75.5 - 03


「辰也!遅いから心配してたぜ……って、高尾!それに?!」

ケーキが入った箱を持ってもらいながらインターホンを押すと待ってましたといわんばかりに火神がドアを開けてきた。
高尾君がいたことに驚いたみたいだけどが一緒だったのも驚いたらしい。「お前、あの荷台に乗ったのかよ」とあとからこっそり聞かれたが「秘密です」と適当に濁しておいた。


それから日向先輩の力作工作を眺めたり貼り付けたり、火神と氷室さんの共同料理を「おお…」と感嘆の声をあげながらその光景を写真に収めていた。
2人の仲直り記念としていいんじゃないかなと思ったのもある。あとアレックスさんのアドレスも流れで手に入れたので今は温泉に行っているという彼女に送信しておいた。


「ん?何?高尾君」

時間を確認してそろそろ自分も手伝った方がいいかな、とコートを脱げば視線を感じ振り返る。
こちらをじっと見つめてくる高尾君に身構えれば彼はさっきのこともあってか少し照れくさそうに視線を揺らしてからにっこり微笑んだ。

「なんつーか、ちゃんの私服姿って見たことなかったから、新鮮だなーって思ってさ」
「そ、そう…?」

ファッションにこれでもかと自信のないのにピンポイントで指摘されたはもしかして似合ってない?と焦った。

実は今日の服は従姉のおさがりと初売りだかバーゲン品の余り物だったりする。
従姉はかなりの目利きでノンブランド物でもいいものを持ってることが多いしサイズも殆ど一緒だから頼み込んでいらないものを譲ってもらったのだ。



"デートか?"と従姉に冷やかされながらコーディネートしてもらった今の服装は色とかデザインとか自分にはまだ早いかも?と思うような大人っぽい服装になってしまっているので実は内心ヒヤヒヤしていた。

「変かな?」といつも着ている服より襟ぐりが広い、ゆるめのトップスを気にするように指をかけると「そんなことねぇよ」と高尾君が気軽に笑った。


「似合ってるけど、そういうの着るイメージなかったからちょっとビックリしたわーって思っただけ」
「ワンポイントで小さい宝石がついたネックレスなんかつけたらもっと雰囲気が出るだろうね」

馬子にも衣装的なことをいわれるのかとビビっていたが高尾君は優しかった。ある意味見透かされたけど。そして氷室さんも料理をしながら会話に交じってきては更に汗をかいた。

氷室さん、嬉しいですけど私のライフがどんどん削られていきます。

全体的にスルーしていただければ嬉しいんです、と思っていたら氷室さんが火神にまで話を振ってきて内心悲鳴を上げた。


「大我もそう思うだろ?」
「……あーそうじゃねぇか?」

被害が大きくなってる、と震えていれば火神がチラリとを見て興味なさそうに返し話を終わらせてくれたので内心グッジョブ!と思った。流石バスケ大好きっ子!ありがとう!!



なんとか命を取り留めたので気を取り直して降旗君達とおにぎりを握っているとカルパッチョを作り終えた火神が皿をテーブルに並べこちらにやってきた。

。お前何のおにぎり作ってんだ?」

フリ達と違くね?と手元を後ろから覗き込んできた火神にはタッパの中身を見せてあげた。


「レシピに漬物のおにぎりがあってさ。色味もよさそうだし口直しにもいいかと思って」

持ってきたのは梅とじゃことたくあん、あと枝豆や柴漬け等わき役のおかず達だ。
これを普通に入れても美味しいけどレシピを見たら混ぜご飯にして握った方が味も全体に広がるし食感も楽しめるなぁと思ったのだ。

「そういうとこ女子っぽいよな」と河原君にいわれたが、ご飯は楽しい方がいいと思うので「女子も男子も関係ないやい」と出来上がった一口大のボール型おにぎりを皿に置いた。


「あ!」
「……ん。結構いけるなこれ。ちいせぇけど」
「だから口直し程度だっていったじゃん」

視線を河原君に向けていたせいで伏兵に気づけなかった。見れば火神がボール型のおにぎりをひとつ口に放り、カリコリと音を鳴らしながら食べている。



「コラ。1個でいいでしょ」
「いいだろ。2個くらい」
「俺も食いてー!ちゃん1個ちょーだい」
「ん。落とすなよ」
「ちょ!投げないでよ!」

そこまでご飯ないんだからと大食漢火神の手をぺちりと叩いたら、テレビを見ていた高尾君が手を上げ自分も食べたいといいだし、火神が勝手におにぎりを投げていた。
勿論コントロールもセンスもあるので落とすことはなかったけど食べ物を投げるのはダメだと思うよ。

その後も小腹がすいたとか日向先輩達がいいだして作のおにぎりは半分も残らなかった。


盛り付けが寂しい皿に微妙な顔で見つめていると氷室さんがやってきて「こうすればどちらも引き立つだろう?」と新たに作った料理の周りに盛り付けてくれとても見栄えがした。

