75.5 - 05
そんなわけで急遽カップケーキ争奪戦になったのだが勝敗はあっさりとついた。
木吉先輩の提案でじゃんけんに関係なくリコ先輩と桃井さんにカップケーキが渡り、なんか怖いから、という誠凛側の満場一致で紫原君に1つカップケーキが渡った。
更にその残りをじゃんけんで分けたのだけど、何故か紫原君が手を上げじゃんけんに参加しようとして火神に怒られた以外は問題なかった。
ふわふわサクサク食感と程よい甘い味に心もお腹も満たされていると「美味しいね〜」と同じように幸せそうに笑う桃井さんがいても微笑み返した。桃井さんにも喜んでもらえてよかった。
「そうださん!今度一緒にケーキ食べに行かない?」
「へ?」
「リコさんもどうですか?」
「別にいいけど」
行きたいお店があるんだ!と朗らかに笑う桃井さんには固まった。え、着ていく服ない…と頭の中で答えるとリコ先輩がOKを出し予定を決め始めた。
え、え、え、ちょっと待って。と内心慌てていると「えー俺も行きたーい」と視界に入れないようにしていた人からも声がかかり、の顔が更に青くなる。
「えー?でもムッ君食べに行く場所東京だよ?」
練習試合終わったら秋田に帰るんでしょ?と正論で返す桃井さんに紫原君は眉を潜め「雪が溶けるまでこっちにいる」といいだし氷室さんが苦笑していた。
「ダメだよ敦。ちゃんと戻らないと監督にまた怒られるぞ」
「ちぇー……じゃあ神様が秋田に来てよ」
「え、」
何故私?といきなり向けられた視線にギクリと肩を揺らし、汗を噴出させていれば火神が「何でお前の県に行かなきゃならねーんだよ!菓子貢がせたいだけだろお前!」とつっこんでいた。
そう、それか!と思考が止まった頭でなるほど!と思った。
しかし「…それだけじゃないし」と紫トトロが口を尖らせ意味深なことをいいだしたので、は涙目でカタカタと震え近くにいたリコ先輩に背中を撫でてもらった。
行ったら捻り潰されるんだろうか。恐ろしい。
何を思って紫原君がを秋田に呼び寄せようとしてるのか謎だったが、火神に加勢してもらいつつ何とか秋田逝きを逃れられることができたと思う。
しかし「峰ちんの近くにいるよりこっちにれば守ってあげられるのに〜」みたいなことをいわれ、守られなきゃいけないような事態なのだろうか?とか、紫原君が守ってくれるの?どういうこと??と頭を捻ったのはいうまでもない。
が認識していた紫原君がぐるりと変わるような発言にただただ混乱して青峰が何か文句を言っている声すら全然入ってこなかった。
とりあえずまずは心を落ち着かせよう、と思い紫原君を視界に入れないようにしながらは黙々と味がしなくなった残りのカップケーキを食べているとリコ先輩に呼ばれ顔を上げた。
「のこと呼んでるみたいよ」
そういって別の方を見やるリコ先輩に倣い見やると本日まだまともに会話していなかった赤司君と目が合い、丸まっていた背筋がピンと伸びた。
「すまない。呼び立ててしまって」
「いえ、えと、何か…?」
ろくに話してなかったけど丁寧に話す赤司君慣れないな、とギャップの差に戸惑いつつ彼の傍らに座ると「渡したいものがあってね」と彼はスポーツバッグを漁りだした。
「ああ、そういえばボール型のおにぎりを作ったのはかい?」
「え?うん。そうだけど」
もしかして漬物とか口に合わなかった?と汗ダラダラで伺うと彼は笑って「気を悪くしないでくれ」と封筒を取り出し顔を上げた。
「ああいう気遣いができるのはだろうな、と思っただけなんだ。美味しかったよ」
「そ、そう、ですか…」
面と向かって感想を言われると、かなり、照れる。
頭の中で変な雄叫びを上げながら悶絶したいのを必死に耐えていると、斜め前から「どれのことなのだよ」と緑間君が聞いてきて「真ちゃんがさっきバクバク食ってたやつだよ」と高尾君が返していた。
「え、俺食べてないっスよ!緑間っち全部食べるなんて酷いっス!」
「食べてないのだよ!」
「でも2、3個食べてただろ?」
「ぐっ…」
「へぇ。あれが作ったのか!道理で手が凝ってたわけだ」
いい嫁さんになるな、と一言多い木吉先輩に苦笑で返していると、「忘れないうちにこれを渡しておくよ」と赤司君から1枚の封筒を差し出された。
その封筒は白地にほんのりピンクがかっていて、角度をずらせばキラキラと光る光沢のある封筒だった。
しかもかなり厚手で高価なのはすぐにわかったのだけど何故これを私に?という顔をすれば彼は少し眉尻を下げて微笑んだ。
