2


「おはようございます!遅くなりました!!」

ある晴れた朝、集合場所だった体育館前に行くと先輩達が揃っていた。
マネージャーは選手よりも早く来て準備をする必要があるとどっかの本に書いてあったので集合時間の15分前に来たのだけどそれよりも早い先輩達にマジか、と冷や汗を流した。

マネージャー成り立てとはいえ、先輩達よりも遅いとは…。申し訳なさそうに「すみません…」と謝ればカントクの相田リコ先輩が「おはよ」といっての肩を叩いた。


「こいつらは気にしなくていいから。みんな試合に緊張してろくに眠れなかっただけだもの」
「そ、そうなんですか?」

驚き主将である日向先輩や他の先輩達を見やると彼らはぎこちない顔で笑ったり頭を掻いたりして視線を揺らし「ま、そんなところだ」と同意した。


「なんせ今回は"キセキの世代である黄瀬"がいるだろ?どう対抗すべきか色々練ってる内に、な」
「俺も時間より早く起きちまったからロードワークしてきたわ」
「それ、最後まで持つのかよ」
「……ロードワーク…は!」

『黄瀬』という名前にどっと胃の辺りが重くなったが知らないフリをした。
伊月先輩が何か思いついたように手帳を取り出しいそいそと書いている横では「つーか、2年だけ緊張して落ち着かねぇとかしまらねぇ話だな」と日向先輩が苦笑交じりに笑うと「そんなことありませんよ」と隣から声が聞こえた。

「ん?何かいったか?」
「いえ、私じゃなくて…」
「ボクもいつもより早く目が覚めてしまいました」
「うおおっく、黒子?!」



日向先輩がを見てきたので仕方なく隣に視線を向けるといつもの何を考えているんだかわからない顔の黒子君が片手をあげ「おはようございます」と挨拶し、みんなを驚かせた。

「い、いつからそこに…?!」
さんとほぼ同じくらいに」
「マジかよ…」
「能力としては凄いけどやっぱり慣れないわね…」

殆ど最初からじゃねぇか、と零す先輩達には肩を竦めた。あたかも幽霊が現れたような表現だ。
中学の頃もこんな感じだったなぁ、と遠い目をしていると小金井先輩が「は驚いてねぇけど来たのわかってたの?」と聞かれたので正直に頷いた。


「流石に後ろに立たれると気づきにくいですけど、横にくれば視界に入るので」
「いや、そりゃ見えれば気づくけど」
さんは中学の頃ボクのお目付け役だったのでボクを見つけるのが得意なんです」
「……お目付け役って…それつっこんだ方がいいか?」
「日向君。黙って」
「ただ単に黒子く…テツヤ君の影が薄くて忘れられることが多かったので私が探す係だったんです」

中学校に入学した最初の隣の席が黒子君だった。それが縁で何かとセットで見られるようになって気づいた頃には黒子君探索器になっていた。
まあ大体はその場にいるけど見えないだけなので視線を巡らせればすぐみつけられるのだけど。

でも先生も他の人達も隣にいても気づかないことが多い。黒子君の影の薄さは本当一体何の為の特技なのだろうか。



「そういえばミスなんとかションの実験体にされたの思い出した」
「ああ。そんなこともありましたね」

何も考えてないようでかなり考え込んでる黒子君に気づいたのはもっと後だったけど、あの時もそれなりに思い詰めていたのはなんとなく感じていた。

でも何もできないだろう、と不安になりながらも見守っていたら、黒子君が悪戯のような嫌がらせのような変なことを始めて。お陰でいたはずの場所から消える黒子君を慌てて探す日が何度もあってとても苦労をしたのを覚えている。

その結果がバスケ部の1軍入りだというのだから…聞かされた時は驚きと一緒に呆れてしまったのも思い出した。


「あれ、待って。さんって帝光中だったの?」
「はい。といっても私はバスケ部ではなくて帰宅部でしたけど…」

黒子君と繋がっていたのはクラスだけです。別に言い訳をしなくてもいいのだけど帝光中はバスケが強くて隣にいる黒子君はその連戦連勝だったバスケ部のレギュラーだった人物だ。
そんな彼が高校のバスケ部にわざわざを連れてきたとなれば何かしら意味がるんじゃないかと勘繰られそうな気がしたのでそんな言葉を付け足してしまった。


私が助っ人に入った意味はないしたいした能力もない。ただのマネージャーだ。

そうだ。マネージャーの仕事をしなくては、と相田先輩に話をして部室に向かおうとすると他の1年生もやってきて「来ないのは火神だけかよ!」と日向先輩のぼやきがやたらと大きく校庭に響いた。




2019/06/03
素人発進で元帝光中トラウマ持ちで黒子ともクラスメイトでした。