Grand finale - 02


「ん、確かに震えてねーな。………って、どうしたんだよ。顔真っ赤だぞお前」
「っ…じ、自分が今、何したか、わか、……っ」

掌にキスをする必要あった?!と脳内で叫びながらは上昇した血圧に言葉が上手く出てこず、何度も空気を噛んだ。

何そのナチュラルさ!なんなの帰国子女!わかってやってんの?!とわなわなと震えていれば、火神は眉を寄せ「は?何いってんだよ。はっきりいえよ」と顔を近づけてきた。近づかないでよ!


「ちょ、近い!近いから!」
「ああ?何でいきなり怖がんだよ」

さっきまで普通だったじゃねぇか!と怒る火神に普通じゃなくさせたのはお前だ!と脳内でつっこんだ。キミのスキンシップは濃過ぎて心臓持たないんですよ!
ショック死させる気か!と空いてる手で彼を押したがビクともしなかった。今日こそ自分の非力さを悔やんだことはなかった。


「こ、怖がってるんじゃないよ。ただ、そういうことされるとビックリするから…!」
「そういうことって?」
「………」

観念して素直に答えたが肝心なところをぼかしたせいか火神は眉を寄せるだけだった。しかも更に顔を近づけてくるし。ドアと火神に挟まれてる私の気持ちになってほしい。

必死に『壁ドン』ではない、と考えながら、自分が何をしたがわかってない火神を苛立たし気に睨むと掴まれていた手を引き抜き、逆に彼の手を取って自分の顔の前まで引き寄せた。

自分よりもひと、ふたまわり大きくて硬くなっている掌をジッと見ただったが、見つめる時間はそこそこに軽くスタンプをする程度に火神の掌にキスを落とした。



「こういうことだよ」

わかったか、と赤い顔でコートの袖で彼の掌をゴシゴシと拭いて豪語したが、火神は固まったまま何もいってこなかった。
何の反応がないのも怖いんですが、と見上げると真っ赤な顔でこっちを凝視していて肩がビクッと跳ねる。ちょっと怖いです火神君。

「お、まえ、な…」

口を開いたかと思えばこそばゆいようななんともいえない顔で口を歪め、「あーっ」頭を乱暴に掻くとそのままの顔のすぐ近くで頭をドアにぶつけた。豪快な音がしたんですが。大丈夫なのか?


「悪ぃ。それ無意識にやったわ…」

恐々と赤くなった火神の頬や耳を見ていると萎んだ声で謝ってきた。無意識…と聞いて内心ドン引きしたが「こういうこと無暗に人にやっちゃダメだよ」と釘を刺すまでに留めた。


「…やんねーよ…つか、お前以外やったことねーっつーの……」
「だったら尚更、気を付けないと…」

恐らく火神が今1番慣れているのは自分だろうから、だからたまたま出たんだろうけど、それを誰彼構わず出してしまう日が来るのだろうか。


そんなことを考えゾッとした。嫌だよ、アレックスさんみたいな火神なんて。そんな火神は見たくない。火神はバスケバカ程度で丁度いいのだ。

「他の人にそういうことしちゃダメだからね」と念押しして忠告するとドアに頭を押し付けていた火神が少し離れ、ジト目でを見てきた。顔は赤いままだ。



「だったら、お前も早く俺に慣れろよ」
「え、いや、そういわれても」
「お前が慣れねぇから、俺まで変な行動しちまうんだよ」
「私のせいなの?」

それはいいがかりでは?と眉を寄せれば「お前のせいだ」と断言された。
何か言い返したかったけど、この近すぎる距離のせいで、を閉じ込めるように両手をドアにつける火神のせいで言葉を飲み込んでしまった。


「さっきみたいなことはお前以外しねーし、する気もねーよ。だからお前も俺のこと必要以上に怖がらねぇように早く慣れろ」


お前に怖がられんの結構キツいんだよ、と本音を吐露する火神に、は途端に申し訳なくなって「はい。頑張ります」と素直に頷いた。
うん、それは反省してる。火神はいい奴なのにいつまでもビクつくのは良くないよね。

