75.5 - 07


「うげっ!」

凍え震える黒子君を連れて足早に戻ると宴の後のリビングを見て火神が固まった。みんなそれなりに片づけてくれたけどあれだけクラッカーを鳴らしたし人数も多かったのだ。

踏みつけたスナック菓子の欠片を見て紫原君だろうな、と遠い目をしたは肩を落とす火神の背を叩いた。何気に綺麗好きだもんね。

「青峰のヤロー、俺のお気に入りのDVD傷つけやがった…!」と憤慨しながら片づけている火神を眺めながらはお湯を沸かし、カップにお湯を注いで黒子君に差し出した。
溶けたティーバックから心地よい香りが鼻腔をくすぐり、もうひとつのカップにもお湯を注ぐ。


「火神君も一旦温まったら?」
「…いや、片づけてたら温まってきた」

青峰と紫原への怒りで血圧上がってるわ、と不機嫌な火神にカラ笑いを浮かべた。
火神の邪魔をしないようにキッチンに入って2人で火神を眺めているのだが、さっきまでの騒がしい光景はものの見事になくなりいつものリビングに戻りつつある。

「今日は色々凄かったね」
「そうですね」

楽しかったですが、少し疲れました。と息を吐く黒子君を見ると「帰り際の黄瀬君とか」とぼそりと呟き苦笑い。

「火神君やっぱ手伝おうか?」
「いや、いい。明日ちゃんと掃除機かけっから」

とりあえず紫原がいたとこ以外通れば被害ねぇだろうし、と彼が座っていた場所を睨みつけこちらに歩み寄ってきた。少し冷めたカップを差し出すと「サンキュ」と受け取った。



「しっかし、さっきはビビったな。赤司と親戚とか何のブラックジョークかと思ったぜ」
「ジョークでも降旗君は気絶してたでしょうけどね」
「私も従姉の結婚式で何度も名前見返したしね…」

ジョークならまだ良かったけど現実なんだよね…と力なく笑えば何とも言えない顔で2人に見られた。桜は好きだけど春がこれほど怖い季節になるとは思ってもみなかったです。
それからなんとなく3人無言で紅茶をすすっていたががらんとした部屋を見ていてふと火神の方を見やった。


「火神君。寂しくなって夜泣きしちゃダメだよ」
「するか!」
「楽しければ楽しいほどその後が妙に物悲しくなりますよね」

それが自分の家だと尚更…、と黒子君にも見つめられた火神は慌てた様子で「嫌なこと言うなよ!」と声を荒げた。


「やっぱ2号に残ってもらえば良かったんじゃない?」
「おい。それマジでやめろよ。絶対やんなよ」
「落ち着いてください火神君。今日は小金井先輩達が連れ帰ってくれましたからここにはいませんよ」

外にいる時よりも震え上がる火神に、本当に犬がダメなんだなぁと思い「冗談だよ、ごめんね」と彼の腕を擦った。



それから飲み終えたカップを洗い、黒子君も暖まったというのでそろそろ帰ろうとしたとしたら火神がに綺麗な包装紙に包まれた小包を差し出してきた。

「ん。やる」
「あ、ありがとう…でも何で?」
「………………………誕生日プレゼントだよ」

不思議に思いながらも受け取ればそんなことをいわれ目を瞬かせた。の隣では「火神君。今更、というか気が早いというかどっちですか」と怪訝な顔で黒子君が火神を見ている。
確かに。とも明後日の方を見ている彼を見上げれば「去年のだよ!」と答えていた。


「今年は誕生会するっつったからな!」
「それ本気だったんだ…」

誕生会もプレゼントもやる!と豪語する火神に嬉しいやら気恥ずかしいやらな気持ちで笑うと黒子君も微笑み「さん。中は見ないんですか?」と聞いてきた。

一応火神に確認してから中を開けてみると思ったよりも可愛いタオルセットが入っていて思わず「ぅぐ、」という声が漏れてしまった。

「…なんだよ。気に入らねぇのかよ」
「ううん!そうじゃなくて!火神君が私のこと考えて買ってくれたんだなって思って」

タオルという選択も色合いもデザインすらも火神なりに一生懸命考えてくれた形跡が見てとれてしまい、ちょっと笑ってしまった。

「火神君ならもうちょい格好いいの選ぶ気がしたから」と返すと思った以上に顔を真っ赤にした火神がぎゅっと眉間に皺を作って「俺が欲しいようなもの買ってもしょうがねぇだろ!」と苦い顔をした。



「意外です。火神君でもこういう可愛いものを選べるセンスがあったんですね」
「おい!どういうことだよ黒子!!」

どうやら黒子君も同じようなことを考えていたみたいで心底驚きました、という顔をすると顔の赤い火神が「これくらい選べるわ!つか、笑うんじゃねーよ!」と怒っていた。

肩を震わせてただけなのに笑ってるなんて心外な、と思ったが口許のニヤつきがバレていたらしい。


「ごめん。でも嬉しいのは本当だよ。ありがとう火神君」
「…っそう、かよ」
「大事に使うね」

そうにこやかに微笑めば火神が一瞬ぽかんという顔をしたがすぐに我に返って落ち着かなそうに頭を掻き「ホラ行くぞ!」との背中を押した。どうやら今回も送ってくれるらしい。


「え、いいのに」
「いいんだよ。それにこんな時間まで引き留めたのは俺だしな」
「ボクも赤司君や伊月先輩達にさんを送るよう言付かってますから」
「俺も辰也と緑間と…あとついでに青峰にいわれてっからな。1人で帰すなんてことしねーよ」
「そ、そうなんだ…」

なんか思ったよりもたくさんの人に気にかけてもらっててかなり戸惑ったが、心配してくれてるのは理解したので「ありがとう」と2人の申し出を有難く受け取った。
いやでも、青峰はいつの間に火神と話をしたのだろうか。そんなことを思いつつ靴を履くと後ろで靴を履いている黒子君の頭よくが見えた。



「テツヤ君。髪についてるよ」

彼の髪を梳いてやればはらりはらりとクラッカーに入っていた紙片が落ちていく。
よく見ればその紙片はそれだけじゃなくて玄関全体に散らばっている。ついでに火神の足の裏にもくっついていて彼は盛大な溜息を吐いた。

掃除頑張ってね、と肩を叩いたのはいうまでもない。


でもまあ今日は。


「本当に楽しかったね。誕生会」
「はい。最高の誕生日でした」

なかなか大変だった部分もあるけど、大まかにはとても楽しかったと思い口にすれば、黒子君も嬉しそうに微笑むのでもつられるように笑ったのだった。




2019/09/26
増し増し増しでお祝いしました!おめでとう黒子!