EXTRA GAME - 32


祝勝会もそろそろお開きにしよう、ということになりそれぞれ帰宅することとなったのだが、は火神に呆れに近い目で睨まれていた。
怖くてずっと顔を逸らしてるせいで首が吊りそうだしそろそろ睨むのやめてもらえないでしょうか。

『次はまた敵同士だからな』て、青峰と青春って感じで別れたじゃないか。その空気はどこに行ったの。



「おーい。帰んぞ〜」

1番最後になった達は日向先輩の号令で歩き出すものの隣を歩く火神の目線が痛くて仕方なかった。

「なんだよ。"敦君"って」
「し、仕方ないでしょ…神様呼びやめてっていったらそうなっちゃったんだから」

火神がいっているのは別れ間際、紫原君に返したの一言が発端だった。


実は普通に話せるようになりたい、と話していた時に『神様呼びをやめてほしい』と紫原君にお願いしたら「じゃあ神様も俺のこと名前で呼んでね」と返されてしまったのだ。

紫原君は気にしてないだろうけどは気になるのだと、そのあだ名は嫌だなと、だから変えてもらえないか?とごねられられたらそう切り返すつもりだったのにあっさり「いいよ〜」と承諾され呆気にとられたのはいうまでもない。

そして苗字をすっ飛ばして名前呼びになるとも思っていなかった。よそよそしさがなくなって好感度高いけど瞬間移動で間合いに入られてる感は否めない。
あとまさかも名前呼びを要求されるとも思ってなかった。



まるで黒子君の時みたいだ、と反対隣にいる黒子君を見やるとむっつりしたまま前を向いていてこちらに目もくれなかった。今迄にないくらい怒ってるように見えて怖いです。

「お互い名前呼びとか仲良しかよ」
「…そうなる予定ですよ」
「はああ?」

多分…と、くっつけたが火神の声にかき消された。
だって紫原君に怖がってるのバレちゃったし話しちゃったし前向きに仲良くなれたらいいね、みたいな話になってるから今更逃げることは不可能なのだ。

みんなを待ってる間に腹を括るか、と覚悟したので一応心は決めているけど、さっきのことで吐き気を催したのも確かなのでこれ以上一足飛びで来ないでほしいなと願っているのもいうまでもない。

できるならもう少しスローペースでお願いしたいです。


「敵校の奴と話すだけで呼び方まで変える必要あんのかよ。つか、あいつと仲良くなる必要ねぇし」
「……」
「お前、紫原に"秋田に来い"っていわれてもホイホイついて行くんじゃねぇぞ」
「それはないよ。さすがに…」

さすがにそこまではしない。と肩を竦めたが火神はちょっと本気で心配してるみたいで言い訳することを諦めた。今更陽泉になんて行かないんだどなぁ。



鞄を肩にかけ直し、ヒリヒリする手を見ると緑間君の苦い苦い表情が蘇ってくる。

あの後取り出した除菌シートでの指を皮膚が破けるギリギリまで丹念に拭いていた緑間君はちょっと怖かった。高尾君も何も言わず緑間君見守ってたし。
別れ際なんて「最悪、赤司にSPをつけてもらうのだよ」なんていわれるし。

あの赤司君だったらお願いしたら本当につけてくれそうで絶対にいえないなぁ、と先程迄の彼を思い出し肩を竦めた。
赤司君なんか、紫原君と別れの言葉を交わすギリギリまでもう1人の赤司君並のゾーンディフェンス展開してたしね、と思いだしたところで「あ、」と声をあげた。


「赤司君ってもう1人の赤司君と統合したって本当なの?」
「はい。そのようです。試合終了間際でまた雰囲気が変わったのもありましたし、試合展開もそのように受け取れるものでした」
「片方だけでも十分強敵だったけどな」
「ウインターカップ、また荒れそうだね」
「まあな。黄瀬の"完全無欠の模倣"の精度も格段に上がってたし、青峰のヤローも『Jabberwock』相手にフルで動けてたしよ」
「それに個人練習を見ていましたが緑間君の最大本数も増えているようですし、紫原君も油断できません」
「敦君、試合中笑ってたもんね…」

どいつもこいつも気が抜けぇな。と笑った火神だったが、紫原君を名前でいった途端「ああ?」とドスの利いた声で睨まれ思わず黒子君の後ろに隠れてしまった。
氷室さんだって紫原君のこと名前で呼んでるのに何で私ばっかり怒られるの??



「火神君。これはさんが紫原君に慣れる為の手段なんですからいちいち怒らないでください。また嫌われますよ」
「き、嫌われてねぇーよ!怖がられてるだけだろ?!」
「度が過ぎれば同じことです」

確かに度が過ぎるのは困ります。と考えていると振り返った黒子君がの顔をじっと見て、それから火神に向き直り「嫌われる1歩手前なのでそろそろ自粛してください」と一喝入れていた。ありがとう黒子君。


「それから、さん」
「ん?」
「紫原君と話せるようになるのはいいことですし応援していますが、名前呼びは個人的に凄く嫌な気分になるのでスミマセンがボク達と話す時は紫原君のことは苗字呼びでお願いします」
「え、…あ、はい」

心の中でお礼を述べただったがそれは早まったのかも?と思ってしまった。もしかして黒子君も私が紫原君と仲良くするのは嫌だったりするのだろうか。


「なんだよ!結局テメーも嫌だったんじゃねぇか!」
「火神君はさんに八つ当たりしてただけでしょう?一緒にしないでください」
「八つ当たりじゃねーし!」
さん。この通り火神君がいちいち怒ってくるので苗字呼びでお願いします」
「俺のせいにすんじゃねーよ!!」

なんだよっそのわざとらしい溜息は!と憤慨した火神は黒子君に矛先を変えぐりぐりと拳と頭に押し付けた。あれ結構痛いんだよね。



「火神君。テツヤ君が好きだからってあんまり痛めつけちゃダメだよ」
「はあ?!」
さん。ボクにも選ぶ権利があるので」
「おいちょっと待て!何で俺が片思いみたいな位置に連れてかれてんだよ!」
「スミマセン火神君。相棒としてならともかく恋愛はちょっと…丁重にお断りさせていただきます」
「誰も告ってねーし!つか、こっちから願い下げだっつーの!!」
「え、火神君。テツヤ君とコンビ解消しちゃうの?」
「何でこの流れでそうなんだよ!!!」


それ痛いから程々にね、という意味も込めて発言したら何故か黒子君が乗ってきて火神も食いついてしまって変な流れになってしまった。しかも光と影を解消します、までいいだすし。

そんなことされたらウインターカップに行けるかわからなくなるんだけど、と心底困った顔をしたら「それはしねーから安心しろ!」と苛立った声で乱暴にの髪をかき混ぜた。うん。わかってます。


「おーい。そこの漫才トリオ〜置いてくぞ〜」
「はあ?!漫才トリオじゃねぇし!!!」
「ああ?なんかいったか?」
「……で、ですよ」

かけられた声に勢い任せで返したら相手は日向先輩で、火神はビクッと表情を固まらせたがすぐに我に戻り、とってつけたような敬語を追加した。

その言い回しは敬語を通り越して新たな日本語…というか火神語になってるような気もするが辛うじて日向先輩の逆鱗には触れなかったらしい。


早く来いよ、という呼びかけに随分距離が開いたなと気づいた達は、慌てて先輩達の元へと走った。




2019/11/11
これにてエクストラゲーム終了です!ありがとうございました!
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