うんうん、と頷いていると火神の手が頬に降りてきてそっと親指で撫でた。感じる視線に顔を上げれば思った通りの人がを見ていて、でも初めて見るような目に内心ドキリとした。


「そしたら、俺だって…お前にちゃんと」


潤んでるような瞳でじっと見つめる火神の視線は言葉以上に強くに訴えているかのようだった。

頬を撫でる指は触れるか触れないか、という絶妙な塩梅で触れてきて妙に胸を締め付ける。くすぐったいようなゾクリとするような感覚に息を呑んだ。


火神を見つめれば見つめる程顔や身体が熱くなって沸騰しそうだった。





「俺だって、なんですか?」
「っ!!!???」
「靴を履いたならさっさと退いてくれませんか?」
「うおあっく、黒子???!!!」

だんだんと近づいてくる火神には固まったままその瞳を見つめ返しているといきなり第3者の声が聞こえ、火神が飛び退くように振り返った。

見ればムスッと不機嫌顔の黒子君が立っていて「2号も一緒ですよ」と火神の前に2号を差し出した。


「うわああ!こ、こっちに向けんじゃねーよ!!」
「慣れろというなら火神君はいい加減2号に慣れてください」
「すぐには無理だってつってんじゃねーか!…て、待て。お前…いつからいたんだよ…っ」

ワン!と元気よく吠える2号に火神はまた飛び退き、そして何故かを抱きしめた。ドアに貼り付ける程の広さはなかったのは確かだけど、抱きしめる必要はあるのだろうか。

さっきのせいで顔が熱いし、火神は手加減なしに抱きしめるからそれなりに痛くて顔を歪めると、黒子君は盛大に溜息を吐き「最初からいましたよ」といってを見た。


倣うように火神も腕の中にいるの顔を伺ってくる。ぎこちない顔に本当に気づいてなかったのかと驚きながらも頷けば「知ってたなら教えろよ!」と怒られた。
いやだって私はちゃんと気づいていたし。会話もしてたし。



「火神君。さんに当たらないでください。気づかない火神君が悪いんですから」
「うぐ、」

「それから、火神君にもさんを譲るつもりはありませんよ」
「へ?」
「は?」
「力任せにさんを抱きしめる人にボクが"はいそうですか"、と渡すと思いますか?見くびらないでないでほしいです。そんなわけで、早くさんを解放してください」


苦しそうですよ、と指摘する黒子君に火神はこっちを見たかと思うと途端に顔を真っ赤にして「どわあ!」と叫びながら靴箱にぶつかる勢いで飛び退いた。また無意識でやってたの?火神君よ。

マジでこの子、他の女子に何かしでかす前に先手を打たなければいけないんじゃなかろうか。

いや、それよりもさっきとんでもないことを黒子君が言ってたような…と熱で回転が鈍くなっている頭で考えていると、ガチャリと浴室に繋がるドアが開き一斉にそちらを見やった。



「あ〜気持ち良かった!道理で声が近いと思ったらそんなところにいたのか。大我の叫び声が聞こえたけど時間が時間だからあまり叫ばない方がいいぞ」
「!!!っだあああ!!!!っ見んな!!」

浴室から出てきたのは勿論アレックスさんだったのだが、火神の悲鳴と共にの視界が閉ざされた。あれ、なんかアレックスさんの肌面積がやたらと多かったような…?

室内だと冬でもキャミソールやショートパンツを穿いている彼女なので一瞬見えた格好に違和感は感じなかったけど、火神は大いに慌てた様子で「黒子も見んじゃねぇ!」と叫んでいた。


再び火神に抱きしめられたは何が何だかわからず、黒子君を一緒くたに抱きかかえられると目にも止まらぬ速さでドアが開き、そして近所迷惑も考えずに火神は勢いよくドアを閉めたのだった。




2019/09/14
というわけでほんのりvsな感じで終わります。意図せず被る壁ドン。
この後の番外編などはこちらのルートの派生話になります。