□ 初旅行 2 - In the case of him - □
ぴちょん、と天井にたまった水滴が温泉の中に落ちた。もくもくと立ち込める蒸気の中はお風呂の縁に体育座りをしたままぼんやり窓の外を眺めていた。
この高さなら曇りガラスで身体を隠せるし外も眺められる。ただし、外は殆ど真っ暗で景色を楽しむほど外灯もあまりないのだが。
「ふぅ…」
ちょろちょろと流れ出る温泉に紛れるような声で息を吐き出した。美肌になるという温泉は心なしか水も柔らかく感じていつまでも入っていられるような気がする。
けれども長時間入っているとのぼせてしまうので何度かこうやって身体を冷ましつつお風呂に入っているのだがさすがに頭もぼんやりしてきたように思う。
左手を見えるように掲げればキラキラと輝く指輪が薬指にはまっている。これ、跡部さんがはめたんだろうな。しかも寝てる時に…。もしかして食休みで寝転がったのはその前置きだったのだろうか。でもは寝てしまって、仕方なく指輪だけはめてくれた…だったらちょっと申し訳ないかも。
だって寝心地よかったんだもの、と口を尖らせ手をひっくり返したりして角度を変えて指輪を眺めた。キラキラと光に反射する指輪がとても綺麗で、顔がニヤつくほど胸がぽかぽかしていつまで見ても飽きない輝きを放っていた。
「よく指のサイズわかったなぁ」
あ、それをいうならブラのカップもか…。地味に痛いな。男の人に自分の胸の大きさ知られるって…。思い返して顔をしかめたは右手の指で薬指にはまっている指輪をくるくる回した。これってもしかしてペアリングだったりするのかな?
「それは、どっちでもいいか」
ぼんやりする思考にそろそろ上がろうかな、と考えていたらお風呂の外にある引き戸が開けられた音がして、それからなにやら服を脱ぐ音とベルトのような金具の音が聞こえは慌てて湯船に飛び込んだ。
そ、そりゃまあ、跡部さんの裸は(上半身は)それとなく見てるし、それ以上のことも…まあ、その、とりあえずしてるし、自分もいい大人なのだから、それなりに耐性、みたいなものはあるのだけど、でもやっぱり気恥ずかしいというか、その状況に飛び込むまでがどうしてももじもじしてしまうのだ。
それが今も行動に出てしまい、はドアに背を向けるように身体を湯の中に隠した。ドアの開閉音と軽くかけ流したお湯の音がしたと思ったら湯船に入る音が聞こえ身を硬くする。
「おいコラ、」
「びゃ!」
ザバザバとお湯をかき分ける音が聞こえたと思ったらその波が自分にぶつかるのと一緒に頭からお湯をかけられた。顔に伝うお湯を拭いながら髪をかき上げると「テメェ何1人で温泉楽しんでやがるんだよ」と脇腹をいきなり擽られバチャン!とお湯との身体が跳ねた。
「なっ何するん…!だ、だって、跡部さん寝てたし!」
咄嗟に振り返ろうとしたが跡部さんの腹筋が見え慌てて背を向けるとまた脇腹を撫でられ飛び上がった。身体を逸らせば逃がさんとばかりに追いかけてくる跡部さんの手。
その手からまた逃げようとチラリと振り返れば俺様はとても悪い顔で微笑んでらっしゃった。怒ってるのか?!怒ってるんですか?!御曹司!
