75.5 - 04


「だーいーちゃーん!!!!」
「うわ!なんだよさつき!ぎゃーっ」
「私の友達になんてことしてんの!謝りなさい!!」
「う、うるせーな!事故だ事故!つーか、あんな服着てくるが悪いんだろ…ぐほ!テツ?!」
「青峰君。今すぐその記憶を消去してください。今すぐに」
「今すぐって無理だろ!ちょ、頭はやめろ!これ以上バカになったらどうすんだよ!」
「元々バカなんですから、いっそ初期化した方が頭がよくなるかもしれませんよ」
「よくなるかよ!か、火神!テツを止めろ!テメーの相棒だろうが!!」

「あ?何で俺が止めなきゃなんねぇんだよ…つーか、記憶失くすなら後ろからいった方が確実だよな?」
「おまっそれ本気過ぎるだろ!死ぬっつーの!それにの谷間なら紫原だって見たじゃねーか!あっちに行けよ!!」
「俺見てないしー」
「だとよ」
「この裏切り者!」
「裏切ってないし。それに峰ちんがニヤニヤしてる時に考えてることなんてみんなわかってるもんね」


自業自得。と紫原君に切り捨てられ、そして最高裁判官である桃井さんに「だーいーちゃーんー!!!」と本棚から持ってきたらしい雑誌の束を掴んで青峰の脳天に勢いよく落としていた。

伸びている青峰を遠目に見ながらもう2度とこのトップスは着るまい、と心に誓っているとリコ先輩達が合流し更に賑やかになった。
そして2号を見つけた火神は悲鳴を上げなかったものの、素早い動きでこちらに逃げてくる。

やっと慣れたと思ったのにアメリカに戻って元に戻ってしまったのだろうか、というくらいの震えっぷりだ。



「2号というのは名前ですよね。では1号もどこかに?」

背を向け蹲る誠凛のエースを不憫な目で見ていればウインターカップの試合で見た面影がこれっぽっちもない赤司君が人好きのする言葉遣いと表情でこちらを見てきたので日向先輩、伊月先輩と一緒に黒子君を指した。

「どうも。1号です」

その発言もどうかと思うけど、目元が似ている話をしたら赤司君はなるほど、と納得していた。


全員が揃ったところでそろそろ始めようか、となった誕生会はそれは盛大だった。人数的にも、華やかさ的にも黒子君の人望の厚さを伺える光景だろう。

は用意した2号用のケーキをリコ先輩に見せ、写真を撮り、はぐはぐと食べる2号を幸せな気持ちで見ながら写真を撮ったりした。
そこへ桃井さんもやってきて3人で撮影会をしていたのは後から思えばちょっと異様だったかもしれない。


それからはとにかくキセキの世代に近づかないよう、なるべく遠くで小さくなって火神と氷室さんお手製の料理を食べていた。
周りを警戒しながらだったが2人の料理はとても美味しくて何度か警戒を怠るくらいには食べることに没頭していたかもしれない。

それではいかん、と周りに目を配らせれば火神は青峰と唐揚げ食い競争をしていたり、降旗君は赤司君に捕まり上司と部下の飲み会みたいな光景を繰り広げていた。
心の中で降旗君頑張れ!とエールを送りながら河原君や福田君と話していると、いつの間にかが作ったおにぎりがなくなっていた。

誰か食べてくれたのかな、と安堵しつつサンドイッチに手を出していると肩を叩かれ振り返った。



「冷凍庫のもの、そろそろ出さないと彼がギブアップしてしまうんじゃないかい?」

振り返ればこれまた近い距離で声をかけてきた氷室さんがいてドキリとする。黒子君がいる方を見れば山と積まれた料理を無表情に食べていた。

内緒話とはいえ、囁くような声色と近さに内心ドキドキして動揺しながらも再び黒子君を見れば、ギブアップって顔に書いてあって苦笑してしまった。

これ以上食べるのは無理かもなと思ったけど、わざわざ声をかけてくれたのだからと立ち上がり氷室さんと一緒にキッチンに向かった。
冷凍庫を開き、キンキンに冷えたコップを取り出したは試しにストローを刺してみたけれど表面が硬くて少しも入らなかった。


「固まってしまったようだね」
「そうですね…っ?!」

後ろから声が聞こえ、氷室さんに返すつもりで振り返ろうとしたが思った以上に彼の顔が近くてわかりやすく肩が跳ねた。近い、近すぎます氷室さん…!少し屈んだだけでキス出来ちゃいます…!

前に高尾君や森山さんがぐいぐいくるって思ったけど氷室さんはいつの間にか至近距離にいて本気でビックリするというかショック死できるくらいの近さだった。

私この距離感慣れません、と緊張で頬を染めれば「辰也!」と少し慌てたような、怒ってるような火神の声が聞こえた。
一緒に声がする方を見ればオープンキッチンの手摺に肘を置いた火神が不機嫌そうな顔でこちらを見ている。


「辰也ちけーって。がビビるだろ」
「ビビらせたのかい?」



覗き込むように伺ってくる氷室さんにはまた肩が跳ね、そしてなんともいえない顔で笑うしかなかった。
今気づいたけど、腰に添えるように氷室さんの手があって、未だに彼が少し屈むだけでキスが出来てしまう距離感にいる。

軽く抱きしめられてるようにも感じなくない密着した距離感に心臓が痛くなる。私が子供過ぎるんだろうか??


