75.5 - 06
「嫌だっス〜!俺が1番最初に帰るとかめちゃくちゃ寂しいじゃないっスか〜!」
「うっせーな!近所迷惑なんだよ!さっさと帰れ!!」
「火神っちまで酷いっス!黒子っち〜!火神っちが冷たいんスけどぉ!」
「黄瀬君。さっさと帰らないとご近所から通報されますよ」
いいんですか?一応モデルでしたよね?と諭すようで突き放している黒子君に黄瀬君がぶわっと涙を流して泣いてる姿を上の方から降旗君達と一緒に見ていた。
誕生会も終盤になったところで明日が早いらしい黄瀬君が帰らなくてはいけなくなり最初に見送ったのだが、玄関先で駄々をこね、マンション下まで送っていった黒子君と火神がまだ帰ってこないのでどうしたのだろうと外に出てみたらそんなやりとりをしていたのだ。
確かに黄瀬君煩い。
夜なのもあってよく響くし黄瀬君の声はよく通るのだ。しかもかれこれ10分以上このやりとりをしている。
黄瀬君て結構な寂しがり屋なのだろうか、と考えていると「食べる物なくなったし俺も帰る〜」と後ろから声が聞こえビクッと肩が跳ねた。
振り返りテーブルの上を見れば皿の上が綺麗になくなっている。火神や青峰も大量に消費していたけど紫原君もかなり食べてくれたようだ。
「氷室さん片づけいいですよ。こっちでやりますから」
「そうかい?悪いね」
食べ物がなくなった皿から片付け洗いだした氷室さんに慌てて声をかけると「室ちーん帰ろ〜」とマイペースな紫原君が帰る準備をしながら氷室さんに声をかけた。
いいタイミングで声をかけてきたな、と思いつつ氷室さんを見れば彼もそう思ったみたいでクスリと笑った。
「大我のこと、よろしく頼むよ」
「は、はい。…次に会えるのはインターハイ、ですかね?」
「何もなければそうなるだろうね」
「じゃあさ。神様も秋田に来ればよくない?」
すぐ真後ろから声が聞こえ目を見開くと首周りと肩が温かくなり頭が少し重くなった。
視界の端では小金井先輩がの代わりに悲鳴を上げている。「敦、」と困った顔で微笑む氷室さんに嫌でも背中にくっついている人物が誰なのかわかってしまった。
ダメだ私。今日は疲れてるみたいで恐怖センサー壊れてる。こんなでかい図体の紫原君を察知できないなんて、と一気に血の気を引かせているとその間も氷室さんが紫原君を諭していた。
「え〜でも、秋田にも美味しいお菓子とか食べ物たくさんあるよ〜。だから神様も一緒に」
「紫原。俺がいったことを覚えているか?」
ぎゅっと抱きしめてくる紫原君はかなり気を遣ってくれているんだろうけど、にとってはその締め付けはただの拷問でしかなかった。頭の血がさあっと下に落ちていく。
温かくも頑丈そうな拘束に気が遠くなりそうになっていると刺すような声が聞こえ少し現実に戻った。
頭の上に乗っている紫原君と一緒に顔を動かせばにこやかだけど目が笑ってない赤司君がこちらを見ている。
「なんだよ赤司。もう帰んのか?」とどうみても自分の家のように寛ぎ寝そべっている青峰にも声をかけられていた。
「ああ。明日は陽泉との練習試合もあるしそろそろ帰ろうと思ってね。紫原も試合で俺に負けたくなかったら帰った方がいいんじゃないか?」
「…負けねぇし」
あからさまな挑発だったが、紫原君はムッとした声で返すとあっさりを解放し荷物を取りに行く。その後ろ姿を氷室さんと眺めながら顔を見合せ苦笑した。
氷室さんも帰る準備を始めたのでがキッチンに入ると、帰る準備を終えた赤司君がこちらに寄ってきた。
「それじゃあ、また花見の時に」
「うん…はい。またその時に」
こっちはこっちで難易度が高いミッションなのですが、と思いつつぎこちなく笑うとスッと赤司君の手が伸びてきてトップスの肩の辺りを軽く摘まみ、首の方へと整えるように少し引っ張った。
「少し見えていた」とだけに聞こえる声で教えてくれた赤司君に、顔を赤くして「スミマセン」と謝る。どうやらストラップが見えていたらしい。
「紫原のせいだから気にするな」と微笑む赤司君は優しかったが、やっぱりこの服は失敗だったと落ち込んだ。
