□ 四天宝寺と一緒・18 □
財前くん達が微妙な目でこちらを見ているとはつゆとも知らず、は丸井と交渉に交渉を重ねた結果なんとか赤也に通報されることだけは逃れられた。
いや、通報されること自体はそこまで怖くはないんだけど最近西田の携帯を使って苦情の連絡をしてくるからおちおち着信拒否もできなんだよね。絶対に確実に面倒なことになると直感したの選択は間違っていないと思ったが、現状までは予想していなかった。
「はい。あーん」
「い、いやジローくん。その大きさは入らないから…」
「、あーん」
「ほら。口開けろって。あーん」
「あんた達は嫌がらせだよね?」
苛めですか?とジローくんの反対側で同じように切り取ったケーキを食べさせようと構えるプリガムにはじと目で睨んだ。「何をいうとるんじゃ。逆ハーレムというやつじゃよ」とかニヤついた顔でいうな。面白がってるのはわかってるんだよ!それくらいで喜ぶと思うなよ!
「何だよ、ノリ悪ぃな。折角俺達がケーキを食べさせてやるっていうのに。こんな機会滅多にねぇぞ」
「でしょうね。3人同時に食べるなんて芸当誰もできねーよ」
「大丈夫じゃ。ならできる」
「できねーよ!」
「えええ〜っ、俺のケーキ食べたくないの?」
「そ、そういうんじゃなくてねジローくん…」
何力強くいってんだよこの詐欺師!お前さっきから酷いことばっかしてるぞ!と苦々しい顔で見たがジローくんがしょんぼりするので慌てて取り繕った。いや、でもその大きさのケーキは流石に口に入らないのですが…。
自分の口よりもひと回り大きいケーキに尻込みしただったが悲しそうな顔をするジローくんに根負けしてめいっぱい大きく口を開けてケーキを頬張った。
「うわ。デケー口…」
「んんんんんんんんんんんんんんん!」(あんた達に言われたくないわ!)
そして食べたら食べたで引くし!なんなんだよお前ら!とリスの様に頬を膨らませてケーキを食べているとプリガムハゲが吹き出し笑いやがった。
「はははっその顔赤也に送らせろよぃ!…あ、コラ逃げんな!」
「ん〜ん〜ん〜!」(い〜や〜だ〜!)
「、リスみたいで可愛いC!」
「んんーんん…んん、んんんんん……」(ジローくん…それ、嬉しくない……)
「芥川も褒めとるんじゃ。大人しく写真に撮られんしゃい」
「んん…、面白がってるやひゅにいわれたふないわ…!」
口許引くつかせてる仁王を睨み上げれば奴はの後ろに回って頭を押さえ丸井に見えるように顔を向けさせたので慌てて両手で顔を隠した。チッて舌打ちしたぞあの赤頭。
「来れなかった赤也を慰めるメールなんだからお前も協力しろよぃ!」
「私の、写真送っても……火に油、でしょう、が!」
「んなことねーよな?」
「んーまぁな」
「はいうそーって、むお!」
「丸井、今じゃ」
どう考えても赤也が怒る想像しかできなくてジャッカルが微妙に賛同するのを嘘だと指摘すると顔を隠していた手を仁王に取られカメラを構えていた丸井に撮られてしまった。なんたる不覚。
「………大して面白くねーな」
「人の顔撮っておいてそれはないでしょうよ」
仁王の警戒を怠ったことを悔いていれば丸井にそんなことをいわれがっくり肩を落とした。まあ顔を晒した時には大分食べてたから頬のふくらみもなくなってたけどもその言い方はないだろ、と目を細めればもう一度だとケーキを差し出された。
そんな笑いのネタを誰がわざわざやるか!とつっぱねれば「お前にはもうケーキはやらねぇよぃ」と丸井が拗ねた。面倒くさいなもう。
「、ケーキ美味しかった?」
「うん。凄く美味しいよ」
「じゃあ、はい。あーん」
「いや、ジローくん。自分で食べるから」
「。あーん」
「……」
いやだから何でそんな大きさで差し出してくるのジローくん。ねぇわざとなの?わざとなのジローくん?!
