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黒子テツヤ君には返せない多大な恩がある。
中学の頃、自暴自棄になった自分を助けてくれたのは黒子君だった。イジメのせいで人嫌いになった自分の背中を押して引き籠りから引きずり出したのも彼だった。

正直その時は本当にきつかったし恨みもしたけど今となってはおおよそ感謝してる。
"おおよそ"。まだ若干許せていないところがある、というのは否めないけど。


さん。ボクにいつか恩返しがしたいといってましたよね」
「う、うん。いったけど…」

本日の授業もSHRも終わり、さて帰ろうかと鞄を持ったところで目の前にガラス玉のような目でを見つめる黒子君が立っていた。

この子はいつもそうだ。
気配なく現れて、妙に近い距離で驚かせてくる。1年の頃もよく追いかければ撒かれて諦めると出てくる猫のような子だった。

はいきなり現れた友人にビクッと肩を揺らせたが、そんなこともお構いなしに話しかけてくる黒子君に微妙な顔になりながらも頷いた。


「じゃあ、今返してもらえますか」
「いい、けど…何するの?…って!」

恩人の願いを無碍にすることができなかったは不承不承頷いた。このタイミングで話しかけられるのあまりいい予感しないんだけど、と思いつつも理由を聞こうとしたらその前に手を掴まれ教室を後にした。



どこ行くの?と黒子君を見るとバッグを肩から下げていて部活に行くことは見て取れた。
しかも彼の隣には当たり前のように大きな体躯で威圧感丸出しの火神大我が歩いていて眩暈がする。ついでに火神と目が合ったせいで心臓は挙動不審になり吐き気を催した。

でか過ぎる人苦手なんだよ私。黒子君も知ってるはずなんだけど。

「誰コイツ。黒子の知り合いか?」
「友人です……火神君、クラスメイトの名前と顔まだ合わないんですか?」
「え、マジ?」

赤毛交じりの火神はぎょっとした顔で黒子君とを交互に見てバツの悪い顔で前を向いた。まあ、入学してから今日まで話したことなかったからね私達。

覚えてもらう予定もなかったんだけど…との手を引っ張る黒子の背中を見つめ溜息を吐いた。今日の占い、下から2番目だったもんな。


占いで人生を決めるのもいかがなものかとも思うが黒子君は案の定体育館へと向かい、少し開けづらい引き戸を開けた。
中には運動部、というかバスケ部員がモップ掛けをしていてその手前には先輩らしき女子がこちらを見て少し驚いたように目を見開いた。

「カントク。この間猫の手でも借りたい、っていってましたよね?」
「え、ええ。いってたけど」
「助っ人を連れてきました」
「「は?」」

驚いたのはそこにいた全員だった。
も何をいってるの?と黒子君の後ろ頭を見つめればわかってるかのように彼が振り向き「さんは運動部初心者ですけど、根は真面目な人なので多分大丈夫だと思います」と付け加えた。多分なのかよ黒子君。



いや待て。その前に何それ。そんな話聞いてないんだけど。いや、恩人に何かしら恩返ししたいのは本当だから役に立てるならするけどそれがこれ?

いやいやいやいや!私が中学時代どんだけバスケットから遠ざかっていたか忘れたの?!今まさに拒否反応でお腹ぐるぐるいってるんですけど。下手するとトイレ直行しちゃうくらい吐き気も出てきてるんですけど!

まさかと思うけど助っ人ってマネージャーじゃないよね?と顔色悪く茫然とした顔で黒子君を凝視していれば自分の目線よりも少し低いショートヘアの"カントク"さんがを呼んだ。


、さん?」
「あ、です…1年B組です」
「顔色悪いけど大丈夫?」
「えと」
「大丈夫です。少し緊張してるだけなので」

おい待て。何故黒子君が答えるのよ。しれっとカントクさんに返す黒子君に途方に暮れた顔になったがカントクさんは顎に手を当て少し考える素振りを見せた。そのままなかったことにならないだろうか。

「手伝いって力仕事も結構あるけど大丈夫?」
「た、多分…」

体力は普通だけど不安しかないです。この顔色を見て諦めてくれないだろうか、と名も知らないカントクさんを見ていたが彼女は無残にも「わかったわ。採用よ」と死刑宣告を発した。嘘でしょ。



「ちょ、黒子君!黒、待ってってば!!」
「……」
「…テツヤ君!」

今日は見学でいいから明日からよろしくね、と簡単に決めてしまったカントクさんを諦めたは着替える為に出て行こうとする黒子君を呼んだ。

が、何度苗字で呼んでも止まってくれず、名前と手を掴んだところでやっと彼が振り返ってくれた。黒子テツヤ君、恐ろしい子。


「ちょっと、私が苦手だってこと知ってるでしょ?!見える?私涙目なんですけど!手だって震えてるし拒否反応で胃液が喉まできてるんだけど!それなのに」
さん。いい機会ですからバスケ部に入って慣れてください」
「慣れるって…」
「クラスに入ることも慣れたんです。バスケだって慣れますよ」

大丈夫。さんならできますよ。やんわりとが掴んだ手を振りほどいた黒子君は表情を動かさないまま、ふわりとの頭を撫でて体育館を後にした。




2019/06/03
勢いのみの文章で黒バス(アニバス)を始めました。よろしくです。