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春高本戦に進むにあたり、東京は3枠あるので3位までに入れば出場できるのだがそんなことを考えた自分には両頬を思いきり叩いた。
近くに居た友達はぎょっとしていたが試合が始まる前から弱気はよくないと叱咤する。


さん!」
「あかねちゃん!…って今日は気合入ってるね!」

会場外、音駒応援団の集合場所に辿り着くとあかねちゃんがいち早くこちらに気が付き声をかけてくれた。本当、山本の妹とは思えない程可愛くて気が利くなぁ。
そんな彼女に挨拶したのだが、昨日まではなかった大きな拡声器に目をやった。

「観客席広いし他の応援ももっと気合入れてくるだろうからこっちも音で対抗しなきゃって思って借りてきたの!」
「そうだね。梟谷って吹奏楽やチアも入ってたりするから…多分今日はどっちもいそう。決勝かかってるし」
「お互い本戦行きをかけた勝負ですもんね!応援も負けてられませんよ!!」

拳を作り闘志を燃やすあかねちゃんにうんうん、と大きく頷いていると、あかねちゃんがこっちをジッと見つめるので小首を傾げた。


「良かった。さん達もう応援に来てくれないかもって思ってたから」
「え、そ、そんなことないよ!!」

どうやら前回の応援で途中離脱していたことがバレていたらしい。人数少なかったからしょうがないのだけど。
今回は最後まで応援するよ!とあかねちゃんに宣言すればホッとした顔で大人達の中へと戻って行った。

「ま、孤爪と仲直りできたし?天敵の黒尾先輩とも仲良くなったしね」
「なっ仲良くなってねーし!」
「そうか〜?文化祭でお迎えからの2人きりデートを楽しんだのではないかね?ん?ん?」
「その後の孤爪とのデートの方が10分長かったですぅ〜孤爪と一緒の方が断然楽しかったです〜」


むちゃくちゃ美人な灰羽くんのお姉さんと話しているあかねちゃんを眺めていると、後ろからニヤニヤと友達が先日の文化祭でのことを引っ張り出したので嫌そうな顔で言い返した。
確かに孤爪と再び話せるようになったのは黒尾のお陰だけど別に仲良くなんかなってねーし。いつも大体黒尾が喋ってるだけだし。

「とかいってもねさん。ああ見えて黒尾先輩結構モテるんですよ?それにバレーやってる黒尾先輩って純粋に格好いいと思わん?」
「一生懸命何かに打ち込んでる人は格好いいでしょうけども!それ全員にいえることなので!」

音駒バレー部は全員格好いいですわ!と宣言するとワンテンポ遅れて「まぁ、それは一理あるわね」と同意したもののとても残念そうに見られた。


黒尾がモテるのは認めたくはないがわかっていたことだし今更驚くほどのことはない。
そんな黒尾と仲良くしているのだから、といわれてもその『仲良く』が上辺だけで中身は殆どないのだ。

あくまで研磨と話せるようになる為の布石。いわば踏み台。
黒尾にとって何の利点があるかはわからないけど乗っかておくことに越したことはないので話を合わせているだけだ。

そこまでお互いわかっているだけに友達、なんて言葉はおこがましいだろう。
まあ、本戦に出場したらお祝いくらいいってやらなくもないけど。


何にしてもまずは予選突破。しっかり応援してやりますよ、と気合を入れて会場入りしたのだった。