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「けーんーまーくーん!あーそびーましょー」

喉かな一軒家の玄関先で日向ぼっこする三毛猫に見守られながら声をあげると少し間を空けてからゆっくりと引き戸が開いた。
応対してくれたのはこの家の家主で中途半端だった金髪は大半が切られ、無造作に後ろで括られている。顔はとても不満げだ。

「やほー。遊びに来ました〜」
「…来るのはいいけど、呼び鈴あるんだからそっち押してよ」
「でも大抵ヘッドフォンして聞こえないでしょ?」
「玄関で大声出されるよりマシ」

以前何度も呼び鈴を押して「気、短すぎだから!」と怒られた事件があって、それで呼びかけるようになったのだが家主はこれでもかと嫌そうに顔を歪め「近所迷惑」と背を向けた。

うーん。日に日に研磨の不機嫌な顔がクセになってきてるんだけど。変な性癖が目覚めちゃったかな、とへらりと笑った顔で足を踏み入れた。


「はい、これおばさんから。冷蔵庫に入れとくから後で食べてね」
「うん、」
「今日の予定は?」
「今日はオフ。いつもいってるけど、頼まれたからってわざわざが来なくてもいいんだからね」
「私も研磨の様子見たかったからいいんですよ〜あ!今日はアップルパイもあるよ!」
「俺、母親2人もいらないんだけど…」

テーブルに置いた袋の中からアップルパイが入った箱を取り出すと研磨の目がキラリと光ったが、それを隠すように口をへの字に曲げて不機嫌そうに装うのでたまらず噴出した。


切り分けたアップルパイと紅茶を注いだカップを研磨に与えると腕を捲くり、髪を括った。

「んじゃ掃除始めちゃうね〜」
「…もう少しゆっくりしてれば?」

アップルパイで頬を膨らませる研磨には「いーのいーの」とひらひら手を振った。

「明るい内にやっちゃいたいし。あ、ゲーム部屋で触っちゃまずいのある?」
「んー…置いてあるもの、あんま移動しないでくれれば大丈夫」
「了解。まぁ触っちゃマズそーなやつはそのままにしとくから。自分でやってね」
「うん。お願い」

ゲーム部屋というかゲームとパソコンの家なのだけど。廊下に出たはまずは水回りかな、と風呂場に向かった。


精密機械がある為、空気清浄機があったり簡単だけど小まめに掃除もしているみたいだけど、水回りや機械周り以外はなかなか雑だったりする。
研磨のお母さんも来た時に掃除をしていくが、ほどは来ていないみたいなので暇を見つけては遊びに来て家政婦をしている次第だ。

「(まぁ、ただの口実なんだけど)」

気づいたら在学中に大金稼ぎだしたり、会社作って社長になったり、ネット開いたらファンが大勢いたりと、目がチカチカする情報ばかりでこの家の家主から目が離せないのだ。

しかもあの烏野の日向くんのスポンサーになってるのも驚きだったし(この件に関しては日向くんが海外に行ってることもビーチバレーをやってることも驚きだったけど)。
かと思えば私生活は学生時代と大して変わらない研磨で、そんな研磨を見てるとどうしてもあれこれと手伝いたくなってしまうのだ。

外を見やれば自分の家よりも広い庭があって次は草むしりしないとなぁ、と意気込んだ。


掃除が終わるとはキッチンに立ち夕飯を作り出した。
今のところ味に文句をつけられたことはないので特に何も考えず作業していたのだが、何故か訝しげな顔で研磨がひょっこり顔を出した。

…帰らなくていいの?」
「これ作ったら帰るよ」

あれ。もしかしていらなかった?と聞けば否定されたが研磨の歯切れが悪い。スマホをチラリと確認した彼は再度の方を見ると、

「別に一緒に夕飯食べてもいいんだけど、明日誕生日でしょ」
「あ、そういえば」

今日の朝までは覚えていたけどアップルパイを選んでる内に忘れてしまっていた。
覚えててくれたんだ、ありがとう。と礼を言うと研磨は呆れた顔で「お礼言うの早過ぎるし」といって小さめの紙袋を差し出した。


「え?」
「ちょっと早いけど誕生日プレゼント。本当は後で渡すつもりだったんだけど来ちゃったし」

今日来ちゃったら次来るの少し空けてからになるでしょ、というので慌てて手を拭いたは両手で紙袋を受け取った。

「今日掃除してくれた給料代わりでもいいけど」
「…ま、まさかこの包の中には札束が…っ」
「そんなわけないでしょ」

闇取引じゃあるまいし、と呆れる研磨に「だよね〜」ケラケラ笑っておいた。

でも私は知っている。前もポン、と軽くて小回りの利く最新掃除機や、私専用に肌触りが最高に気持ち良いクッションを用意してくれたことがあるのだ。
ちなみにクッションは初めて使った時あまりの心地よさに私をダメ人間にしたとを記しておこう。


「じゃあ食べ物?」
「秘密。家に帰ってから開けて」
「…じゃ、明日開けようかな」

誕生日プレゼントですから、と破顔すると「好きにしなよ」と研磨が小さく笑った。レアだ。
紙袋の中をウキウキと覗きながら改めてお礼を述べると火をかけていた鍋が騒ぎ出したので慌ててキッチンに戻った。