Grand finale - 01
しかし振り返るとテーブルの上には残骸と化した紙皿やゴミ達が散乱していて何となくこのまま帰ることを渋らせた。
「(片付けくらいは手伝った方がいいよね)」
火神はその辺気にしてない顔をしてるけど彼は彼で疲れているのだし、少しくらい仕事を減らしてあげた方がいい気がして先に帰るリコ先輩達を玄関先で見送りは火神と一緒に片づけをすることにした。
「それじゃ、私はそろそろ風呂に入ってこようかな」
ひと通りゴミをゴミ袋に入れると一緒に片付けをしてくれていたアレックスさんが背伸びし、リビングを後にする。
火神は洗い物をしながら「おー」と顔も上げずに返していて随分馴染んでるなぁ、と思った。
「もしかして、アメリカにいた頃も一緒に住んでたの?」
「は?んなわけねーだろ」
あまりにも自然な会話にそんなことを聞くと「アレックスにだって家あるっつーの。こっちにはねーからホテル代わりにされてんだよ」とさも当たり前に返された。そうなのか。
「なんかずっと一緒に住んでるような自然さだったからさ」
「…いちいち怒るのを俺が諦めただけだ」
顔をあげた火神を見ればうんざりというか苦い顔というか、苦労が垣間見える顔で台拭きを投げてきたので苦笑でそれをキャッチした。
ゴミを一纏めにして口を縛ると腰を叩き顔をあげた。
うん、これならいいかな、と満足して荷物を持ってリビングを後にしようとした。
「!送るからちょっと待ってろ」
「え、いいよ!火神君疲れてるでしょ?」
ゴミを持って「お邪魔しました〜」と出て行こうとしたら火神に引き留められた。
丁度洗い物も終わったようでお湯を止め手を拭いた火神は足早にこっちに来てを通り越し、自分の部屋に戻るとジャケットを手に持ちが持っていたゴミ袋を奪っていってしまった。
いやいやいや。キミ数時間前決勝戦で体力ギリギリまで戦ってたんだよ?!疲れてないわけがないじゃない!
早く寝なさい、とゴミ袋を取り返そうとしたら、ゴミ袋が頭の上を通り、いとも簡単にすり抜けた火神がの背を押した。
「疲れててもお前を抜くことが出来んだから問題ねぇんだよ。大人しく送られろ」
「ぐぬぬ…」
こんな狭い廊下で特に技術も使わず、すり抜けられてしまってはぐうの音も出なかった。仕方なくローファーを履きゴミを受け取ろうと手を差し出すがあっさり無視された。
「ゴミ持ったらそのまま行っちまうだろ」
「行かないよ…」
なんだい、待っててほしいの?とニヤついた顔でシューズを履いている火神を見下ろせば、彼は呆れた顔でこっちを見るとみるみるうちにの視線を越えて大きくなり、「ドア開けるとさみーだろ」とドアに手をあてを見下ろした。
片方は座って履いていたのにもう片方は足に引っかけかかと部分を指で入れると爪先を叩き整えている。
そこまで狭くない玄関だけど、火神がいると途端に狭く感じる。外に出て待っていようかとドアノブを掴もうとすれば「まだだっつーの」と先に掴まれてしまった。
それはいいんだけど、火神が手をドアに置いてるせいでなんとなく覆われた気になって落ち着かないんですが。しかもドアノブ掴まれた時は閉じ込められた気になって少し挙動不審になってしまった。
ジャケットを羽織る火神にマフラーも巻いた方がいいのでは、となんとなく見上げて思った。
「なんだよ」
「…いや、寒くないのかなって」
風邪引かないようにね、というと「それはお前だろ」と頭をぞんざいに撫でられた。
「つーか、よ」
「うん?」
「大分変ったよな、お前」
唐突にそんなことをいわれ目を丸くし火神を見やると、彼はまたドアに手を置き、もう片方の手をの頬に添えて軽く抓った。痛くはないけど意図が掴めなくて首を傾げれば抓んできた指が離れる。
「笑顔にぎこちなさがなくなったっつーか、嘘くささがなくなったよな」
「…それはどうも」
それまで嘘くさい笑顔だと思われていたことに内心ショックを受けたが、火神に対して苦手意識があったのだからそう見られても仕方ないのかも、と思い直した。
「そういう火神君も変わったよね」
「は?そうか?」
「刺々しさがなくなったし、親しみやすくなったよ」
最初は部活で、その後にクラスという流れだったけど、最初の頃の火神はとても近寄れるような雰囲気ではなかったのだ。
黒子君と打ち解けるまではいつもつまらなそうにしていて、野生動物のように誰も近づかないように警戒していて怖かった。
同性である男子はそれなりに早く雑談が出来るようになったみたいだけど、女子は以外遠巻きにされたり、まだまともに話せていない子がいるのが現状だ。
ほとんど話せてなくても告白される彼に驚いたけど、それも文化祭が過ぎた辺りから変わってきている。
火神の態度が軟化していることもあるけど、文化祭の準備で重い荷物を持ったり手伝ってくれたりする火神に女子の見方が一変したのはいうまでもない。
景虎さん曰く、女子の扱い方がわかってない火神だけどアメリカ生活が長かったせいか、近くに氷室さんがいたお陰か、ナチュラルにレディファーストをやってのけることがある。
勿論いつもではないけどふとした瞬間に手を差し出されたり声をかけられたりするものだから、ですら一瞬ドキリとしてしまうことがあった。
恐らくマイナス面に振り切る学業成績も、まあ、残念なところではあるけどそれも火神に親しみを持つ切欠になっているのも確かで。
火神が留学してる間もクラスメイトから何かと火神のことを聞かれたし、ウインターカップも勝ち進むごとに火神の声援が増えているのも知っていたは冬休み明けには更にモテる火神を見ることになりそうだ、と苦笑した。
「お前、まだ俺のことこえーとか思ってんの?」
そろそろ行こうか、ドアノブを掴もうとしたことろでまた火神に先に掴まれ彼を見た。まるで通せんぼするような素振りと困ったような難しい顔をするので目を瞬かせた。
「そりゃ、まあ、すぐに怖くなくなるってことはないんだけど」
「ないのかよ…」
「でも、大分減ったと思うよ?」
あくまでの体感でしかないけど。
不機嫌な火神はやっぱり怖いけどそれは他の人でも同じだろうし、これだけ近い距離に黄瀬君や紫原君がいたら確実に数分と持たずに卒倒できるだろう。
あと多分高尾君や緑間君でもそれなりにパーソナルスペースがないと落ち着かなくなるだろうから、それを踏まえると火神は大分慣れた方だと思う。
「それにホラ!手が震えなくなったし」
「…今迄は震えてたのかよ…」
マジか、と苦い顔をする火神にも見せた手と笑顔をぎこちなく下ろし「し、仕方ないのだよ」と緑間君口調で返した。そう簡単に克服出来たらトラウマなんていらないのだよ。
嘆息を吐いた火神はドアノブを掴んでいた手を放すとするりとの手を掴み自分の方へを持ち上げた。その行動をじっと見ていれば「ちっせーよな。お前の手」との掌を見てぼやく。
そりゃキミと比べたら小さいだろうけど女子同士なら普通の大きさだと思うよ。
そんなことを頭の中で返していたら火神はの掌をじっと見つめ、それから顔まで持ち上げるとそのまま唇を落とし自分の頬に押し付けた。
2019/09/14
BOM(笑)