またもやの口よりも大きなケーキを刺して寄越してくるジローくんには顔を引きつらせながら可愛い笑顔のジローくんとケーキを見比べているとふいに名前を呼ばれ振り返った。
「さん」
「し、白石くん…?」
後ろにいたはずの仁王を押し退けて?やってきたのは白石くんと周り…というか丸井と仁王を睨んでる一氏くんだった。もしかして丸井達に用事かな?と思ったがを呼び戻しに来たらしい。
「さんが持ってきたやつ冷めた上にカラカラに干からびてまうで?」と親切に教えてくれた白石くんだったが「食べとる途中で他の席でも食べるなんて行儀悪いで」という釘も刺してきた。すみません。
「ちゅーか、自分がとってきたもん残すつもりか?」
「ううん。食べる食べる」
「ならはよ食べや。この後小春とお笑いライブするからな」
「そうなんだ!」
周りを威嚇するように睨みつける一氏くんにちょっとケンカを始めてしまわないかビビっていたがこちらを見た彼は至って普通だった。なのでお笑いライブを聞いた際も「それは楽しみだね」と素直に返し、席を立った。
「えええ〜。俺と一緒にご飯食べようよ〜」
「ごめん。また明日ね」
明日一緒に食べようね、と子供に言い聞かせるような言い回しでジローくんに取り繕うと彼は不承不承頷き掴んでいたの手を放してくれた。
「あ、そのライブって他の人も誘っていいの?」
「かまへんで。観客は多い方が燃えるしな」
だったら皆瀬さんや桃ちゃん達も誘ってみようかな、と視線を流したところで何故か跡部さんと目が合いこれでもかと肩が揺れた。
え、何?何で見てるの?騒がし過ぎた??皆瀬さん達が座るテーブルの少し手前の席でじっとこちらを見ていた跡部さんに身構えると、彼は少し呆れた顔で口元を指でトントンと指さした。それから口パクで『ついてるぞ』といわれ、は慌てて拭った。
間違いなく大き過ぎるケーキを食べた時についたものだろう。めちゃくちゃ恥ずかしい。と口を隠すと「じゃあ、早く食べなきゃね!」と慌てて財前くん達が座るテーブルへと戻って行ったのだった。
******
前半にケーキを大量に入れたせいで後半の高カロリーがやたらとの胃を重くしてきたが何とか持ってきたものは全部摂取した。
正直何度か諦めかけたが、小春さんと一氏くんと白石くんが応援してきて千歳千里が「20分以内に完食できるたい」とよくわからないけど何か降り立ったかのように言い出してみんなが見張る中何とか完食した。というか完食せざるえなかった。
日吉も海堂くんも財前くんも残ってが食べ終わるまで付き合ってくれたのだけど、こういう時ばかり優しくされても嬉しくないと思ったのは内緒だ。こっそり残すこともできなかったじゃないか。
「(…吐きそう)」
「さん。吐かんといてくださいよ」
「…わかってるよ」
レストランを出てうっぷと口を押さえると隣を歩いていた財前くんがこちらをチラリと見て「無理して食べずに残せばよかったじゃないですか」とのたまった。
あの…あれもこれも残ってますよ、これくらい食べれますよね?口動かさんと食べきれませんよ、と鬼コーチ並に食べさせたのあなたですよね???
無理してるのわかっててあんな言葉いってきたのかよ、と絶望に似た目で財前くんを睨めば頭の上にポンと手が乗った。視線を少し上げれば白石くんがとても嬉しそうにの頭を撫でている。
「さん偉いで。全部食べきったやん」
「白石くん…」
「けど、次は限界手前までにしとこうな」
そうやないと腹壊してまうで、と微笑んだ白石くんはの頭を撫でてきてなんかよくわからないけど喜んでくれた。残さなかったのがそんなに良かったのだろうか。
小さな子を褒めるように頭を撫でてくる白石くんになんともいえない気恥ずかしさを感じて視線を下げれば、財前くんが白石くんの手をペシリと叩き落とした。
「財前?」
「さん。俯くと吐き気戻ってきますよ」
「う、うん…?千里くん??」
軽くではあったけど手を叩き落とされた白石くんは驚いた顔で財前くんを見たけどピアスくんは素知らぬ顔でに助言し、さっさと歩き出した。それを見送れば大きな手がの頭の上に乗り、見上げると千歳千里が「よくできました」とにっこり微笑んでいた。