不敵に笑う跡部さんが妙に恐ろしくて小さく悲鳴を上げながらお湯の中でグルグルと大人らしからぬ追いかけっこをしていたら案の定足を滑らせてお湯の中にダイブしました。
「あぶっ…ゲホっゲホっ」
「クククっ大丈夫かよ」
「大丈夫じゃないです…」
鼻と口に入ったお湯に咽ていると、を引き起こしてくれた手が腰に回り「やっと、捕まえたぜ」と跡部さんの腕の中に拘束されてしまった。何ですかその勝ち誇った満面の笑みは。
「お前スッゲーエロい顔になってるぞ」
「やだ、もう…っ見ないで」
さも嬉しそうに笑う跡部さんに息も絶え絶えなは力なく彼を突っぱねたが離れてくれるわけもなく、仕方なく息が上がって疲れきってる自分の顔を隠した。私の顔見てエロいとかいうの跡部さんだけですよ。
密着してる部分とか感触とか熱さとか恥ずかし過ぎて直視できませんからそんな笑わないでください。
「ククッ…最初はあんな平然としてたのにな」
「い、いわないでください…っあれは、本当、凄く頑張ってたんです」
「だな。緊張でガチガチだったし、とても"経験豊富"そうな大人にはみえなかったな」
「だから、本当、もう、それ忘れてくださいってば…!!」
どの段階でバレていたのかわからないけど(もしかしたら最初からかもしれないが)跡部さんと"致して"しまった時、私はそれはもう平静を装っていた。
如何にも経験があって余裕あり気な態度でいたが跡部さんにはあっさりバレていたらしく、再びお付き合いするようになりそういう流れになった時「頑張って出来る女のふりしなくていいぞ」といわれてしまったのである。
いやまあ、見てくれ含めて自分が経験豊富そうな人間じゃないというのはそれなりに自覚してたんだけど、なんというか、成人過ぎても初めてを大事に取ってあるとか、どうにも恥ずかしいというか情けないというか。いや、正確には"残しておいた"というより"気づいたら残ってた"が正しいんだけど。
とにかく、跡部さんの前で片意地を張って痛がって面倒くさい女にならないように平気なふりをしてたんだけど、今の私がその時の私に何か声をかけられるとしたら「素直に処女だといっておけ」だろう。本気で怖かったし痛かった。何よりバレた時の恥ずかしさが半端なかった。
頭につめてた偏った情報は跡部さんの前では殆ど使いものにならないとわかっておろおろと面倒くさい女を出す羽目になるし。予想以上の痛さに号泣したし。化けの皮を剥がされ後は随分楽になれたけど何かとからかうネタにされるしで恥ずかしくて仕方なかった。
なけなしの対抗意識で「そんなことばかりいうなら、もう跡部さんとはしません!」とプンスカ怒ってみても、跡部さんはすぐに謝ってくれたが笑いを噛み殺してるのは顔を隠しててもわかって、許してあげません!と思った。
「機嫌直せよ。」
「………」
「何もいわねぇならここで襲うぞ」
「もう!何でそうなるんですか!」
何でもかんでもエッチに繋げないでください!と顔を上げれば「お前とシたいんだからしょうがねーだろ」と平然と返された。そうなるとは赤面するしかなくてなんともいえない顔で視線を逸らした。
正直なところ求められて嬉しいと思ってる自分もいるのだ。でもいつも理性が先に働いてしまい、こういう掛け合いが多くなってしまう。いってしまった後また面倒くさい自分を出してしまった、と後悔するが今のところ跡部さんがそれについて文句をいってきたことはない。
こつんと合わせた額をくいくいと軽めに押され、視線を跡部さんに戻せば優しく見詰めるアイスブルーとかち合った。その瞳をじっと見つめていれば鼻先同士をくっつけ擦ってくる。そのこそばゆさに目を閉じればその鼻先にキスされ瞼を開けば跡部さんが楽しそうに頬や額にキスをした。
顔中にキスをしてくれるのに唇にはしてくれない跡部さんになんとなく物足りなくなって、それが彼の策略だとは思ってないは両手で彼の頬を覆うと背筋をピンと伸ばし、触れるだけのキスを唇にした。
彼を見れば熱っぽく微笑んでいて今度は彼の方から顔を寄せの下唇を食んだ。ゆっくりと唇を感触を味わうかのような行為に吐息が漏れる。
彼の頬にあてていた左手を手にとった跡部さんは手の平にもキスを落としていく。それをぼんやりと見ていれば薬指にはめられた指輪にもキスをしていた。
