□ 「もしもドキサバになったら」1 □
※時期は10月〜12月くらいです。幸村と仲直りしてます。
引退したというのにだらだらと部室に入り浸っている丸井達には呆れた顔で見やると自分もその中に入ってドアを閉めた。
何やら真剣に話してるので声をかけようかどうしようか迷ったがこちらに気づいた幸村が手招きするので近づいた。すると仁王が椅子をひとつ引っ張ってきたのでありがたく座らせてもらった。
「……」
「残念じゃの。早いもの勝ちじゃ」
「ねぇ、なんの話してたの?」
ニヤッと笑った仁王を幸村が黒い微笑みで見返してるのを横目で見ながら丸井に話しかけると頬杖を付いたまま「色々」と返してきた。ただ駄弁っていただけらしい。
「今何の話題だっけ?」
「確か沖縄行きてーとかっつー話じゃなかったか?」
「その前はスペインとかイタリアだったっけ?」
「俺はインドや東南アジアも色々学べて楽しいと思うぞ」
「海外もいいがやっぱ日本じゃろ。温泉に浸かりたいの」
「じじぃかよ」
「何を言う。温泉は疲労回復にいいのだぞ。それに」
「先輩はどこがいいんスか?」
「え?私はね…」
がそう切り出したところで皆瀬さんと柳生くんが入ってきて部室の温度がある意味暖房をつけなくても暖かく感じれるくらいになった。
2人を入れる為にずれれば少し離れていた幸村が隣にやってきてを挟むように座りにっこり微笑んだ。反対隣の仁王は嫌そうに見てきたが幸村は素知らぬフリだ。
「つーかさ。海外行くっていったら飛行機だろ?あれってよく落ちねーよな」
「俺、離着陸がちょっと苦手なんだよな。あのGが…」
「え?楽しくないっスか?」
「あ、それ私も苦手ー」
「固定されてるとはいえ元々空を飛ばないのだから違和感は拭えないだろうな。達のように苦手な者もいるだろう」
「でも改めて考えるとあの鉄の塊が空を飛んでるって凄いよね。修学旅行の時なんか真田震えて席から立てなかったし」
「ち、ちがっ…」
「そういえば固まったまま一心不乱に瞑想していたな」
周りが引いていたから何事かと思ったぞ、と幸村と柳のタッグに弦一郎はぐっと眉を寄せ、「ぷっダセー」とほくそ笑んだ赤也に八つ当たりのようにキレた。
「お前は何もわかっとらんのだ!!あれは重力に逆らい、無理矢理に空を飛んでいるんだぞ?!雲の中では気流で機体が軋み、強風で機体が揺れるんだぞ?!いつ落ちてもおかしくないと考えるのは当たり前だろう!!」
涙目になっている弦一郎を柳生くんが宥め椅子に座らせれば「…確かにそれも一理あるの」と仁王が神妙な顔つきで呟いた。
「機体に守られとるといっても自力で羽ばたいてる訳ではないからの。いつかの為に飛行機が落ちて無人島に不時着したら、というシュミレーションをしといた方がいいかもしれん」
「妙に明確な議題だな…」
「つーか、その前に離陸前にやる緊急時の時のなんたらを練習した方がいいんじゃねーの?」
「いや丸井。不時着までできるんじゃからその時点で生きてるに決まっとる。それで死んでたらただの阿呆ぜよ」
世の中の人が聞いたら怒られそうなことをつらつらと、と思いながら周りを見れば「確かに」と頷くワカメとガムと皇帝がいて少し頭が痛くなった。弦ちゃんお前もか。
「思ったけど、ジャッカル助かってたらすっげー意外に感じるだろうな」
「は?」
「そうっスね〜。つーか、無人島についたらジャッカル先輩原住民と間違えられそうっスよね」
「赤也。無人島だならな。む・じ・ん・と・う!」
「じゃあ、このメンバーが無人島に漂着したらって設定でいいの?」
「何かそういうドラマ昔なかったっけ?」
「LOSTじゃね?」
「そもそも何故無人島に漂着するのだ?」
「(ああもうこのお馬鹿従兄は)いやだからあくまでそういう設定だから」
「じゃあジャッカル先輩が屁をこいたらあまりの臭さに飛行機が墜落した、でいいんじゃないっスか?」
「誰の屁がくせーんだよ!!」
「ぎゃはははっジャッカルの屁で墜落かよ!!」
「…助かる感じがしない理由ですね」
「生存確率がいまいち読めない墜落だな」
正直賛成しづらい理由だったが他に出てこなかったのでそんな理由になった。
哀れ、ジャッカル15歳。
「でも無人島かー。どのくらい広いのかな?」
「無人島というからにはそれ程広くはないだろう。立海の全敷地分くらいでいいんじゃないか?」
「どーせ携帯とか通信に使えるやつ水に浸かって全部ないんだろ?救助来るまでって考えるなら森があった方がよくね?中の探検もできるし」
「そうじゃの。食料もないき、森に入って探すというのも手じゃな」
「アンタ達余裕ね。危ないとかそういう想像しないの?」
「してたら救助来る前に餓死すんだろぃ?」
「そりゃそうだけど」
「先輩、怖いんスか?」
ニヤニヤ笑う赤也を睨みつけたは「釣りすればいいよ!」と投げやりに言い返した。
