You know what?




□ Ti amo per come sei ・ 2 □




「あ、そういえば、」
「何?」

公園を出て駅までの通り道をダラダラ歩いていると仁王がケーキ屋さんを見ながら声をあげた。


をテニス部に誘えと丸井に頼まれてたぜよ」
「またか」
「まだ部活は決まらんのか?」
「うん。入る気はあるんだけど本命の部活がいまいち惹かれなくてさ」
「美術部にパソコン部とかだったかの。どれもには荷が重いじゃろ」
「何か言った?」


はノリノリで探しているのだが仁王を含め亜子達にまでそっちの方はやめといた方がいい、といわれている。致命的なことは言われてないだけに深刻度が高い気がしてならない。
それが面白なくてじと目で睨むと「おっやるか?」と仁王がニヤニヤ構えるので自転車の前輪をグイグイと押し付けてやった。

「いたっ!武器は卑怯ナリ!怪我したらどうするんじゃ!」
「そしたら私が看病したげるわ!」
「…それはそれで美味しいの」

横暴じゃ!と逃げる仁王を追いかけると至って真面目に看病されることを考え出したので「ばっかじゃないの?!」と呆れた。そこは困るところでしょーよ!と自転車を構えれば、「お前さんの危険物は没収じゃ」と慌てて仁王がハンドルを奪った。チッ。


「んで、お前さんはこっちな」


押すものがなくなったは手持ち無沙汰になると空いてる手を仁王がぎゅっと握りしめてくる。テニスバッグだけでも結構重いのに自転車も支えて大変じゃないだろうか。ときめくけども。

チラリと覗き見た横顔に身長以上に大人っぽく見えて心臓が早くなる。
チクショウ、格好いいなあ。


急に大人しくなったに仁王は満足げに口元をつり上げるとさっきよりも少し強めに手を握りしめた。



「部活もそうじゃが真田にもまだ喋っとらんのやろ?」
「う…はい」
「ケンカして2週間ちょいか」
「け、ケンカって程のことは」
「ほうか?どっかの誰かさんのせいで真田がずっと不調続きなのは別の理由か。そろそろ何とかしてくれんと1年の部長が直々に苦情をいいにくるかもしれんのに」
「ううっ耳が痛いです」

本当は部活の誘いがあった4月の辺りにいおうとしたのだが、たまたまデートの時に遭遇して売り言葉に買い言葉でそのきっかけをなくしてしまった。

始めは顔を合わせる度に叱る気満々でこっちに向かってきたので面倒で避けていたのだが、その内どのタイミングで話しかければいいのかわからなくなってダラダラ時間だけが過ぎてしまっている。

仁王には自分で報告するからそれまで待ってほしいといった手前焦っているから余計に耳が痛い。


「俺と付きおうとるのは言いづらいか?」
「そ、そんなわけないよ!いうもん!ちゃんといいます!」
「…まるで父親に報告する気分じゃの」

スーツを着て娘さんを俺にください、と俺も同行すべきか?と言い出す仁王にぶわっと体温が上がった。それは結婚前の挨拶だろう。


「じゃあ結婚前提で付き合わせてください、の方がよか?」
「あ、あのね〜…」

さらっととんでもないことをいう仁王にが焦った。付き合い始めたばっかりで高校生でそんな話は流石に早過ぎるだろう。何でそんな余裕顔なの。格好いいんだからそんな真剣な顔で言われるとこっちが余計にドキドキするじゃないか。冗談か?冗談なのか?!むしろそっちだろ!



「別にそこまでいわなくてもちゃんと弦ちゃんに報告するし!」
「んー冗談にしか聞こえんか…」
「はあっ?!」

そんな夢みたいな話、聞かされてドキドキもするし嬉しくないわけないけど付き合い始めで実感どころか想像もできない。ていうか、今集中すべきはテニスだろ!
そんなことばっかりいってると幸村にイビられるからね!といったら「既に小姑にイビられとるぜよ」と返された。君は部活で何をしてるんだ。


「そういうのってよくわかんないけど今決めるものでもないんじゃないの?それで部活に支障が出ても困るし」
「……(思考がテニス部マネージャーというか、やっぱり真田のいとこじゃのぅ)」
「それに完全復活した雅治くんを全国で見たいしね。するんでしょ?三連覇」
「ん、そのつもりじゃ」
「部活のマネジはできないけど、雅治くんが気持ちよくプレイ出来るようにアシストしたいからさ。今はこうやっていれるだけで嬉しいんだよ。だからあんまり考え込まなくていいからね」


目指せ、友美ちゃん!なんですよ。

握られてる手をぎゅっと握り返すと手が異様に熱いことに気づく。こっぱずかしいことをいってしまったからな。顔が死ぬ程熱い。照れ臭さに堪らず「そういうので足引っ張ってるとか言われるのやだしさ」と、取って付けると握っていた手を引っ張られた。


きゅっとブレーキをかけ止まる自転車に合わせても止まれば、外灯に照らされた仁王の髪がキラキラ揺れる。生活指導に見つかる度に怒られてるらしいがここまできたらポリシーだといって高校もこの髪の色でつき通すらしい。

