You know what?




□ 四天宝寺と一緒・1 □




高校の入学準備もさくさく進み、短い休みを満喫している中いきなり柳から呼び出しがあり、は何故か立海大附属中学校のテニスコートに来ていた。
荷物にジャージとタオル等マネージャー業に必要な物を持って来いっていわれた時点で察してはいたけど、この鬱陶しい程の熱気はどういうことだろうか。

見える範囲には立海生以外の顔もいる。というか他校生がいるぞ。確か柳の電話では弦一郎達が赤也達を鍛えるという名目でスパルタ練習をするから手伝ってほしい、とのことだった気がする。

てっきり内々で練習するのかと思っていたのだけど違うのだろうか?そんなことを考えながらは集まっている人だかりを尻目に更衣室へと向かった。


「友美ちゃんも捕まっちゃったか〜」
「うん。赤也くんに頼まれちゃったからねぇ」

更衣室で飯田ちゃんや吾妻っちとも再会し女子だけでわいわいしながら着替えていると、皆瀬さんがそんなことをいって笑った。
一応柳から連絡があってからの赤也に変わってお願いされたようだけど柳の気持ちを知ってる身としては物凄くヤキモキしてしまう。しかも心なしか皆瀬さんの顔も寂しそうに見えてしまうから胸が痛い。

折角想いあって柳生くんと付き合えるようになったのだからが口出しするべきではないのだけど柳のことを考えるとこの距離感はいかがなものかと感じてしまう。



柳、大丈夫かな?と密かに心配していれば更衣室の外がなにやら騒がしくなりみんな自然と出入り口のドアに目を向けた。外から聞こえる声は赤也達ではないようで、でも確実に近づいてきていた。

「たのもー!!」
「………!きゃああっ」
「わーっ金ちゃん何しとんねん!!」

いきなり開け放たれたドアにみんな呆気にとられたがいち早く我に返った吾妻っちが悲鳴を上げ、茶色…というかミルクティーの髪色の彼が慌てて目の前にいる元気いっぱいの男の子の腕を掴み「堪忍な!」と出入口から消えていった。
その金ちゃんといえば「えええ〜何でなん?マネージャー見たいやん!」などと騒いでいる。

一体何が起こってるんだ?突如現れた訪問者に固まっていたが開け放たれたドアの向こうにはまだ人がいて、それを見咎めたは慌てて動きドアを閉めた。


その覗き魔くん達との再会はすぐにやってきた。まあ顔と名前は去年の全国大会で確認済だったのだけど。


「すまん!この通りや!!」


更衣室から出てくると少し離れたところで日に透けてミルクティーの髪色になっている彼がもう1人の覗き魔くんを連れて一緒に謝ってくれた。故意に覗いたわけでもないのに土下座までしそうな白石蔵ノ介くんに皆瀬さん達も慌ててフォローに入っている。
そうさせてしまうのは傍らで白石くんに頭を押さえつけられながらお辞儀をしてる金ちゃんこと遠山金太郎くんが今にも泣きそうな顔で震えているからだろう。何をしたんだ。白石くん。

そんな光景を眺めていただったが白石くん達の後ろでぼんやり同じように眺めている彼を見やり、というかじろりと睨めば彼はにっこり微笑んで手を振った。いや、我関せずって顔してますけど君もしっかり見ていたことはわかってるんですよ?



「白石くん。謝るならあっちも」
「え?…あ!千歳!!自分も謝りや!」
「ほなこついわれても俺の視力じゃ見たくても見え…」
「そういう問題ちゃうやろ!」

が無表情にのっぽの彼を指差せば白石くんはバッと顔をあげ振り返った。視力悪いから見たくても見えなかった、とのたまう千歳千里に達は半目で見れば白石くんが更に慌てて謝るように即した。
「肩紐くらいしか見えんかったとね…」と残念そうに千歳千里にしっかり見えてたんじゃねーかと心で突っ込みながら白石くんよりも浅くてあっさりした謝罪をいただいた。


白石くんの必死の謝罪と顔面蒼白になってる遠山くんのお陰で溜飲が下がった達は、とりあえずこの件を収め一緒にコートに向かうことにした。

大きなコートに辿り着けば皆着替えを終え、それぞれ準備体操をしていている。奥の方にいた幸村達の姿を目視するとその手前で四天宝寺の人達に出迎えられた。


「やっと捕まったか!このごんたくれ!余所の学校で迷子になるとかありえへんやろ!」
「せやかて〜コシマエがいうてたマネージャー見たい思ったんや」
「コシマエ…?」

こちらも茶髪というか殆ど金髪の忍足謙也くんに小突かれた遠山くんは頭を抱えながら涙目で言い訳している。しかしおかしな話に首を傾げれば白石くんがコシマエは越前リョーマのことだと教えてくれた。
ついでに前に電話して繋がった時に物凄く立海のマネージャーのことを自慢されたらしい。何してるのリョーマくん。