赤司君と紫原君、氷室さんが帰り、前回のことを踏まえそろそろ送るわ、とリコ先輩に付き添うように日向先輩と木吉先輩が帰るとみんなもそろそろ、という空気になった。
も桃井さんや水戸部先輩達に手伝ってもらいながら片付けを終えると手早く帰る準備を終えた。
「もうここに住むわ」と居心地がかなり良かったらしい青峰を桃井さんが無理矢理引っ張り起こしぞろぞろとマンションを出るとそこにはまだ黒子君と火神、そして黄瀬君がいて驚愕した。
「って、何で高尾君と緑間君まで?」
2人は少し前に帰ったはず、と近くにいたチャリアカーに乗ってる2人を見ると高尾君は苦笑、緑間君は不機嫌を露わに溜息を吐いていた。
テツくーん!と走って行く桃井さんを尻目にチャリアカーに向かうと途中まで黄瀬君を乗せていく話になっていたらしい。
しかもじゃんけんに黄瀬君が負けたとあって大人しく待っているのだが何故か黒子君達との会話が途切れず帰れずにいるそうだ。
「早く帰りたいといっていたのはどこのどいつなのだよ!!」
「え〜もう少しくらいいいじゃないっスか」
「俺もう凍えそうなんだけど…」
「やだテツくん!顔超冷たい!!」
「1時間も外にいればこうなりますよ…」
一応ジャケットを羽織っているものの、寒いことには違いない黒子君の死んだ表情に桃井さんが「きーちゃんいい加減帰って!」と怒っていた。
桃井さんの雷とみんなも帰るとわかった黄瀬君はやっと帰る気になったようで、緑間君にこき使われつつ「重っこれ無理っスよ!」「無理じゃないのだよ。さっさと漕ぐのだよ」「歩きより遅いなんて恥ずかしいぜ。海常のエースさーん」という会話をしながらペダルを漕いで行く。
風邪ひかないようにね、と手を振れば「風邪引いたらちゃん看病してね〜」と返されてしまい言葉に詰まってしまった。
冗談?本気?と固まっていれば高尾君の頭を緑間君が殴っていた。冗談でよかったのかな?
「それじゃ俺達も帰るから」
「じゃあな黒子。また学校でな」
「はい。今日はありがとうございました」
「黒子っち〜!俺の時も誕生会するんで6/18あけといてくださいっス〜」
「黄瀬!家に辿り着くのが明日になるのだよ!」
「真ちゃーん。これもう歩いた方が早くね?」
「まだんなところにいたのかよ!さっさと帰れ!!」
「……火神君も煩いですよ」
まだ目と鼻の先にいる黄瀬君達に火神が吠えたが、確かに火神の方が近所迷惑になりそうな声の大きさだ。
本当に警察が来てしまいそうだと危惧したみんなは早々に解散したのだが、何故かだけ引き留められてしまう。火神を見れば渡したいものがあるらしい。
「今日の方がいい?」
「ああ」
「という訳で青峰君は桃井さんをちゃんと送り届けてください」
部活でも学校でもすぐ会えるからその日でもいいのでは、と思ったが今日がいいというので帰ろうと思った足を止めたのだが、何故か青峰と目が合いビクッと肩が跳ねた。
本日隙だらけの服はコートとマフラーで隠れて見えないので彼の気を引くものはないのだが、何故かじっと見つめられ緊張した。
何かもの言いたげな視線に何よ、と思いつつ見返していると、黒子君がその間に割って入り青峰に手を振った。
からは後ろ頭しか見えなかったが黒子君を見た途端、青峰の顔はムスッと不機嫌になり舌打ちをして背を向けた。
「テツくーん!またバスケしようね!今日はおめでとう!」
「はい。桃井さんも気を付けて」
「さんも日程決まったらまた連絡するね〜!」
「う、うん…よろしくー…」
その話まだ覚えていたのか…忘れてくれたら良かったのにな、と思ったが日程決まったら服を買いに走るしかないか、と諦めた。
手を振る桃井さんにも手を振り返しているとこちらを見てきた青峰に気がつき彼に視線をずらす。
まだ不機嫌そうな顔をしてるが手を振ってやれば呆れた顔をされ、そのまま背を向けられてしまった。ジャイアンは何がしたかったのだろう。
2019/09/26
お持ち帰りしたい青峰を阻止。