「おや。さんは釣りができるのですか?」
「お父さんが好きで渓流釣りしたんだ。あと釣り堀」
「へぇ。お前よく餌つけれたな」
「あーうん。それはグロくないやつを選んだし、お父さんにやってもらったから」
「都会っ子じゃの」
「うっせーやい」
「俺も森の中歩いてる方がマシかな。虫とかは全然大丈夫なんだけど釣りだと長時間日差しの中にいなきゃだろ?具合悪くなりそうだよね」
「救助が来るまでだからな。無理はしない方がいい」
「森があるのでしたら亜熱帯でなければ寝床もその中が良いでしょうね。海沿いですと潮風がありますし、下手をすれば満潮で沈んでしまいますから」
「あ!だったら俺木の上に家作りたいっス!!」
「それいいね!秘密基地みたい!!」
夢だよね!ときゃっきゃっと盛り上がる皆瀬さんと赤也にもいいなぁと思ったが道具もないのに作れるものなのか?と首を傾げた。
「手持ちの道具がどれぐらいあるかはわからないが地面に作るよりは利便性が高いな」
「やっぱり?!じゃあ家はでっかい木の上にけってーい!」
「でっかいってアレだろ?森を守ってる精霊みたいなもんなんだろぃ?」
「そんなスゲー木に家作って大丈夫なのかよ」
「大丈夫大丈夫!俺そいつとマブダチだから」
何が大丈夫なのかわからないが、困惑するジャッカルに丸井は赤也と肩を組んで親指を立てていた。こいつらゲームの世界とごっちゃにしてる気がする。
「アンタ達は遭難しても楽しめそうだよね」
「なんだよ。俺がいるってのに楽しめねーってのか?」
「えーだって助け来るまで自力で生きるんだよ?ライフライン全滅だし不安になるのが当たり前じゃない?」
「そうだね。夜とか寝る前に1人で考え込んじゃうかもね」
「そういう時は俺のところにきんしゃい。慰めてやるぜよ」
リアルに考えると自活って難しいと思うんだよね。同調してくれる皆瀬さんと顔を見合わせればポンと頭に手が乗り仁王がふわりと微笑んだので思わず顔が赤くなった。頼みますから不意打ちで間近に微笑むのやめてください。耐性無いんですから。
「ああ、皆瀬は柳生が受け持つそうじゃ」とぽろりと呟くと皆瀬さんと柳生くんの顔は真っ赤になり仁王はしてやったりな顔でニヤリと笑った。
「いっとくけど、寝る時は男女別々だから。ここには風紀委員が2人もいるし、部長の俺もいるんだから勝手は許さないよ」
「別に勝手などしとらんよ。泣いてるを慰めるんじゃから部屋にはおらんし。外なら部屋も何も関係ないじゃろ?」
「は?ちょ、仁王くん?!」
「それに、どちらかといえばお前さんも不安になって悩む方じゃろ?なんなら慰めてやろか?」
誰が泣いてる設定ですか!!幸村に振り払われた仁王の手が再びの頭に回るとそのまま肩に下がってぐいっと引き寄せられた。反対側の方で「ああ!」と声を上げてる赤也が目に入ったが肩に回った手をまた幸村が払った。
「その必要はないよ。どうせなら同じ悩みを持つ同士の方がお互いをわかってあげられるだろ?と夜の海岸で散歩しながら気分転換してるから、仁王は1人寂しく見張りでもしてれば?」
「「……」」
「そ、そういえばさっきから黙り込んでるけど真田も無人島楽しめない派だよね」
「ム。そ、そんなことはないぞ…」
「無理をするな弦一郎。顔色が悪い。これはシュミレーションだ。リアルに考えなくていい」
まずは深呼吸をしろ、と柳に促され深呼吸をする弦一郎によし、同志!と思った。幸村も同じように悩みそうだけどきっと表には出さないからわからないと思うんだよね。話しても柳くらいだろうし。
「そういや飯だけど、木の実とか植物系はまだいいとして魚釣っても捌けるやついんの?」
バチバチとを挟んで重く冷たい空気を放つ両側を尻目に丸井がそういうとジャッカルと弦一郎と仁王が挙手した。
「えっジャッカル魚捌けるの?!」
「ああ。俺素潜りとか素手で魚捕まえるのとか結構得意でさ。その辺は任せてくれて構わないぜ」
「ジャッカルくん、格好いい〜!」
「……」
「っ…ひ、ヒロシはやったことねー…よな」
「はい。残念ながら…」
「(こえーよ!皆瀬が他人を褒めた途端これだよ!)」
「つか、真田も捌けんの初めて聞いたぜぃ」
「真田はアレでしょ?手塚くんに張り合う為だけに覚えたんでしょ」
「何その甲斐甲斐しい話。嫁ぐの?」
「違う!手塚がこれみよがしに釣ってきた魚を寄越してた時に魚ひとつ捌けないでは男が廃るといわれて覚えたまでだ。それよりも!お前はそこに居合わせていたじゃないか!!」
「うん。あの時はゴチになりました」
テへ、と笑えば「つーか先輩、真田副部長と飯まで一緒に食ってんスか?」と苦々しい顔で赤也が見てきた。別に一緒に食べたっていいじゃないか。
「私は仁王くんが意外だったよ。魚捌けるんだ」
「んー多分」
「多分かよぃ!」
「魚の骨を取るのは得意なんじゃがの」
そっちかよ!それはそれで重宝されるけども!