「外さなかったんだな」
「?……はい」
「てっきり温泉で指輪が酸化するんじゃ、とか思って外してるかと思ったぜ」
「あ、」
そういえばそうでした、と我に返った顔をすれば跡部さんは笑って「そんな安物じゃねぇから安心しろ」と唇を重ねた。
「嬉しくて、うっかりしてました」
「そうか、」
浮かれてそんなことなどこれっぽっちも過ぎらなかった。反省も滲ませてそう零すと跡部さんは嬉しそうに微笑み「そりゃよかった」との頬に貼りついた髪の毛を整えるように梳いた。
「本当は起きてる時にはめてお前を驚かせたかったんだけどな」
「…それは、その、すみませんでした」
「キスしても胸揉んでも擽っても起きねぇしよ。仕方ねぇから指輪だけはめたんだが…俺も寝ちまうとはな」
「人が寝てる間に何してるんですか…っ」
服が乱れてたのはそのせいか!道理でブラが変にずれてると思ったよ!!そういうのやめてください!とプリプリ怒ったら「わかったよ」と一応約束してくれた。一応は。
信用するにはあまりにも軽い感じで返されなんともいえない顔で彼を見てしまったのだが視界に入った左手を見て、なんとなく目を伏せた。だって顔が勝手にニヤつくんだもん。そんな顔恥ずかしいし跡部さんに見られたくない。
「でも、これ見た時はすごく驚きましたよ……別にそんな顔見なくたっていいじゃないですかっ……そんな残念そうな顔しないでください。もう!………でも、いいんですか?」
驚く顔が見たかった、と嘆く跡部さんに少し呆れたが、左薬指にはめられた指輪をチラリと見て彼を気遣わしげに見上げた。私なんかがこれを貰ってもいいのだろうか。
「バァカ。んなの当たり前だろ。つーか、それくらいしてねぇとお前はまた落ち込んだりどっかに逃げたりしそうだからな」
俺の為の保険だ。と豪語する跡部さんにはなにやら申し訳ない気分になった。勝手に引っ越してしまったことは跡部さんにとって結構な打撃だったらしい。言い返す言葉もございません。
昔、早百合が跡部さんから貰った指輪を自慢してきた時、こんなカップルにはなるまい、と心に硬く決めていたけど今こうして自分の指にはまっている指輪を見ると『あー本当に恋人同士になれたんだなぁ』と安心感を感じている自分がいる。
勿論、物だけじゃなくて跡部さんの気持ちも言葉も受け取った上での感情だけど、でも目に見えて嬉しいと思っている自分がいるのも確かだった。
「跡部さん……それで、その、これって、ペアリングだったりするんですか?」
「ん?ああ、まぁな」
良さそうなデザインがそっちに多かったからな。と返してくる跡部さんには少し鼓動が早くなったのを感じた。ああ、ペア物なんて、てバカにしてたのに。
でも自分とデザインが同じ指輪が跡部さんの分もあるのかと思うとどうしても落ち着かなくて早くなる心拍数には何度か短く深呼吸をした。うわ、緊張してきた。
「あの、跡部さんにお願いがあるんですが」
「何だよ。改まって…」
「その指輪、跡部さんの指にもはめてほしいっていったらダメですかね…?」
恋人同士なのだからそんなことを聞くのは変なのかもしれないけど、どうしても指輪をしてる跡部さんが見たいと思ってしまい、は勇気を振り絞り聞いてみた。
期待を露に跡部さんを伺えば、彼はさっきまで微笑んでいた顔を固まらせ視線をから逸らし「それはかまわねぇが…」と気のない返事を返してくる。どこをどう見ても指輪をしたくないように見えては失言だった、と顔を青くした。
「ご、ごめんなさい。私、余計なことを…っ今いったこと忘れてください!」
「お、おい!待て待て待て。早とちりすんなって!」
ついさっきまでペアリングとかダサいわーとかバカにしてた上に、跡部さんとお揃いとか高望みなことを考えたせいでバカなことを口走った。そんな卑屈な思考がを襲い、その恥ずかしさに耐えられずそのまま逃げようとすれば跡部さんが慌てて引き止めた。
そして両手での頬を挟むと「嫌じゃねーよ。その為に買ったんだっての」と言い訳をした。怒り口調だったが顔は困ったままで何でそんな顔をするんだろう、と困惑した。
嫌だからそういう顔をしてるんじゃないの?