「それもあって今回合宿が決まった時金ちゃんが"立海のマネージャーに会いたい"いうて聞かんくてな…まぁ俺も越前くんが他校のマネージャーを褒めちぎるなんて滅多にない思うたから興味あったんやけど」
「思ったより人数が少なかばい」

どんなことをいったのかよくわからないけど白石くん達は妙に期待していたようで割って入ってきた千歳千里になんともいえない顔で小さく息を吐いた。


「そりゃ氷帝に比べたら数もなにかも敵わないよ」

派手さも違うしね、と皆瀬さん達と顔を見合わせながら「残念だった?」と肩を竦めると、そんなことはない!と白石くんが力強くフォローしてくれた。


「俺達にはマネージャーおらんからどういう感じかようわからへんねん。せやからってわけやないけど、気ぃ悪くさせたならゴメンな」
「そんなことないよ。氷帝のマネージャーさん達には敵わないのは本当だし。けどこの数日は身の回りをウロウロすると思うけど気にせず練習に励んでね!」

忍足侑士くんよりも裏のないイントネーションにこんな関西人もいるのか、と心の中で呟いていると人好きする笑顔で皆瀬さんが手を差し出したので白石くんも朗らかに微笑み握手していた。とてもいい絵だ。


2人の爽やかな雰囲気を眺めているとその奥の方で茶髪っぽい金髪くんの忍足謙也くんが固まっていることに気が付いた。

彼は遠山くんを小突いた後他の部員の人達と話していたはずなんだけど今はじっと皆瀬さんを見つめている。心なしか顔も赤い。というか口も半開きだ。何この既知感。身に覚えがありすぎては何となく冷や汗を流した。



それから集合がかかり両校の監督の挨拶と注意事項を何点かした後(四天宝寺の監督は一瞬不法侵入者か何かと思ってしまった)練習が始まったんだけど、練習が始まった後もいつもの如く赤也にじと目で睨まれていた。ん?あれ?威力が治まったぞ。

不思議に首を傾げれば視界に緑と黄色のジャージが見えた。視線を上げれば白石くんが「ご苦労さん」とこれまたいい笑顔で声をかけてくれた。

「お疲れ様です。タオルもいる?」
「おおきに」

持ってきたボトルとタオルを渡せば白石くんは何やら感動したようにタオルをじっと見て「ありがとう」とまたお礼をいった。その際の笑顔が尋常じゃないほど心臓に悪いとてもいい笑顔だった。美人って怖いな。


「あーせやから切原くんあないに怒っとったんか」
「え?どういうこと?」

それほどかいていないように見えた汗を拭いドリンクを飲む姿を横目で確認していたら白石くんがそんなことをいうのでは首を傾げた。
白石くんはというとニコニコと笑みを作りながら休憩の号令をかけ四天宝寺の人達がぞくぞくとこちらに歩いてくる。中でもお約束というか遠山くんが走ってきて「姉ちゃん!ワイにもおくれ!」とドリンクとタオルを強請った。


「んー!うまっ」
「ホンマか?俺も俺も」
「…たかがドリンクに何生き急いでるんですか謙也さん…」
「んま!練習終えて冷たいドリンクがパッと出てくるなんてウチらにはなかったことやで!」

有難いことやん!と豪語する坊主頭の金色小春さん(くん?)に財前光くんは「そういうもんスかね」と何とも暖簾に腕押しのような態度でタオルとドリンクを受け取っていた。
それからこれまた体躯の大きい石田銀さんと小石川健二郎くんに同じように手渡した後差し出された手にはなんとなく無言で構えてしまった。



「?それ、俺の分のドリンクとタオルじゃなかと?」
「………」
「…さん。千歳も反省しとるから渡したってや」
「白石くんがいうなら、」

みんなと同じように汗してるのは見てわかるがどうにも信用ならなくて(喋り方とか飄々とした感じとか仁王を思い出すからだ)訝しげに見ていればやんわり白石くんが助言してくれそこでやっと千歳千里にタオルとドリンクを手渡した。


「千歳。自分目の敵にされとるで。何したんや?」
「んー実は、」
「いわないでください」
「せやかて」
「聞かないでください」

ぎこちない顔で受け取る千歳千里にもうそろそろ許してもいいかな、と思いながらも顔には出さず眉を寄せた一氏ユウジくんの追撃をぴしゃりと跳ね除けた。
隣にいた金色さんが何かを察したようで「ユウくん!めっ!」と制止する声を尻目に水飲み場に戻ろうとしたら声をかけられた。


「あ、あんな!このドリンク、さん作ってくれたん?」
「え?うん。そうだけど…」

振り返れば忍足謙也くんがドリンクと赤也達がいる方向を交互に見ながら聞いてくる。その問いに答えながらも「もしかして不味い?」と聞けば忍足謙也くんは首を勢いよく横に振って否定してくれた。目が回らないんだろうか。


「そ、そか!ほならええんや…!」

いいといいながらもしょんばりする忍足謙也くん(長いな…)になんともいえない顔になりながらも「この後も頑張ってね」と月並みの言葉を置いて今度こそ水飲み場へと戻った。




何も考えず始めてみました。
2018.11.05
2018.11.09 修正