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3年の教室に戻ってきた黒尾は立ち止まるとポケットに仕舞っていた右手を取り出しぼんやり見つめた。
知ってたけど小さいし柔らかいしすぐ折れちゃいそうだったな…と先程握ったの手を思い出していた。

「(というか、いきなり挙動不審になるし…手握ったのが悪かったのか?…キモいとか思われてたらどうしよう…)」

なんとなく流れで握ってしまったのだけど、以前クラスTシャツを褒めたらハラスメントと引かれたくらいだ。
まさかそこも地雷じゃないよな…?と悩んでいるとすぐ横をクラスメイトが追い越していった。


「自分の手ェ見つめてどした?予鈴鳴ったぞ」
「おーすぐ行くわ」

声をかけながらさっさと教室に入っていくクラスメイトに返しつつ、自分も教室へ戻るべく足を動かした。まぁ、別れ際の感じはそこまで悪くはなかったはず。むしろ、

『早く、治るといいですね…』
「(どっちかっていうと照れ隠し、だよな…)」

俯いてて表情は殆ど見えなかったが最後の最後に聞こえた言葉は黒尾の怪我を心配するもので、いつものように癇癪を起してはいなかった。

そのギャップに多少戸惑っているのだが、思い出せば思い出すほど口許が緩むというかソワソワと落ち着かない気持ちになるというか。
そしてそれを指摘すれば確実にムスッとした顔で睨まれるのも安易に予想できて思わず吹き出しそうになった。


「黒尾!何ニマニマしてるんだ!さっさと席につけ」
「…へーい」

間に合うように戻ったはずが教師の方が早く到着し、黒尾はクラスメイトに笑われながらそそくさと自分の席に戻った。
しかし席についてもソワソワとした気持ちは抜けず、授業を適当に聞き流しながら目を閉じる。

するとボールが跳ねる音やスキール音がはっきり聞こえ、目を開けても体育館にいるような感覚になった。


「(あー早くバレーがしてーなぁ)」

研ぎ澄まされる神経や、滴り落ちる汗。早い心拍数と上がる息を思い出し、視線の先にある自分の右手を見てしみじみとそんなことを心の中でぼやいたのだった。