「前からいわれてるだろ。その距離感だと相手に勘違いさせるって」
「そうか?アレックスはいつもこのくらいの距離感だったけど」
「それはアレックスだからだよ!普通はしねーの!」

だから離れろ、と苦い顔で手を振る火神に氷室さんはクスリと笑った。何故このタイミングで?という笑みに火神も怪訝な顔で氷室さんを見ると彼は「すまない」といいながらも笑みを浮かべていた。


「大我のチームメイトだからか世話が焼きたくなってしまってね。妹分、と勝手に思っていたのかもしれない」

迷惑だったらすまない、と謝る氷室さんには「いえ、そんなことは!」と慌てて手を振った。

距離感はビックリしてるけど気にかけてもらえてるのは嬉しいです、とかそんな感じにオブラートに包んで伝えれば氷室さんは「ならよかった」とにっこり微笑んだ。火神には微妙な目で見られたけど。


「んで、それ飲めそうなのか?」
「ううん。もう少し常温で溶かさないと飲めないかな」

殆ど入らないストローを見せてあげれば、まだと氷室さんの距離に文句を言いたそうな顔をしてる火神に「全然だな」と返された。

「黒子。まだ腹に入るか?」
「…見てわかりませんか火神君…このタワーを消化するなんてボクには無理です」



どうしようかな。放置して溶かして後で飲めばいいかな、と考えていると火神がいきなり黒子君に聞いていて驚いた。
そして案の定黒子君はギブアップしていてあのタワーも放置されるんだろうな、ということが容易に想像できた。

まあ、大量の料理があった時点で想像できてたんだけど。あわよくばストバスから帰ってきた黒子君に渡す予定だったんだけど青峰達も来ちゃったからタイミングがなかったんだよね。


「バニラシェイクは?」
「!飲みます」

まあ、仕方ないか。とシンクに置こうとしたら火神の質問に黒子君が即答していた。キミは別腹女子か。
バニラだって結構な糖分だしお腹膨れるんだけどな、と思いつつ火神が目配せしてきたので肩を竦め黒子君に持って行ってあげると彼は少し驚いたように目を瞬かせた。

「もしかして手作りですか?」
「諸事情で買ってこれなかったからマジバ風に作ってみました。でもまだ固いから溶かしながら飲んでね」
「はい。ありがとうございます」

嬉しそうにバニラシェイクを見つめる黒子君に満足したはスプーンも持っていった方がいいか、とキッチンに戻ろうとすると「。俺のは?」となんでか青峰に所望された。

ジャイアンって甘いもの好きだったっけ?と思いながらも「ないよ」と答えたら舌打ちされた。
ここにきて青峰に異様に絡まれるんだけど、私嫌われてるんだろうか。



「お前そういうの好きなのか?」
「別に」
「別になのかよ!」

何かした覚えないんだけどな、と思っていたら火神が代わりに聞いてくれて、そして青峰はのことが嫌いなのでは説が更に濃厚になった。

「あ、バニラシェイクはもうないけど」

あいつにはもう近寄らないでおこう、と思いつつ冷蔵庫に仕舞っておいた白い箱を持ってきて黒子君とその近くの人達が見えるように蓋を開けた。


「うちの親が何かお土産持ってけっていうんでこれ買ってきたんですよ。でもここまで人数集まると思ってなかったからこれしかなくて」
、それって!」
さん!!」

前に火神は1人暮らしだからお土産とかそういうのいらないと思う、といおうとしたのだけど夜遅く帰ってきた時「親御さんが〜」とかいってていえなかったのだ。
なんとなく1人暮らし、と教えたら面倒臭そうな気がしたからなんだけど。


そんなわけで軍資金を貰い、従姉に頼み込んでコーディネートしてもらって向かった先は某有名ケーキ屋さんだったのだけど、そこがどこか気づいたらしいリコ先輩と桃井さんの目が輝いた。

「あ、それ知ってるっスよ。今雑誌とかテレビに取り上げられてるお店のっスよね。クラスの女の子達も騒いでたっス」
「俺テレビで見た時長蛇の列出来てたぜ?40分待ちとかあったんだけど、もしかして並んだの?」
「うん」
「マジで?!」



ちゃん凄すぎ!と笑う高尾君と流石抜け目ない黄瀬君に「私が食べたかったんだ」とへらりと笑った。
コートで粗方隠れるとはいえ、戦場で戦える装備じゃなかったら10分もいれなかったけどね、と思ったのは内緒だ。

「本当はホールとかショートケーキの方がお薦めらしいんですけど、こっちの方がみんな食べれるかなって思って」
「うんうん!このカップケーキも雑誌で見た時超美味しそうって思ったもん!実物も美味しそうだよ〜」
「じゃあ買ってきたは1個持って行きなさい。黒子君はどうする?」
「ボクはこれがあるので結構です」
「そ。じゃあ残りは食べたい人でじゃんけんするわよ!」

功労者ということでカップケーキを1つ貰い、リコ先輩は黒子君に聞くと彼はバニラシェイクがあるからいらないと辞退した。


さて残るは、といったところで日向先輩が挙手して「桃井さんはともかく、残りは俺らで割るんじゃねーの?」というとリコ先輩が「バカね!」と吐き捨てるようにとある方を指さした。

「あそこで涎大量に流してる人がいるのにこっちで分け合ったら殺し合いになるわよ!」
「…敦…」
「…じゃんけんに負けたらそれはそれで暴動起こしそうな顔してますけど」
「ぜってー勝つし」
「というわけでほしい人手を挙げて!」


リコ先輩の指した方向がなんとなくわかってチラ見だけにしておいたが、紫原君の口からマーライオンか!とつっこみたくなるくらい涎を垂らしていて緑間君に「汚いのだよ!」と怒られ、氷室さんにタオルを渡されていた。氷室さんやっぱりお母さんになってる。




2019/09/22
何気に青峰の名前呼びは誕生会がお初。