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サークル仲間に拝み倒され仕方なく数合わせで参戦した合コンは、なんとも予想通りの結果になっていた。
横の繋がりは何かと役に立つので仕方ないかと諦めたが両端にいる女の子達がやたらと可愛さをアピールしてきたりスキンシップで忍足の足を意味深に撫でてきたり胸を押し付けたりされて忍足はなんともいえない顔で酒を煽った。

大本命のS大との合コンが流れ、2、3番手に置いていたであろう女友達から丁度誘いがあり暇だから行ってみるか、という流れで今回の合コンが開催された訳だが目の前にいる彼女達を見て仲間達の視線が一気にシラけたのを忍足は見た。
5対5なので5人はいるのだが彼らが合格ラインに置いたのはこの合コンを取り持った女友達A子だけだろう。そして次点は胸の谷間を主張するような服を着ているB子さんのようだ。

彼女の胸はFカップあるらしくその柔らかさにこれはホンマもんやな。と感心した。ちなみに反対隣にいるA子さんは谷間はあるが硬い。恐らく本来の大きさはBかCマイナスなのだろう。

そう、忍足はこの合コンで狙われるであろう女子に挟まれ狙われているのだ。
まあ、わかってはいたんやけど。


チラリと自分に来るよう拝み倒した男友達を見やればC子とそれなりに楽しく話している。A子さんに話しかけるのは諦めたらしい。D子さんも他の仲間と楽しくお喋りしてるようだがその奥にいるE子さんを見て忍足は軽く目を瞬かせた。

めっちゃ喰うとるなあの子。
こういった場だと可愛く着飾る女の子が大半なのだがE子さんの格好はといえばよく言ってカジュアル、悪く言えば部屋着である。最初見た時、え、あの子も合コン参加者なの?と目を疑ったくらいだ。

その彼女はといえば男そっちのけで延々と食べ続けている。これを逃したらもう食べることはできない、と思っていそうなくらいの飢餓っぷりだ。
だぼっとした服装だからよくはわからないが見える部分は細そうに思えるので余計に『その食ったもんはどこに消えとるんやろ?』とほんのり気になっていた。


「忍足くんってスポーツやってるの?足の筋肉硬いよね」
「腕だって筋張ってて男の人って感じがするなぁ」

私好み!と迫ってくる女の子に忍足は「あー学生の時チャリで通ってたねん。せやからとちゃう?」と愛想笑いつきで返した。勿論嘘である。というか、脚の付け根とか際どいとこ擦らんでほしいわ。

「ええ〜?そうなの?でも部活は運動部だったんでしょ?」
「んー残念。文化部やで」

脚を組み、いやらしい手から逃れるとA子が食い下がるように聞いてきたのでにこやかに否定した。
勿論それも嘘で中高全てテニスで青春を謳歌したが、その話をすると大抵跡部の話になって女の子達の目の色が変わるから自分を知ってる人間以外には伏せている。自分よりも跡部の方がモテるというのも腹立たしいしな。


サークル仲間にも文化部で通しているので誰も気にも留めてなかったが何故かE子さんだけ驚いた顔でこちらを見てきた。その顔に驚き忍足も視線をやるとバチンと目が合い、慌てた彼女の方が先に逸らした。なんや、あの子俺のこと知っとるのか?



******



「えええっ忍足くん帰っちゃうのぉ?!」
「すまんすまん。大事な講義のレポートがまだ残っててん。明日には提出せんと単位落とすしオカンにシバかれるんよ」

堪忍な。と申し訳なさそうにA子さんの腕に絡まれた自分の腕を引き抜き「また今度遊ぼうな」と手を振って2次会に行くというサークル仲間達と別れた。
元々1次会だけの参加だけでいいといわれていたし、仲間達もその方が動きやすいだろう。

チラリと振り返れば次の店に向かっている彼らの後姿が見え、忍足にべったりだったA子さんの両隣にサークル仲間がピッタリくっついている。肩や腰に手を回され、満更でもない顔で笑っているA子さんに股緩そうやな、と冷めた目で見て歩き出した。


酔い覚ましも兼ねてブラブラと繁華街を歩いて帰っていると少し離れた場所にラーメン屋が見えた。昨今ラーメン屋なんてどこにでもあるものだがその店先に見覚えのある人がいて思わず立ち止まってしまった。E子さんや。

先程テーブルに並べられた料理を片っ端から食べ、追加注文したものも8割方食べつくした彼女はエレベーターを降りてみんなが少しだしたところで帰ってしまった。
どうやらC子さんと友達のようで彼女にだけ話して帰ったようだったが誰も彼女がいないことも帰ったことも聞かなかった。

それはそれで可哀想だな、と思ってはいたがまさかこんなところにいるとは思わず声をかけようかどうしようか迷った。
自分のことを知っているらしい素振りが気になっているから聞いてみたい気もするがあの合コンでは席が対角線上で1番遠かった上に一言も話さなかったのだ。それで話しかけたら気味が悪いいだろうし、下手を打って自分に意識されても困るなとも思った。



「…しかし、まだ食う気なんか?」

真剣にラーメンのメニューを見詰める彼女に忍足はなんともいえない顔で見てしまった。どうするんやろ、と怖いもの見たさで眺めていればE子さんはメニューと睨めっこをした後おもむろに財布を取り出し、それでも暫く考えてから踵を返した。どうやら諦めたらしい。

そらそうやろ。あれ以上食べたら太る前にお腹壊すで。彼女が動き出したので自分も帰ろうかと足を踏み出した忍足だったがその脚はピタリと止まった。視線の先にはE子さんが歩いているのだが彼女の後姿全体、というより少し下の下半身に目が釘付けになった。

上はだぼっとしていて合コンの時は細いのか太いのかもあまりわかってなかったが、下はジーンズだった。細すぎず太すぎずな体型にやはりあの食料がどこに消えたのかが気になった。


いやそれ以上に。

思わず忍足がごくりと喉を鳴らした。


見えなかったとはいえ、俺はとんでもないものを見落としていた。
何やアレ…!なんつーいい脚しとんねん…っしかもごっつ俺好みの脚してるやん!しかもべちゃべちゃに触りまくりたいガチの脚やん!!

夜ということすらものともせず、外灯とネオンだけで忍足はE子さんの脚に反応し、その程よい肉付きと絶妙なラインに思わずバッと手で口を覆った。あの子なんという凶器持ってんねん!あんな凶器フラフラしとったら目の毒やん!!

合コンで胸を押し付けられたり脚の付け根をいやらしく触られたりした時以上に忍足の心臓が興奮して足を素早く動かした。
アカン!あの子を放っといたらアカン!他の男に渡したらアカン!他の男に汚される前に俺が守らなくては…っ
そんな下心ありありで傍迷惑な使命感が忍足の心の中で生まれた。

早く追いつこう、そう思っていたら何故かE子さんが立ち止まりぐるりと振り返ってこちらに向かってきた。もしかして俺に気づいたのか?とドキリとしたが彼女は一心不乱にラーメン屋に突進していった。


「結局食うんかい!!」
「え?」

ガラリと引き戸を開けたところで突っ込みを入れてしまった忍足にE子さんはやっと気づいてこちらを見たのだった。



2016.01.16