「毎年3〜4月辺りに内々でお茶会と花見を催すんだが、その会にを呼びたいと父がいいだしてね」
「はい?」
「決勝戦を見たらしいんだ。が誠凛にいることも話してあるから余計に"赤司"を倒した人間が気になって仕方ないんだろう。とはいっても、挨拶くらいで特に何もないと思うから気軽にご家族と一緒に花見に来ればいい」
「気軽って」
それ全然気軽じゃないです。しかも倒したの私じゃなくて黒子君達だし。
私見てただけ…と血が頭から引いていくのを感じながら「…ありがとうございます」とよくわからないままお礼をいって封筒を受け取った。
『はあああああああああああああああっ???!!!!』
この封筒、自分の命より重そうだ。恐ろしい。と震える手で妙に重くて高価な封筒を見つめているとと赤司君以外から一斉に声があがった。
その声と気迫に何センチか飛びあがると驚いた顔のままそちらを見やった。
「えっどういう…?どどどどどどういうこと??!!」
「ちょ!?!どういうことなの説明して!」
「おい待てよ赤司!どこでそんな話になったんだよ!」
「俺、初耳っスよ!何の話っスかそれ??!!」
「さんと赤司君が??!!え?え?えええっ」
「!お前もしかして…!」
「ああ!降旗が気絶した!!」
「おいマジかよ!つーか、赤司んちのイベントに家族で来いって!」
「許嫁がいい名付け。キタコレ!」
「伊月先輩!顔が引きつってます…!」
「驚いた。2人はそういう関係だったのかい?」
「ちっちげーよ!勘違いだって辰也!そういうんじゃ…!なんかいえよ!」
「ぶはっ!うっそ!ちゃんと赤司が?!マジウケるんですけど!!」
「黙れ高尾!何かの間違いなのだよ!ちゃんと説明しろ赤司!」
「えーなんかやだし。いくら赤ちんでも神様はやらないよ」
「その前にお前のでもないけどな」
「なんかいった?木吉…」
カオスだった。
殆ど一斉に喋りだしたから何を言ってるかわからないし茶化して笑っている高尾君もいれば(いやでも心なしか雰囲気が怖いんだけど)、紫原君なんかさっきよりも不機嫌になって木吉先輩睨んでるし。
とにかく怖くて引け腰になっていると赤司君が困った顔で笑って「なんだ。話してなかったのか?」とを見てきたので肩を竦めた。
「話すタイミングがなくて…」
「あの、」
だってウインターカップ中はずっと敵同士だったし、赤司君の話をしようものならみんなとの関係がぎくしゃくしてしまいそうで言えなかったのだ。
というか、とてまだ半信半疑な部分があるし、繋がりも程よく遠いので実感なんてなかったんだけど、と思っていたらいきなりテーブルを叩く音が聞こえ一斉に静かになった。
テーブルを叩いた人物を見やれば、これまた見たことがないくらい無表情と据わった目で「どういうことですか?」こちらに問うてきた。
「そう睨むな黒子。誤解だ」
「……」
「との関係は互いの親戚同士が結婚した為"親戚"になっただけだ。他に理由はないよ」
許嫁もその他の関係も"今のところ"予定はない、と説明する赤司君に腰を浮かせたり立ち上がったりしていた面々が萎むように「そうか」といって座りだした。納得はしてくれたらしい。
「だったら最初から親戚っていえばいいじゃねぇか!混乱するような言い回ししやがって」
「それは配慮が足らなかったな。にだけ伝わればいいと思っていたからお前達のことまで考えていなかった」
「…それ嘘くさいし…」
「何か言ったか?紫原」
「別に。何もいってないし」
なんでもなくない不貞腐れた顔の紫原君に震えながら伺っていると、盛大な溜息を吐いた緑間君が眼鏡のブリッジを押し上げ不機嫌な顔で赤司君を睨んだ。
「下手な言葉で周りを弄ぶな赤司」
「そんなつもりはなかったよ。ただ、想像以上にがみんなに好かれているということはわかったかな」
「……」
「ただ、俺の親戚になったからには"変な虫"は"早々に駆除"しておいた方がいいと思ってね……みんなにも一応心に留めておいてほしいと思ったんだ」
怪訝な顔の緑間君にも臆することなく赤司君はにこやかにこちらを見て、そして最後の方はみんなの方を見てこれまたいい笑顔で微笑んだ。
それはなんだか前の赤司君のようで顔が引きつる。と同じことを思ったらしいみんなも同じように顔を引きつられていたのはいうまでもない。
2019/09/24
このリアクションを入れたかったが為に本編でスルーした親戚問題。