。やれることはまだあるのだ。

「いつか藤丸がギルガメッシュ王を召喚したりするのかな…?」
失恋に似た深い悲しみをどうにかできるほどの元気はまだない。

いつかは思い出になり、あの時過ごしたまま同じ姿だけど見知らぬギルガメッシュ王と再会しても泣かずにすむだろうか。勢い余って殴ったりプロレス技をかけないように気をつけないとな、と思いつつ目を閉じる。


「さようなら、ギルガメッシュ王」


目に浮かぶのは愛しいと思った大好きな人だった。その、呆れるけども微笑む顔にきっと大丈夫、と思うと鼻頭がツンと痛くなり涙が滲んだが、無理矢理笑みを作り瞼を閉じた。