嬉しい気持ちから一転して意気消沈した顔で伺えば跡部さんはもっと困ったように頭を掻いて「あーだからな、」といいづらそうに言葉を切り出した。
「お前がしてる指輪、"婚約指輪"のつもりで買ったんだよ…」
「……へ?」
「本当はもう少し経ってから渡すつもりだったんだが、お前を見てたらすぐにでも渡したいって思っちまって。お前だけなら虫除けにもなるからいいんじゃねぇかって思ったが、俺もつけるとなると、な…」
「……」
「"結婚前提に付き合ってほしい"だなんて、さすがに気が早いかと思っ……お、おい。泣くなよ…っ」
ボロボロと零れるの涙を見て跡部さんはあからさまに動揺していたが、それに構ってられないほどもいっぱいいっぱいだった。よかった。嫌われたわけじゃなかった。
「もう、何なんですか…驚かせないでくださいよぉ」
「ああ、だから悪かったって」
「しかも、何なんですか。婚約指輪って…どんだけ急いでるんですか…っ」
「…ああ、」
「あと結婚前提とか…っ付き合ってまだ1ヶ月も経ってないのに。跡部さんは階段を飛ばしすぎなんですよ」
「それなりに自覚はしてる」
安心したせいか涙が余計に止まらなくて嗚咽混じりに指摘すれば、バツの悪い顔で俺様が頭を垂れていた。
「でも、よかった」
ぽつりと零した声に跡部さんの視線がこちらを向く。頬に添えられた手に重ねるように自分の手を置いたは「跡部さんに嫌われたかと思った」と笑うと、彼は苦笑して「バァカ。んなわけねーだろ」と額にキスを落とした。
「好きでもない奴をこんなところまで連れてこないし、欲情もしねぇよ」
「…またそういうことを、」
「それに、結婚とかそういうのまで考えたのはお前が初めてだ。」
どうしてもそっちに持って行きたがるな、と半目になったが思ってもみない言葉を投げられの心臓が大きく跳ねた。いきなり爆弾発言するのは心臓に悪いしやめてくれないだろうか。
ついでに止まった涙に気がつきながらも眉を寄せ「私はまだそこまで考えられませんよ…」と口を尖らせると跡部さんは笑って「ああ、知ってる」と親指の腹で目尻に残った涙を拭った。
「これは俺の勝手な希望だしな。お前は気にしなくていいぜ」
「……」
「まあ、いつかはも俺と同じ気持ちになってくれると嬉しいがな」
フッと微笑み、ゆっくりと頬を撫でる跡部さんの指には少し体勢を変えると跡部さんの頬を両手で挟みこみ唇を押し付けた。情緒もなにもない。
ただ唇全部を押し付けそのまま動かずじっとしていると驚き固まっていた跡部さんの手がの背に回ってきた。それを確認して口を離せばうっとりと瞳を潤ませた跡部さんと目が合った。
「はふっ」
「…息、止めてたのかよ」
「黙ってください」
鼻で呼吸すればいいのに、と笑った跡部さんをムッとした顔のまま、また唇を押し付けてやった。今度は跡部さんも驚かなかったようで口をもごもごと動かしてきたが口が開けないように力づくでキスをしてやった。
そんなの行動を跡部さんはどう思ったかは知らないが怒ってる様子はなくて、空いた手をの背中や腰に持っていきさわさわと撫でてくる。その余裕さにムッとしたが彼の手が太股を撫でてきて思わず「あ、」と声が漏れた。
「…なんだよ。風呂はリラックスする場所でこういうのはしたくなったんじゃないのか?」
「そのつもりでしたけど、跡部さんが変なこというから」