氷室さんなんでも出来て凄いですね、としみじみ感心していると何故か火神がドヤ顔をしていて少し面白かった。


「火神君。氷使ってもいい?」

料理も粗方終わり、キッチンが空いたので火神に断りをいれたら「いいけど何か作るのか?」とみんなとバスケを見ていたのにわざわざ立ち上がってキッチンに入ってきた。

その彼にリュックから取り出した持ち運びが楽な小さめのミキサーと冷凍庫にこっそり入れておいたバニラアイスを取り出しにんまり微笑む。

「マジバ風バニラシェイクを作ろうと思って」



本当はマジバに寄ってバニラシェイクを買ってこようと思ったんだけど両手が埋まってる状態でシェイクを無事持ってこれるかわからなくて諦めたのだ。その分背中が重いことになってしまったけど。

たまたま見えたらしい高尾君に「何?ちゃんミキサー背負ってたの?!」と噴出され、降旗君には「いえば買ってきたのに…」といわれてしまった。しまった。その考えまでは至らなかった。


「つーかあるぞ、ブレンダー。しかもそれよりでかくて使えるやつ」
「嘘!それもあるの?!」


氷入れたら固まって終わりじゃねぇか、と呆れる火神に、はこの家の調理器具の豊富さに驚愕してそしてこの子実はアメリカではシェフか何かだったのでは…と思ってしまった。

魚用の包丁もあって中華鍋もあってミキサーもあるとかなんなのこの家。全部使えてるとかなんなの火神君。



*



日も暮れて、2号を迎えに行ったリコ先輩達がそろそろつく頃だよね、と話していたら丁度インターホンが鳴り「俺が出るよ」と降旗君が立ち上がり玄関に向かっていった。

は丁度格闘していたバニラシェイクが終わってミキサーを洗っているところだったが、その玄関の方から変な悲鳴が聞こえバッと顔を上げた。
そして素早くお湯を止めると近くにあった鍋の蓋を掴みしゃがみこんだ。

火神の家の構造は何気にキッチンから玄関までまっすぐ見通せるものになっている。一応リビングと廊下を隔てるドアがあるが、今は開けっ放しだった。

そしては降旗君の背中の向こうを見てしまった。黒子君以外の面々を。


「いっちょ前にいいとこ住んでんじゃねぇか」


青峰…!そして「どーもぉ」と爽やかな黄瀬君の声と驚く火神達の声にはキッチンで震えた。キセキの世代来ちゃったんですけどぉ…!

日向先輩達がいることに驚く黒子君に「そりゃこっちもだ」と先輩達が返していて、何でか赤司君がご丁寧に自己紹介していた。知ってるよ!みんな知ってる!!と内心つっこんだ。

緑間君や紫原君の声やエロ本を探す阿呆峰につっこむ桃井さんの声も聞こえてきていよいよ震え上がった。
か、カオス…!どうしよう。帰りたい。私帰りたい…!どうやったらこのカオスな空間から脱出できる?と鍋の蓋を被りながらぐるぐるしていると1つの足音がこちらに向かってきて目の前で止まった。



恐る恐る顔をあげれば何でか青峰がこちらを覗き込んでいる。何も言わないままの青峰にも何も言わず固まっていると、彼はニヤっと笑いは何でか寒気がした。

なんかヤバい気がする、と逃げようとしたがここはキッチンで袋小路。
あえなく青峰に捕まり、前回同様逃げられないように腕を首に巻かれ無理矢理キッチンから引きずり出された。


「火神。鍋蓋女が隠れてたぞ」
「あれ!っち!」
さん!いないと思ったらそこにいたの?」

ニヤニヤと笑みを浮かべる青峰にうんざりとした気持ちでいると、黄瀬君と桃井さんが「ウインターカップぶり〜」と愛想よく挨拶してくれた。

それにカラ笑いで返していると近くで紫原君がお菓子を食べだし緑間君に怒られ、氷室さんに手を洗うようにいわれていた。氷室さんお母さんみたいだ。


「神様も久しぶりだね〜」
「か、(この前は苗字で呼んでたのに…!)」
「ぶは!なんだよ神様って!!」

渋々立ち上がった紫原君に少し警戒してキッチンに入りやすいよう道を開けるつもりで青峰にくっつくと、紫トトロはわざわざ足を止め、お菓子を食べてない方の手での頭を撫でた。
そのことにピシリと固まったが神様と聞いて青峰が噴出し、ついでに高尾君も噴出していた。



「こいつが神様って面かぁ?」
「…顔はどうでもいいし。俺にとって神様だから神様なだけだし」
「へぇ」

ゲラゲラ笑いながら青峰はの首に巻き付けていた腕を頭に持って行くと足を1歩下げ、もつられるように下がった。

それはあたかも紫原君の手から逃れるような感じになって、宙に浮いたままになった手の持ち主は少し面白くなさそうに眉を寄せた。
その顔を見たはビクッと肩を揺らすと無意識に青峰にピタリとくっついた。

「つーかさ。神様も峰ちんにあんまくっつかない方がいいよ〜」
「え?」
「峰ちん神様の谷間見て鼻の下伸ばしてるエロい奴だから〜」

襲われても知らないよ?と忠告する紫原君に咄嗟に胸元の服を掴み、青峰の顔を伺うと彼は「チッバレたか…」と顔を逸らした。マジなのかジャイアン…!




2019/09/22
お気づきでしょうか…実は火神も見ています…なんなら準備組は全員見てますおっぱ()