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夕飯の準備も終わり、さて帰ろうかなと捲くった袖を下ろしたところで研磨が「夕飯食べてけば?」と誘ってくれた。どうやら気分が変わったらしい。

「いいの?あーでも、帰るのの遅くなっちゃうしなぁ」

都心じゃないから終電も早いし、帰宅ラッシュ時間過ぎると本数も一気に減るのだ。

研磨と夕飯を一緒に食べるのはとても惹かれるし誘われて嬉しいけどちゃんと帰れるかな、と自分の端末を出した。
とりあえず時間を調べてから、とタップしたところで呼び鈴が鳴り、応対する前にドアがガラリと開いた。


「あれ。クロ先輩」
「あれ、クロ先輩。じゃねーよ。まったく、こんな時間までいたら家に着くの遅くなるでしょーが」
「え、そこまで遅くないし」

誰かと思えばやっと見慣れてきたスーツ姿の黒尾が入ってきて、靴を脱ぎ「夜道は危ないんだから1人で帰るなっていつもいってるだろ」と母親みたいなことを言って両腕を組んだ。

「クロ、遅かったね」
「これでも飛ばしてきたっつーの。ったく、何でこんな遠いとこに引っ越したのお前」
「遠くないし。そもそも家が隣同士とか、そっちの方が近過ぎると思うけど」
「もしかして、連絡したの?」

幼馴染は仲良しアピールよろしくで文句を言い合っていたが、聞く限り研磨が黒尾を呼んだらしい。並ぶ2人に首を傾げれば呆れた2つの顔が同時にこっちに向いた。


「だって連絡しないとクロが怒るし」
「怒りませーんー!ボクは大人だからそんな嫉妬みたいなことしーまーせーんー!」
「………」
「…なにその"面倒くさいから早く帰ってよ"みたいな顔は」
「"面倒くさいからもう帰って"」
「あはははっ!」

うんざりとした顔で吐き捨てる研磨にたまらず笑えば、ジト目の黒尾が「迎えに来たのに笑うんじゃないの!」と怒られた。

折角誘ってもらった夕飯だけどお迎えが来たので大人しく帰る準備をしていたら、が夕飯を作ったと知った黒尾が恨めしそうに研磨を見ていた。


「これは俺のだから。クロにあげないよ」
「…お前、最近俺に反抗的じゃない?」

俺まだ何も言ってませんけど、と口を尖らせたが「顔に書いてあるし」と指摘してニヤリと悪い顔で笑っていた。完全に挑発してらっしゃる。

「はいはい。帰りますよ〜さっさと靴履いてくださーい」

じりじりと睨み合う2人に割って入ったは黒尾の背中を押し、玄関へと追いやった。
「夕飯が、」とか「研磨ばっかりずるい」とかいじけた声が聞こえたが聞かなかったフリをしても玄関の向かった。


「それじゃあね」
「うん。掃除ありがと」
「…お前、飯だけじゃなく家政婦もしてたの?」
「うん。お陰で腕パンパン」
「あのなぁ。そういうことすっから研磨の奴自分で掃除しなくなんのよ?わかってる?」
「少しはしてるし。草むしりは嫌だけど」
「あーそれ。次来た時にやるから。軍手とあと何持ってけばいい?」
「軍手もいらない。こっちで用意しとくから。が扱えるなら草刈り機も買っとくけど」
「マジで?!やりたいやりたい!」
「ちょっと研磨。をもので釣るな!それからも!研磨を甘やかすんじゃない!」

その分俺との時間なくなるでしょうが!と可愛いことをいう黒尾だったが草刈り機に興味があったは簡単に了承し、ツンツントサカ先輩を撃沈させた。


「ん?。その紙袋は?」

玄関まで見送りに来てくれた研磨に「またね」と挨拶したところで、肩を落としていた黒尾がが手に持っている紙袋に気が付いた。

特別目立ったものではなかったが彼氏の勘か、不審な顔で中を覗き込もうとするので「研磨からの誕プレだから見ないでください」と後ろに隠した。

「はぁああ?!ちょ、何彼氏差し置いて先にプレゼントあげてるわけ?」
「別にいいじゃん。プレゼントくらい」
「よくあーりーまーせーんー!俺からのプレゼント貰っても感動が半減しちゃうでしょうが!」
「クロ先輩乙女〜…」

付き合ってみてわかったことだがこの男、意外とロマンチストなのだ。
可愛いところだとは思うけど研磨と引いた顔で見ていれば「帰るぞ!」との手を掴み研磨の家を後にした。



「クロ先輩、」

手を振り返してくれた研磨に満足して車に乗り込んだはムスッとした顔で運転している彼を呼んだ。
思ったよりも夕飯とプレゼントを根に持ってるみたいだ。

「今日は先輩の家にお泊りしてもいいですか?」
「ん、」
「帰ったら先にお風呂使ってもいい?」
「ん、」
「夕飯はそれからでいいかな?」
「ん、」
「せーんぱい」

ぞんざいだけどちゃんと返してくれる黒尾に笑みを漏らしながら彼をもう一度呼ぶと、赤信号で止まったところで顔がこっちに向いた。
まだ不機嫌って顔をしてるけど、形だけっぽくも見える。


「いくつになってもプレゼントって嬉しいけど、"彼氏"からのプレゼントは"特別"だなって思うんですよね」


研磨からのプレゼントは嬉しかったし他の人達でも同様だけど、黒尾から貰えるプレゼントはもっと嬉しいよ。と伝えれば、黒尾は目を丸くして何度か大きく瞬きをした。
そして青になったので前を向きアクセルを踏んだのだが、チラチラとこっちを見てくるので危うく噴出しそうになった。


「…許す」

口をもごもごと動かしながら(きっとニヤニヤしたいけど頑張って不機嫌を装いたいんだろう)紡いだ言葉は、嬉しさがにじみ出ていて今度こそ噴出してしまった。