75.5 - 01


無事ウインターカップを優勝し、年も明けまた新しい1年と学校生活が始まったとある日、は颯爽と歩き同じクラスである黒子テツヤ君の席へと向かった。


「おはよテツヤ君!新刊もう買った?」
「おはようございます。いえ、まだです」

今日は朝練がない為教室での挨拶が最初になったのだが、の質問に黒子君は一瞬何の質問をされたのかわからない顔をしたが、すぐに理解したようでガラス玉のような瞳を丸くした。

それを見たはにんまり笑うと後ろに隠していた小さな包みを彼の前に差し出し「ハッピーバースデー!」と微笑んだ。


「なんだよ黒子。お前今日誕生日なのか?」
「違いますよ」
「あ、火神君おはよう」

おはようございます、と挨拶と一緒に否定してきた黒子君に火神は訝しげに眉を寄せると、どういうことだよ?との顔を見てきた。

「誕生日はもうちょい先なんだけど、お互い好きな先生の新刊が今月発売されるっていうから狙ってたの」

私の誕生日の時にフライングゲットされたからその時のお返し、と手渡せば「やられました…」と少し残念そうな黒子君がプレゼントを見つめた。


「書店予約をしていて今日受け取りに行くつもりだったんですが……では、それをさんに渡しますね」
「OK。金額もバッチリ控えてるからあとで渡すね」
「…それ、意味あんのかよ」

結局トレードじゃねぇの?と更に訝しがる火神には少し語調を強め「あるよ!」と彼を見上げた。



「1秒でも早く読みたいじゃん」
「では今日の帰り、本屋に付き合ってくださいね」
「はーい」

たとえ同じ日に手に入れたとしても早く手に入れられる方が嬉しいじゃないか!と豪語したが火神には「ふぅん」としか返してもらえなかった。
火神はバスケ関連とかジャンプ発売日に早く手に入ったら嬉しくないのだろうか。


そんな淡白な返しをしていた火神だったが休み時間黒子君が日直の仕事で消えたのを見計らっての席にやって来た。
話しやすいようにしゃがみこんでくれた火神をなんとなく新鮮な気持ちになって見てしまう。

「ちょっと聞きたいんだけどよ」
「うん、何?」
「こっちって誕生会みんなで家に集まったりして祝ったりとかしねーの?」
「するとこはするだろうけど、みんながちゃんとやってたのって小学生までじゃない?」


どうやら黒子君の誕生会をするのはどうだろう、と聞きに来たらしい。の友人関係も中学前半までは至って普通だったがわざわざ家に集まってお祝いする、というのは小学校くらいまでだったと思う。

その後は友達同士で放課後いつもと変わらないけどそれにかこつけて遊んだりプレゼントを貰ったり。場所は学校だったり塾だったり部活だったりとまちまちだ。

見えてる範囲でいえば男子も家に集まって誕生会をするという話を聞いていないからあまりしないかも、と教えたら火神が難しい顔をした。



「降旗君達の時みたいにみんなで部活帰りにマジバ寄って何か驕るとかでもテツヤ君十分嬉しいと思うよ」
「それはそうなんだけどよ……黒子には日頃から世話になってるし、の誕生日もちゃんと祝えなかったしな」

面白くなさそうに口を尖らせる火神に、自分の名前まで出てきて首を傾げた。あれ、火神の顔が益々怖さを増したのだけど何か失言でもしただろうか。


「お前"自分は祝わなくていい"とか先手打ってきたじゃねぇか!」
「ああ、あれはテツヤ君から貰った新刊が早く読みたかったから…」

だって2年も待った新刊だったんだよ?それを今読まずいつ読むというのよ。そんな気持ちでいたせいでマジバで何か驕ってやるよ、と優しい言葉を貰っていたにもかかわらず「気持ちだけ受け取っておくね」とお礼もそぞろに家に帰ったことを思い出した。

火神、もしかしてそのこと根に持ってるのだろうか。

「じゃあ、私は来年よろしくお願いします」
「今年じゃねぇのかよ!」

年越したばっかだぞ!と怒られはしゅん、と頭を垂れた。だって今年も多分好きな先生の本出るだろうし。そしたら読みたくなるだろうし。と思っていたのにダメらしい。


落ち込むを微妙な顔で見てきた火神だったが「じゃ、31日は黒子の誕生会な。んでお前の誕生会も"今年"やっからな」と勝手に決めていた。

火神って意外と記念日好きなのかな?とぼんやり考えているといつの間にか降旗君達の予定も聞いてきたらしく1年生みんなで黒子君を祝うことになっていた。
場所はどうするの?と聞いたら俺んちでやればいいとかいうし。なかなかの太っ腹だ。火神って黒子君のことになると一段と行動派だよね。



女子同士よりも男子の方が仲良く見えるかも、と授業を受けながらぼんやり考えたところでハタと我に返った。
そうだ。服あったっけ?一応負の遺産で残している昔の服があるけどサイズは少し大きいんだよな。しかも買うには手持ちが心許なかったりする。

欲しいゲームも何本かあるから服に回せるお金ないんだよなぁ。思ったよりも危機的状況に頭を悩ませていると机の下にこっそり入れていた携帯のランプが光った。

先生と周りを確認してこっそり開くとメールで、なんと相手は桃井さんだった。


先日、バッシュの件でお世話になった時、呼び方の変更と一緒にアドレスも交換したのである。
元帝光中のアイドルのアドレスを手に入れてしまったよ、とは打ち震えたけど、「学校でのテツ君の話聞かせてね」と至って普通に情報共有を申し込んできた桃井さんはなかなかの策士だった。

その桃井さんのメールを読むと『今月の31日って部活ある?』という質問だった。この時点でなんとなく察したが嘘をつく必要もないかと思い『ないよー』と返した。


「(……え?『その日、テツ君借りてもいい?』って……うーん、どうしよう)」

誕生会やるんだ、と返してもいいけどサプライズかどうかも決めてないんだよな。チラリと火神を見ると彼はいつものように眠そうに、というか半分以上寝ていてダメだこりゃ、と溜息を吐いた。

少し考えて『大丈夫だけど本人に聞いてみて』と打って返信した。あとは黒子君に任せよう。



31日の話は次の日にすぐに分かった。前半はキセキの世代でストバスをし、夕方から火神の家で誕生会をするという。
その話を聞かされたは「キセキの世代…」と顔を引きつらせたが自分には関係ないからまぁいいか、と思考するのを止めた。

さんも来てくれるんですか?」
「ん?ダメ?」

昼休み中、伺うように見てくる黒子君にもしかして男子同士の方が良かった?行くのやめようか?と聞くとそんなことはないと少し慌てた様子で返された。


「プレゼントもカードも貰ってしまったので…少し申し訳ないなと」
「それはそれ。これはこれだろ?」
「キミがいうかな火神君…」

どうやら2度お祝いされるのが気になったらしい。カードにおめでとう、てちゃんと書いてたしね。

でも火神じゃないけどそれはそれ、これはこれだからと思い「私もお祝いしに行くよ」といえば黒子君はホッとした顔で微笑んだ。




2019/09/19
というわけで番外編スタートです。人わんさか増えます。