「このメンバーだからいいけど、知らない人と一緒に生活するとなったら仁王はトラブルメーカーかもね」
「……ほぅ。そうか?」
紛らわしいな!と仁王にツッコミをいれればさっきからこちらを見たまま視線が動かない幸村がにこりと爆弾を投下した。対する仁王の言葉が異様に冷たい。この席、嫌なんですけど。
「だって人を騙すし、驚かすし。緊張状態の人にそんなことしたら逆鱗に触れて孤立するんじゃない?」
「それをいったらお前さんも具合が悪いとかで全然仕事に参加しなくて他の奴らの不満が溜まるんじゃなか?」
「そうだね。でもその分どこかで埋め合わせすればいいだけだし、みんなもわかってくれるんじゃないかな」
「まぁ、幸村だからの」
「うん。俺だからね」
「ということになったがはどう思う?」
「は?私?!」
え、なにそれ。幸村がトラブルメーカーかどうか答えろっていうの?ちょっと待て!どうしてここで私に話を振った!!ニヤニヤすんな仁王コノヤロウ!!
「と…トラブルメーカーなら赤也じゃない?」
「はぁ?!何で俺なんスか!!」
「だって絶対サボるでしょ」
「うっ…さ、サボんねーっスよ!俺協力的ですもん!それをいうなら丸井先輩だってジャッカル先輩に仕事押し付けて自分じゃ何もやらないじゃないっスか!」
「待て赤也。これは無人島の生活の話だかんな?リアルの話じゃねーかんな?」
「丸井、アンタまさか…」
疑わしい目つきで丸井を見やれば「俺そんなことしねーって!」と慌てて言い訳してきたので断定したように弦一郎の目が光った。
「真田は自分よりも働いてない人と同じご飯の量だと怒りそうだよね」
「んなっ…」
「。それはさすがにないんじゃないか?」
「いや、柳くん。食事って結構大事だよ」
意外とちっさいことを気にするからね。この従兄は。食べることで1番騒ぎそうなのは丸井と赤也だけど自分がしたことに対して同等の価値を返してもらえないのって結構辛いと思うのよね。特に弦一郎は極限状態だときっと気にするタイプ。
「それをいうならも風呂に入りたいと真水がいいと駄々をこねるんじゃないか?」
「うわ。それ気にするわ」
もし川があっても裸になって入るのにはきっと抵抗があるだろうし。海水じゃ冷えるだけで洗えないだろうしね。くそ、自分も含めてトラブルメーカーになりうるのか、と考えていると周りが頬を染めていたり何とも言えない顔でこっちを見ていたので何だ?と首を傾げた。
「…先輩と真田副部長って、ふ、ふふふ風呂とか、一緒に入ったことあるんスか?」
「おい赤也!おまっ勇者過ぎんだろぃ?!」
「え?んーあったっけ?」
「……そうだな」
顔を赤くした赤也がどもりながら聞くと丸井が頭を叩いて褒めた。どういう思考回路なんだ丸井。
しかし、弦ちゃんとお風呂か。入ったこと…。
「って、答えるわけないでしょ?!真田もいわなくていいから!!」
何が楽しくて自分の過去で辱めを受けなきゃならないのよ!!
だから「…ふぅん。ということは入ったことがあるんじゃな?」とか意味深な顔でいうんじゃない!!
「真田、詳しく聞こうか」とか氷の微笑でいわないでください!!聞いたってどうしようもないでしょうが!!
ドキサバ楽しいですよね。
2013.04.21