扱いが妹とか幼稚園児並になったぞ、と微妙な気持ちになっていると小春さんと一氏くんが横を通り過ぎ、「はよ来いや!お笑いライブの時間やで!」と急かしてくる。いやいやいや無理ですから。歩くのだってひと苦労なのに走ったら確実にリバースするよ。
先に行ってて〜と手を振れば小春さんが「妊婦さんに無理させたらアカンで!」と一氏くんにつっこんでいて苦笑した。そこまでお腹は出てないよ。
「今何ヶ月めたい?」
「え、わかんな「5か月くらいじゃないですか?」…なんでわかんの財前くん」
「うち、兄夫婦いるんで」
「へぇ…って妊娠してないし!」
「そげんこついわれてもこの腹はどう見ても妊娠してるようにしか」
「ぎゃあ!さ、触んないでよ千里くん!セクハラ!」
「使いどころ少しちゃうけど…千歳、女子の腹いきなり触ったらアカンで。中の子供もビックリしてまうやん」
「ちょ!白石くんまで何いってんの?!」
「なら、触ってもよかと?」
「ダメだっつってるでしょうが!」
ぺしりと伸ばされた長い手を叩き落とすと千歳千里はくつくつ笑って「怖かね〜マタニティブルー」とかまだ続けてくる。
だからそこまでお腹出てないっての!と千歳千里の腕を叩けば、また吐き気が戻ってきてウッと口を押さえれば「ホンマに妊婦みたいですね」と少し前を歩いてる財前くんがしみじみ零した。
「……?どうしたの?」
「いや、なんでもあらへん」
石田くんや小石川くんも横を通り過ぎ、お腹に刺激の少ない歩調で歩いているとその遅さに合わせるように歩く白石くんと目が合い首を傾げた。さっきからニコニコとこっちを見つめてくるのに何でもない、という白石くんにまた首を傾げるとくすりと前を歩く千歳千里が笑った。
「さしずめ、妊婦の奥さんを気遣う旦那、というところたい」
「「は?」」
「財前も入ると?」
「………何いうとるんですか。あほらし」
足を1歩踏み出て振り返った彼はと白石くんを交互に見てニヤリと笑い、財前くんにも声をかけたがあっちは呆れた顔で溜息を吐いた。
話の意図が読めなくて白石くんを見れば丁度彼もこっちを見たようで目が合い、互いにドキリと肩を揺らした。旦那って…と、白石くんを見ていたらなんだか急に直視できなくてパッと視線を逸らした。
「そ、そういう千里くんはどの位置なのよ」
「ん〜…間男?」
「へ?」
「…うわ。シャレにならんスわ」
あまり掘り下げない方がいいような気がしたが白石くんの視線から逃れたくて適当に話を投げると少し悩んだ千歳千里がにっこりとゲスなことを吐き財前くんが引いた顔でつっこんだ。しかもの手をタイミングよく握るものだから何となく身構えてしまう。
ありえないにしても真意が見えない笑顔に微妙に反応してしまう自分が悲しい。眉を寄せ、そういうこというのはやめてよね、と苦情をいえば「スマンスマン」と謝ってくれたがニヤつきは仕舞えず、屈んでの顔近くまで寄ってくると内緒話をするように手を耳に添えてきた。
「本当のことをいうとな。白石はをどうやって笑かそうか悩んどるとね」
「え?」
「笑ったの顔がむぞらしかぁ思っとって、もう一度見るにはどうしたらよかばいね〜と思っとるたい。なぁ白石」
むぞらし??なんか前に聞いたことある言葉だったが意味はわからなくて、最後の方だけ聞こえるように顔をあげた千歳千里と一緒に白石くんを見ると、彼と目が合いまたなんとなくドキリとした。ただの例え話に動揺し過ぎでしょ私。
話の内容がわからない白石くんは千歳千里を見て少し眉を寄せたがに視線を移すと困ったように笑って、「千歳、さんに変なこと吹きこんだんちゃうやろな?」と千歳千里に視線を戻しを軽く睨んだ。
「白石が頑張らずともの笑顔ならすぐ見れるばい」
「は?千歳、なにいうて」
引っ張られて少し歩調を速めると千歳千里はニヤリと笑って「5分20秒後たい」と意味深な数字だだけ教えて前を向いた。
何の時間だ?と白石くんを見ると頬を染めた顔で顔を引きつらせている。意味が分かったのだろうか?と首を傾げると白石くんと目が合い、またぎこちなく笑って前を向いてしまった。
その千歳千里が予告した5分20秒後には吐き気を抱えながら爆笑することになるのだがこの時はまだわからず、やっぱり首を傾げながら白石くん達と一緒に四天宝寺が待つお笑いライブ会場へと向かうのだった。
あけましておめでとうございます。
2019.01.20