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合コンというのは、主役の女以外は引き立て役でじゃがいもと同じなのだという。

今日授業に出たら突然クラスでもそこそこ可愛い子と全然知らない美人に呼ばれ合コンに誘われた。

高校を卒業して専門学生になっただが、生まれてこの方まったく縁のないイベントに何故自分なんだろう?と首を傾げた。
どうやら行く予定だった子が急遽体調を崩したらしい。だからといって私を誘うのはおかしくないか?と返したがクラスメイトに「ただそこにいてくれるだけでいいの!たくさんご飯食べていいから!!」といわれ、ふたつ返事で返してしまった。


行ったら行ったで明らかに遊んでそうなチャラい(といっても医学生らしいのでインテリチャラいかな?)人達が待ち受けていては今すぐ帰りたい気持ちで一杯だった。
値踏みするようにジロジロ見てくる視線が気持ち悪かったし隣にいた男がお尻を触ってきたのが更に気持ち悪くて睨んだ。断固とした拒絶にその人は早々にクラスメイトに乗り換えてたけど。

対角線上の、1番遠い席では美人とFカップが競い合うように互いの胸を彼に押し付けているのを見て、思わず「…乱れてる」と顔を歪めてしまった。


とにかく食べるだけ食べて満足したはぐでんぐでんに酔っ払ってるクラスメイトに断りを入れてさっさと帰った。その際、誰も気づかず話に夢中になってるのがちょっとだけ寂しかった。
混ざる気がなかったからいいんだけど、でも、自分がないものと扱われたのがほんの少し悲しくて、眠そうにふらつくクラスメイトを支えてる男がニヤニヤと笑っているのを、ヒソヒソと仲間と相談してるのを見過ごしてしまった。

せめて、私が引き取って家に送った方がよかったかな?と別れた後に思ったが未成年とわかっててお酒を飲んだのは彼女だし、あの人達もお金持ってそうだから車なりタクシーなりで送ってくれるだろう、そう安易に考えた。


そんなことよりも、だ。


何で1人で帰ったはずなのに、よっし、最後の〆にラーメンでも食べるか!お金ギリギリだけど!と迷いに迷った末ラーメン屋に入ったのに、何で隣に彼がいるんだろう。

何故かラーメン屋で鉢合わせした彼は何故か一緒にラーメン屋に入り、そして何故かの隣の席に座っている。あの後二次会に行ったのだとばかり思っていたが解散でもしたのだろうか?

そう思い女子投票NO.1だった彼を盗み見れば「あ、眼鏡曇ってしもた」と白くなった眼鏡を外しポケットに入れラーメンをズルズル食べていた。一体何なんだろうこの人。


訝しげに思いながらも視線は彼の手元のラーメンに注がれた。腹立たしいことにが頼んだラーメンよりも彼のラーメンの方が焼豚も煮卵も1こずつ多い。
自分が食べたかったラーメンだっただけに凄く凄く羨ましいが財布の中身と相談したらノーマル分しか持ち合わせてなかったから仕方がない。

「なんや、物欲しそうに見とるけどこれが欲しいん?」
「え?!いや?別に?!」

あまりにもじと目で見ていたせいか彼は苦笑して「俺は腹いっぱいやからもろてや」と焼豚と煮卵をぽいぽいと寄越してくれた。合コンでそれ程食べてなかったはずなのにお腹いっぱいって…もしかして気遣われたのかな?と思ったら余計に恥ずかしくなった。

温度が上がった顔で「ありがとうございます」と礼を言えば視界の端で彼が嬉しそうに微笑んだのが見えた。


「ほんでさんは何で合コンに行ったん?あの子らと友達じゃあらへんよな?」

ラーメンを食べ終え、2杯目のビールを飲む彼には軽く咽た。名前、覚えてたんだ。ギリギリ自己紹介までは私の存在あったからかな。

「1人はクラスメイトだけど後は知らない子です。合コンに行った理由は……1000円でご飯食べ放題だっていわれて…」
「よう食べとったもんなぁ」


場違い感半端なかったけど貧乏性ゆえかここで食べなければ一生後悔すると思って食べたのだ。ただ緊張故か満腹中枢が壊れてるのか別れた後もラーメンが食べたくなってうっかり食べてしまったのだけれど。

ずるる、と残り少なくなったラーメンをすすりながら遠い目をした。
男そっちのけでご飯にがっついてたところもラーメン屋に入るところも全部見られるとは思ってなくて内心溜息を吐いた。

「一体その身体のどこにあの量の料理とラーメンが入るのか不思議やなって思っててん」とこちらを見ていわれると余計に美味しいラーメンが味わえない。


「友達には"痩せの大食い"ていわれます…」
「……あ、責めてるわけちゃうで?たくさん食べても身体に負担がかからんのならええと思うし」
「それは大丈夫です」
「最初は驚いたけど、ラーメンも美味しそうに食べとる自分見とったらなんや微笑ましい気持ちになったで」

