3


でか過ぎる奴は苦手だ。
全員集合し、無事海常高校に辿り着いたは寝不足でいつもよりも目つきの悪い火神を遠巻きにして歩いていた。

しかし彼とよく並んで歩いている黒子君が救急箱等の道具をいれたバッグを持っているのところにきて荷物持ちを申し出た為に、当然の流れで火神とも並ぶことになってしまい内心溜息を吐いた。

これじゃ遠巻きにした意味がない。


「火神君もですがさんも目つき悪いですね」
「ああ?なんだよ。お前も寝不足か?」
「……」
「おい。シカトすんなよ」
「別に。私も寝不足だっていっただけ」

お揃いだなんて生易しいものじゃないけど面倒だから同意で返した。本当は寝不足な上にストレスでリバースした後なのだ。ぶっちゃけマネージャーとして入ってから今日まで吐かなかった日はない。

また吐き癖が戻ったらどうしよう、と吐いても残る気持ち悪さに胸の辺りを擦るとどこからともなく「どーもっス〜」と爽やかさしか感じない声が聞こえ肩が思いきり跳ねた。


前方には遠くにいてもわかるサラサラ金髪くんがにこやかに手を振っている。ケンカを吹っ掛けるかのように乗り出した火神に乗じては速やかに水戸部先輩の後ろに隠れ距離を取る。

彼に罪はない。
私が一方的に苦手なだけだ。



こっそり伺った黄瀬涼太君は相も変わらず格好良くてまた身長が伸びた気がした。彼は甘えるような声で黒子君に挨拶し火神のことを軽くスルーして体育館へと案内してくれる。
その間、は黒子君並の気配で息を殺しついて行くことにした。

多分そんなことをしなくても黄瀬君はこちらに気づくことはないだろう。というか黒子君以外興味なさげだ。辛うじて火神はあるかもだけど。
彼がこちらに気づくことはないとはいえ、の視界には黄瀬君がいるので緊張しない方が難しい。


「大丈夫ですか?」
「だいじょばない。帰りたい」

タイミングを計ってそっとの隣に来た黒子君に泣き言をいってみたが「すみません。それはダメです」と断られた。鬼だ。

「吐いても知らないからね」
「…他校なのでせめてトイレか外でお願いします」
「最悪だ」
「お前ら何コソコソ話してるんだよ」

黄瀬君を見てから余計に悪い意味で動悸が激しくなってて気持ち悪いというのにこの黒子君という人は…、とジト目で見れば前を歩いていた火神が肩越しから振り返った。


「火神君には関係ないことだよ」
「あ?」
さんは黄瀬君が苦手なんです」
「なっ?!」

何で喋っちゃうの?!と驚き黒子君を見やれば眉を寄せた火神も「はぁ?」とわけわからない顔で水色頭を見やった。



さんはイケメンアレルギーなんです」
「…なんだそりゃ」

なんだそれは。思わず火神と同じ言葉が喉まで出かかった。イケメンアレルギーなんて名前初めて知ったよ。というかそんな病名ないでしょ。

呆れる火神と入れ替わりに眉を寄せたは「余計なこといわないでよ」と黒子君の脇腹にパンチすると「間違ってはいないんですからいいじゃないですか」と飄々と返されてしまう。せめて痛そうな顔くらいして。


「だからさっきから変な動きしてたのか」
「何で気づいてるの?!」

奇怪な動きしてっから何かと思ったぜ、とやっぱり呆れる火神には驚きの声をあげた。だって火神こそ前を見てて、黄瀬君を見て黒子君を見ていたのだ。私が視界に入るはずないのに!

身長的にも視界に入らない高さだと思ってたのに何故?!と驚き声を上げれば「いや、気づくだろ普通」と溜息交じりに返された。


「マネージャーが忍者みてーに誰かの後ろに隠れたり宙を見つめたまま無表情に歩いてれば誰だって不審に思うだろ」
「……マジですか」

そんなつもりはなかったがそこまでおかしい行動をとっていたのだろうか。周りを伺えばわかってる人達が苦笑でこっちを見ていて顔から火が出そうだった。
すみません、と素直に謝れば「大丈夫よ気にしてないから」と相田先輩が返してくれたがやっぱり恥ずかしかった。



「テツヤ君、私恥ずかしい。帰りたい…穴があったら入りたい」
「残念ながら帰せませんし落ちれる穴もないので諦めてください」
「テツヤ君の鬼!」
「どうしかしたっスかー?」
「ヒッ!」

顔を片手で覆いながら弱音を吐いてみたが黒子君は意に返さずは嘆いた。こういう時の黒子君は何をいっても聞き入れてくれないということを今更思い出したよ。

ちくしょう。意外と頑固でしたよね!と半泣きになったところで達の会話が聞こえないくらいの距離で歩いていた黄瀬君が振り返ったのが視界に入り肩が揺れた。


するとずいっと目の前に火神が現れを隠してくれた。その火神の向こうでは日向先輩が「いや、なんでもない。こっちの話だ」といって黄瀬君に取り繕ってくれている。

「ま、苦手っていうなら俺の後ろにでもいろ。そしたら視界に入んねーだろ」
「………あ、ありがと」

また歩き出した火神の後をついて行けばちらりとこちらを見てそんなことをのたまいを少しばかり驚かせた。そんな気遣いもできるのか。
意外過ぎて驚きを隠せなかったけどそれとなく礼を言えば火神は何とも言えない顔で鼻を掻き「…別に」と零し照れ隠しの様に前を向いてしまった。


でか過ぎる奴は苦手だ。
苦手だけど、でも火神はそこまで嫌いじゃないと思う。


この後テンションが上がってが後ろにいることも忘れ黄瀬君に吹っ掛けて株が暴落するのだが、この時のは水戸部先輩の次くらいには大丈夫な人かもしれない、なんて思っていた。




2019/06/04
180↑危険、190↑デッドライン、200↑息できないレベルです。
いやマジでみんなデカすぎじゃないのこの部活。