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やりづらい…。やりづらいこの上ない。
夏のインターハイ予選3日目。音駒高校男子バレー部の応援に来ていただったがうんざりとした顔をし、わかりやすく溜息を吐いた。

びっちり並んだトーナメントの試合を消化し、出ている高校も応援している人も大分減ったがベスト8を決める試合だというのに隣のコートの応援が決勝に進むのか?といわんばかりに多くはみ出していた。
決勝リーグ以外は大体高校や大学の体育館を借りるので部員や関係者が応援できる2階は大分狭い。席もない。下手をするとその2階もないとこさえある。

それなのに分けられた半分を超える形で密集して居座る隣の学校応援団に溜息どころか睨みつけたい気さえする。
どうせなら相手校の方に行けよ。あっちスカスカじゃないか。こっちは別の学校の試合中なんだよ!頭の中でそんな文句を垂れ流しながら耐えるような顔で音駒の試合を応援するのだった。



「さっきの試合、隣の応援煩かったね〜」
「そうそ!人数制限した方がいいんじゃん?て思うくらいいっぱいいたよね」
「降りる時も通れないくらい人いて邪魔で仕方なかったよね」

暑そうに手で扇ぎながら日陰で飲み物を飲んでいると一緒に来ていた友達が先程の応援側を愚痴ったので同意した。

試合もひと段落したので蒸し風呂みたいな体育館から外へ逃げてきたのだが晴天の夏の日差しはかなり鋭く、軽く悲鳴を上げながら日陰へと避難したところだった。
外は外で冷房がないので暑いことに変わりないのだが体育館で蒸されるよりは幾分かマシで、たまに吹く風が汗を冷やして少しだけ気持ちがいい。


「音駒、試合に勝ったからよかったけど、負けたら絶対アイツらのせいにしてやるって思ってた」
「私も私も」
「マジでなかったよね。相手校の応援じゃなくて隣に応援の邪魔されるとかシャレになんないよ」
「あかねちゃん音頭とってくれてたけど横広がりだと音拾えないんだよね」
「静かなとこならまだしもあんだけ騒いでたら届かないよ。隣の方がよく聞こえてたくらいだし」
「観客席ないから応援人数も少なかったしねぇ。うちらの倍以上いた隣には勝てないよ」

争うべきはそっちじゃないのに、と溜息を吐くと両隣の友達も一緒に溜息を吐いた。

友達はどちらも高校の級友で『バレーの応援行かない?』と誘って簡単にOKをくれる気の合う子達だ。
去年も今年も面白がって来てくれて最近は音駒がいなくてもバレーの話をしてくれるくらいにはハマってくれているみたい。


「それにしても夜久先輩格好良かった〜あんな早いボールをあげるんだもん!」
「そうそう!繋ぎ方もダントツ上手いし、絶対無理だーって思うやつも拾ってくれちゃうから安心感半端ないっていうか、ホレちゃう?みたいな」
「わかる!射止められちゃうよね〜」
「可愛くて格好いいとか夜久先輩罪深い」
「尊いよね〜」

胸を押さえ、ほうっとうっとりした友達に同意しながら頷くと別の友達がペットボトルを閉め思い出したかのように口を開いた。

「そういや山本もいい仕事してたんじゃない?」
「アイツ去年ポカ多かったけどちゃんと練習してたんだね〜」
「ん〜まぁそうだけど、あれは大体孤爪のお陰ですから〜」
「出たよ。孤爪以外に厳しい先生」
「確かに山本上手くなったけどさっきの試合もヤバいとこありましたので〜それを夜久先輩がフォローしてくれましたので〜」
「結果オーライなのに責めてくこの小姑感」
「孤爪に無駄な仕事をさせる輩は重箱の隅をつついて攻めて行きますよ〜って。そこまで鬼じゃないよ」
「「そこまでだよ」」

自覚ないのか、とつっこまれ、は「え〜?」ととぼけたが半分くらいは自覚していた。


何を隠そう孤爪研磨とは小学校からの長い付き合いの『友達』なのだ。まぁ紆余曲折あって今は『同小のよしみ』程度だけど。
そのよしみ程度が何でわざわざ予選大会に来て狭いギャラリーの中応援していたかといえばそのよしみだから、の他ない。

小学校の頃の研磨は背も小さかったし猫背気味だし、ヒョロヒョロで体力も大してなくてちょくちょく熱を出しては寝込んでいた。

その研磨が未だに弱音を吐かず、投げ出さず、合ってるかどうかといわれると微妙なバレーを続けているというのはにとって青天の霹靂だった。
その上、セッターという格好いいポジションにつきしっかり活躍までしている。これを応援せずにいつ応援するんだって気持ちになってしまった。

ぶっちゃけ小学校以降同じクラスにならなかったし、なんなら話しかけなければあっちから話しかけられることなんてほぼないけど、小学校から知ってる自分としては彼の活躍が身内のように嬉しくて余計なことだとわかっていても応援したくなってしまったのだ。


は偏りが激しいんだよね〜あかねちゃんみたいに公平に見れないの?」
「え〜あかねちゃんと比べるなし」
「あかねちゃんの洞察力凄いよね〜聞いてると選手よりも分析できてんじゃん?て思うことあるし」
「兄貴があんなんだから逆に冷静に分析できるようになったんじゃない?山本って直情型であんま考えなさそうだし。つーかさっきの試合もちょいちょい暴走してつっこんでたし」
「それわかるかも。片方が煩いと冷静になるよね。あとあそこんち全然似てない」
「「いえてる」」

友達の最後の一言でゲラゲラ笑っていたが笑いを収めた友達が「げっヤバ!」と時計を見て慌てだした。倣って見れば次の音駒の試合がすぐそこまで迫っている。

「どうする?」
「どうしましょ」

ここから走ってももう味方側のギャラリーは埋まっていて端の方しか空いていないだろう。もしかしたらさっきの試合並に隣の応援数が多いか煩いかもしれない。

応援しかしていないが思ったよりもさっきの試合で大分体力というか精神力が削られていた達は顔を見合せ「どうせ見る場所ないし」といって浮かした腰を落とした。


「次の試合で負けたらどうする?」
「その時はその時っしょ。別に誰かに怒られるわけでもないし応援負けしない程度には人数揃ってるから問題もないだろうし」
「孤爪はいいの?」

今日来ている音駒応援団はあかねちゃんを筆頭にバレーに熱心な人達で構成されているのだ。声も張れるしバラバラな応援もしない。自分達がいないくらいで揺らぐようなことはないと息を吐くとすかさず友達がつっこみを入れてきたので半目で彼女を見返した。


「…孤爪が誰かの応援ごときでテンション上げ下げしてたらアップルパイ作ってお祝いのクラッカー鳴らして出迎えるよ」
「どっから出たアップルパイ!…あ、好物か!孤爪可愛いな!つかアンタは母親か!」
「孤爪って超クールだもんねぇ〜」

報われないねぇ、と同情するように両側から肩を叩かれ「いいんですよ。自己満足ですから」と投げやりに返した。

よく言えば研磨への愛情表現…悪く言えば下手くそ自己アピールだ。
お礼を言われたくて来ているわけじゃないが、いることは知ってほしいし応援していることもわかってほしい…というストーカーだ。

最近、自分のストーカーぶりが気持ち悪くて研磨との距離が縮まらないのでは…?という考えにやっと至った為応援に行くのを控えようかと考えているところだ。

「(応援行かなくても気にしなさそう、て簡単に思えるのがなんとも寂しい話だけど)」

本当、研磨はクールだからなぁ、と肩を落としたは心の中で試合頑張れ〜とエールを送るのだった。