はふはふいいながら食べとるとこなんかめっさかわええし。頬杖をつきこちらを見てにっこり微笑む忍足さんにはぎょっとして固まった。何をいっているんだろうこの人。

確かにちょっと猫舌だけど可愛くはないでしょうよ。小さい子供がそんな食べ方をしたら可愛いだろうけど、それと一緒ってこと?
意味がわからなくて首を傾げたはスープを少し飲んで口を拭くと荷物を持って立ち上がった。


「ほなら会計一緒でお願いしますわ」
「えっ!」

と同じようにビールを飲み干し立ち上がった忍足さんがと自分の会計をあっという間に済ませてしまった。
驚きさっさと出て行く彼を追いかけると後ろで「あざーっしたー」とラーメン屋の店員の声が響いた。

「あの、忍足さん!悪いですよ!払います」
「ええからええから。ここは俺に奢られといてや」


無理矢理付き合わせたお礼や、とニコニコと微笑む忍足さんには困惑した。初対面の人にお金を払ってもらうなんて初めてだからどう対処したらいいのかわからなかった。
とにかく悪い気がして財布を出したが忍足さんは断固としてお金を受け取らなかった。何気に頑固だこの人…。


「え、あーじゃあその、ご馳走様でした。ありがとうございます」

仕方なく財布を仕舞ってぺこりと頭を下げれば忍足さんは満足そうに笑ってポケットから眼鏡を取り出しかけた。それを見てはあれ?と目を瞬かせる。

「忍足さんって、視力いくつなんですか?」
「おん?あー2.0やで」

伊達眼鏡なのか。格好も格好だがおしゃれ眼鏡もかけてたのか。とんだおしゃれ野郎である。
ファッション雑誌から出てきたようないかにもな服装に目の保養になるなくらいは思っていたがやぱり次元が違うくらいの距離感がある気がした。東京の人って垢抜けてて本当羨ましい。


「ああ、さん。眼鏡外した俺の顔誰にもいわんといてな?」
「??どうしてですか?」
「どうしてて…恥ずかしいからに決まっとるやん。人前で眼鏡外すの久しぶりやで」

ラーメンに気を取られ過ぎてたわ、と笑う忍足さんには益々首を傾げた。別に目が3になるわけでもめちゃくちゃ不細工な顔になるわけでもないのに何で恥ずかしいんだろう。


「忍足さんは眼鏡外しても格好いいと思いますよ」
「……おおきにな」

鞄を肩に掛け、それでは、と駅に向かおうとすれば「駅まで送るわ」という紳士的な忍足さんの申し出もあって2人で駅へと歩いていた。その際、思ったことを口にすれば目を丸くした忍足さんが照れくさそうに笑ってお礼を述べたのでこっちがドキドキしてしまった。


「せや、さっきもおおきにな」
「え?なんにことですか?」
「俺が"テニス部"やって知っとったんやろ?」

並んで歩きながら何事かと彼を見やればそんなことをいわれ、「ああ」と漏らした。そういえば合コンの時に忍足さんが運動部じゃないと嘘を言ったのでビックリしたのを思い出した。
何で隠そうとしたのかわからないけど何か理由があってそうしたんだろうなってくらいは察しがついたので何も言わなかったのだ。食べるのに一生懸命だった、というのもあるけど。


「はい。自分もテニス部だったんで」
「そうなん?どこの学校?」
「千葉の六角です」

女子テニス部は弱小すぎたが男子は結構強かったので関東大会の応援にきていたのだ。その時に忍足さんのことを知ったといえば「六角か」と懐かしそうに彼が微笑んだ。どうやら六角生を覚えているらしい。

そのことがなんとなく誇らしく感じていると何か思いついたらしい忍足さんが「せや、」といって立ち止まった。


「こうやってテニスを知ってるもん同士が出会ったのも何かの縁やし、これから飲みなおさん?」
「え、でも、私お酒飲めないですし」
「ええてええて。さんはジュースでええから俺に付きおうて。な?」

そういう忍足さんもお酒飲んじゃいけない年齢のはずなんですが…。それにうっかりすると終電を逃す可能性のある時間になってきたし、さっさとお風呂に入りたいしで、できれば帰りたいなと思ったのだけれど。

しかし忍足さんは思いのほか押しが強くて「じゃ、じゃあ、1時間だけなら」とが折れるしかなかった。

この人、合コンの時ってこんなに押しが強かったっけ?
まるで別人みたいに楽しそうな忍足さんに手を引かれるまま、達は駅とは別方向へと歩き出したのだった。



2016.01.16