「俺か?」
「私も跡部さんと同じ気持ちで、好きって思ってるんですよ。…だから、"いつか"なんていわないでください」
北海道に"いつか"行きたい、と思ったけど、感情での"いつか"なんてないも同じ気がして、それが無性に悲しくて腹が立って思わず強引にキスをしてしまった。後から思えばあれがキスだったか怪しいところだが、跡部さんと同じ気持ちなのだと伝える術が他に思いつかなかった。
赤い顔でまっすぐ彼を見据えれば跡部さんは目を丸くした後、照れくさそうにはにかみ、そしての腰を抱え浴槽の階段に腰を下ろさせた。
そこは腰までまるっと湯船から出てしまうのでは慌てて胸を隠したが、跡部さんはを追い詰めるように縁に両手をついた。を覆うように見つめてくる青い瞳は欲を孕んでいて、まるで獲物を狙う肉食動物のようだった。さっきまでのはにかんだ可愛さなど一切ない。
そのことにドキリと体温を上げて彼を見返せば何の予告もなく唇を食べられた。何度か食むようなキスを繰り返し互いに熱を持った吐息を吐き出すと何かいいたげなアイスブルーと目が合った。
「いいのか?」
「…跡部さんが、私とお揃いの指輪をしてくれるって約束してくれるなら、いいです」
本当はちょっとのぼせてきたのでお風呂から上がりたい気持ちもあったのだが彼の言葉が気になってそのまま見つめると、跡部さんはまた少し困ったような顔をして口をへの字にさせた。
今気づいたけどなんだか小さな子供が嬉しさを我慢するような反応に見えてくる。そう思えたのは期待に満ちた目でを見つめてるせいかもしれない。
「それこそ、いいのかよ」
「嫌だったら最初から跡部さんと付き合いませんよ」
正直結婚なんて想像できないし、もしかしたら後々跡部さんも自分も冷静になってこの関係を改める日が来るかもしれない。
それくらいはの頭でも考えられたが、それ以上に自分を想ってくれてることが嬉しくて幸せで仕方なかった。
ふにゃりと満面の笑みで両手を広げれば跡部さんは吸い寄せられるようにを抱きしめてくれる。その背に手を回しも目一杯抱きしめた。凄く幸せだ。
「跡部さんが一足飛びで、驚かされることも大分慣れました」
「ククッそうかよ」
多分これからもいろんなことで驚かされるんだろうけど、でもこの温かさを手放す気は毛頭ない。
「俺もには驚かされてばかりだ」と顔を覗き込むように少し離れた跡部さんに目をぱちくりとさせると「思ってもみないところでは大胆になるから俺の心臓がもたねぇ」とからかうように、嬉しそうに笑った。
「そんなことありませんよ」
「そんなことあるんだよ。そのせいで何回据え膳食らったかわかってんのか?」
ニヤニヤと笑う跡部さんにまたそういうことをいう、と口を尖らせたが、それすらも嬉しいと思ってしまいくすぐったそうに口元を綻ばせた。
それからじゃれあうように見えるところにお互いキスをし合って見詰め合った。2人で一緒に入ってもリラックスできるってあながち間違いじゃないかも。跡部さんの微笑が蕩けるように甘くを見つめている。
「さん。結婚前提で、俺とお付き合いいただけますか?」
「フフ。はい、喜んで」
そんな彼に告白されたら断る理由なんて何もなくて。花が綻ぶようにふわりと微笑めば、跡部さんはそれ以上にふにゃりと顔を蕩けさせ互いの唇を重ねたのだった。
結婚じゃなくて申し訳ない。
2016.02.07