君色シンデレラ・11


授業も終わりやっと休み時間だ!と動き出した生徒達の中で1人だけどんよりした顔の生徒が積み上がった本を手に取り中を開いた。置かれている本は皆それなりの厚さですぐには読み終えられないものばかりだ。
一応ちゃんと授業は受けたが本が厚いのと数が多すぎてどこにも仕舞えずずっと出しっぱなしだった。

〜大丈夫か?」
「大丈夫…多分」

覗き込んでくる前の席の向日には小さく微笑むと「何やこれ。全部恋愛ものか?」と聞き慣れた声が耳に入った。


「あれ?侑士。お前がこっちにくんの珍しいじゃん」
「ああ、やな。一応誰かさんがヤキモチ焼かんように気ぃつこて来ないようにしとったんやけど、どっかの誰かが俺の友達苛めるんでな。解禁したんや」
「……」

チラリと見てくる視線を感じながらもは一心不乱に本を読んでるフリをした。誰がヤキモチを焼くっていうんだよ。別にアンタが結構付き合いよくて友達多いのは知ってるよ。それでヤキモチなんて焼くわけないでしょうが。


「にしても岳人も難儀なやっちゃな。跡部にのお守り任されたんやろ?」
「別に難儀でもなんでもねぇよ。は友達だし、結構いい奴だしな」
「ほぅ。良かったな、友達増えて」
「……うっさい」

嬉しそうに頭を撫でてくる忍足にペシっと手を払えば髪をぐしゃぐしゃにされた。

「ちょっと忍足!」
「…え?お前らって結構仲いいの?」
「仲いいも何も1年からずっと同じクラスやったし。ああそうそう。俺、の友達第1号やねん」
「忍足の友達第1号でもあるよね」


口外に友達いねぇとか言わないでほしいんだけど!"あかりん"達にイジメを受けて以来、友達関係がガラリと変わってしまって話せる子がいなくなったから余計に心が荒む。
チラリと美琴の席を見たが休み時間とあってかその席は空席だった。

ハァ、と溜め息を吐くとまた忍足に頭を撫でられた。前から思ってたけどアンタって人の頭撫でるの好きだよね。


「んで、は何こないにぎょうさんの恋愛小説読んどるん?」
「……跡部くんに渡されたんだよ」

上から1冊取り上げてパラパラ捲る忍足には溜め息混じりに返した。
あの後全部の授業をすっぽかして跡部に根掘り葉掘り聞かれて話せば「これを読め」と洋書を手渡してきたのである。さすがに原本は無理ですと泣きつけば仕方ない、と手渡されたのがこの本の山だった。

「…これ読んで恋愛の仕方覚えろっちゅー話か?」
「いや、これ読んで展開と構成を学べって」

とにかく読んでるものが少ない、といわれたのだ。他にも用意してるらしいが何で最初に恋愛もの…。私まだトラウマ脱出できてないんでけど、と思いながらページを捲ると「ふぅん。跡部も考えてるんやな」とどうでもよさげに忍足が同意した。


ってマジで小説家になんのか?」
「あーうん。とりあえず目指す方向になってる」
「へぇ!じゃあ今のうちサインもらっておこうかな!」
「…やめて。それだけは勘弁して」

「いいじゃねぇか」


向日のとんでもな発言にぶんぶんと首を横に振れば黄色い悲鳴と自信満々な声が耳に届いた。うわ、という顔で見やれば予想通りの人がいて、彼はドヤ顔で積み上がってる本の上にまた本を置いた。

「アーン?全然減ってねぇじゃねぇか。まだ読み終わってねぇのかよ」
「…休み時間でどんだけ読めっていうのよ」

無理言うな!と文句を言えば「口答えしてんじゃねぇよ」とデコピンされた。加減してもらってるとはいえ地味に痛い。
ハァ、と溜め息を吐いて髪をかきあげる跡部に周りの女子からも色めいた溜め息が零れる。どこに行ってもこの反応が見れるからある意味可笑しい。

一気に上がった人口密度には身を縮みこませた。1人だけでも十分濃いのに3人もテニス部揃ってるとか生きた心地しないんですけど。


「それよりも跡部。自分よう顔出せるな。いつか刺されても知らんで?」
「アーン?俺は何もしちゃいねぇよ。ただ初犯だからっつっていい気になんじゃねぇと言ったまでだ」
「…それにしたって3年のこの時期に転校させるなんて鬼やで」
「それを選んだのはあいつらだろ。別にここじゃなくても生きていけるだろうし、いつかは自分達に返ってくるんだ。いい機会だっただろうぜ」

ハッと鼻で笑う跡部に「ま、それもそうか」と笑う忍足の顔は極悪人である。詳しくは知らないが向日から"あかりん"達のことを聞いた忍足が跡部にチクって説教をしたらしい。
そこまでは良かったが関わった男子達はいつの間にか転校してしまっていた。あの"あかりん"を好きな男子もである。

それから"あかりん"を含む女子も1人は転校、もう1人は精神ショックとかで入院、"あかりん"は登校拒否になってしまった。

これを制裁といわずして何になるだろうか。恐ろしい。
そう思ったのはだけではないらしく向かい合わせの向日も似たような顔をしていた。


予鈴が鳴り、クラスに生徒が戻り始めると跡部達も動き出したが忍足はまた頭を撫でてきたので跡部がその手を捻り上げた。

「いたたっ何すんねん!」
「何って聞きてーのはこっちだ。きたねー手で触ってんじゃねぇよ」
「うわっ独占欲剥き出しかいな!カッコ悪!」
「うるせーよ!」

忍足の手を捻り上げたまま連行していく跡部をやや引き気味に見送っていれば視線に気がついたのかいきなりこっちに振り向いた。勿論驚いた。


。週末の土日空けとけよ」
「え?」
「お前が知らないって言ってたタイトルの映画鑑賞するんだよ。忘れたのか?」
「う、ううん!覚えてるよ!!」
「…ならいい。それから夜はクラシックコンサートに行くからな。ちゃんと寝とけよ」
「何やそれっ跡部やらしー…いててっ」
「テメーはさっきからうるせーつってんだろうが!!」

茶化す忍足に喝を入れた跡部はそのまま振り返らず教室を出て行く。あ、手を振った忍足の背中蹴った。あいつら、仲がいいのか悪いのかわからないなぁ。


「…?何?」
「……もしかしてお前と跡部って付き合ってんの?」

本を閉じ、さっきよりも高くなった山の上に本を置くとまじまじと見つめてくる向日と目があった。付き合ってる…ねぇ。

「付き合ってないよ。跡部くんに見合うレベルじゃないし。まだまだ頑張らなきゃないとこたくさんあるから」

いつかはそうなればいいな、なんて淡い期待をしてるけど。けど今は彼に追いつきたい、追いかけたいって思ってる。


「やっとスタート地点って感じだから全部これからだよ」

照れくさそうに笑うを向日はポカンとした顔で惚けたが、我に返ると少し赤い顔で「まあ、頑張れよ!俺も応援してっから!!」と慌てて前を向いたのだった。




2013.05.13
お付き合い、ありがとうございました!