も仁王の髪の色はこれで見慣れてしまってるし、好きだから内心とても嬉しかった。


「テニスに関してはに嘘がつけんから諦めておるが、別に無理して結婚前提で、とかいった訳じゃないぜよ」
「え?」
「むしろを何処にも行かせない為の繋がりが欲しいと思っていったんじゃ」



眩しそうに目を細めていれば、仁王がハンドルを押し付けてきたのでここでお別れかな?と思いながら受け取った。
けれど繋がれた手はそのままで、真剣な顔でまっすぐ見つめてくる彼にドキリと息を飲んだ。


「気持ちは嬉しいがお前さんは皆瀬じゃない。それにものわかりが良すぎても味気ないだけじゃ。どうせなら俺を困らせるくらい我が儘になりんしゃい」
「え、でも…」
「俺にだけ我が儘をいうも好きぜよ」
「っ…も、もう!」

顔を寄せ、耳元で囁かれた甘過ぎるくらいの殺し文句に一瞬目眩がしたが、なんとか踏みとどまった。こいつは私を殺す気か!


「そ、そんなこというと本当困らせること言うから!」
「構わん。試しに言ってみんしゃい」
「え?ええーっと、で、デートしたいです!」
「ん。とりあえず来週の金曜の夜じゃな。空けれるか?」
「え、あ、はい」
「夜遅くなるからちゃんと親に言っとくナリよ。それから他は?」
「へ?……っシーパラ…」
「それは夏休みの時じゃな。あとは?」
「あとは…空いてる時間大丈夫ならこうやって会いたいな、と」
「ん、それから?」
「(ま、まだいうの?)そ、それから、一緒に帰ったり手を繋いだり…」
「まだ余裕じゃな。他にないんか?」
「……っえ、あとは…」

ニヤッと挑発的な笑みにムッとしたが、いざ考えてみたら思ったよりも出てこなくては目を泳がせた。一緒に帰ることも手を繋ぐことも全部してるけど足りないとか?それってどうだろうか。我ながらキモいんだけど。

そう思って打ち止めにしたいのに仁王がもっとあるだろう、とつっこんでくる。カップルってそんなに行きたいとこいっぱいあるもんなの?どうしよう、私一緒にいれればいい、くらいしかもう思いつかないんだけど。でも何かいわなきゃ。何か、何か…。



「…………ちゅーしたい………かもです…」



さっきもしたというのに他に思いつかなくて、頭を抱えたくなった。どんだけだよ私。顔熱いんですけど。自分の思考が恥ずかしすぎて消え入るように答えれば下を向いてた顔を持ち上げるように仁王の手が顎に添えられ彼と目があった。


「丁度俺もしたいと思ってたところぜよ」


同じことを考えとったな、とさも嬉しそうにニンマリ笑う仁王に目を瞬かせたが唇を塞がれると同時に瞼を閉じた。

目を閉じると感触がダイレクトに伝わってきて力が抜けてしまうのだけど目を開けたら開けたでドアップの仁王がいるからどちらも落ち着けないのだ。上唇を食む仁王に思わず力が抜けたが自転車がぐらりと揺れたので慌てて踏ん張った。

瞼を開くと弧を描いた顔で微笑む仁王と目が合って顔にぼっと火がつく。


「あとは?」
「……あと………あ、いや、その」
「……」
「……………も、」

もう1回キスしたい、と掠れた声で零したは何をいってるんだと恥ずかしくなって「い、今のナシ!」と叫んだ。
なにこれ、超恥ずかしいんですけど。やる気満々みたいでうざくない?仁王に呆れられるんじゃない?そう思ったら余計に居た堪れなくなって逃げ出そうとしたら繋いでる手を引っ張られた。


「ダメじゃ、どこにも逃がさん」
「雅治、く」
「そのむぞらしか顔をもっとよく見せんしゃい」

の後ろ頭に手を回し引き寄せた仁王は間近で泣きそうになってるを見ると「むぞらしか」と笑ってキスを落とす。チュ、チュ、と頬や額にも唇を落とした仁王は最後に唇を塞いでを抱きしめる。聞こえる心臓の音が自分なのか仁王なのかよくわからないくらい早かった。



「うううっドS仁王ー」
「…それは褒めとるんか?」
「嫌だったらさせないもん」
「そりゃそうか」

自転車を掴んでたことも忘れて仁王にしがみつけば彼はまた笑って髪にキスを落としてくる。正直見れた顔じゃないのにそんな情けない顔を見てどうするんだと聞いてみたら「今は秘密じゃ。もう少し経ったら教えてやるき」と意味深な顔で返された。

その顔にあまりいい感じはしなかったが頭を撫でてくる優しい手にうやむやにされてしまった。


「他はもうないんか?」
「もう思いつかない…」
「キスはもう終いか?」
「………」

微妙なバランスで立っていた自転車を掴み、また歩き出せばそんなことをいわれ仁王を仰ぎ見た。やっと治まった顔がまた赤みを帯びる。


「雅治くんってもしかしてちゅーするの好き?」
「好きな人とちゅーするのに嫌いな奴はおらんじゃろ。というわけで好きじゃよ。は?」
「え?!………わ、……私も好きな人となら、したいです」


さらっと投げ返された言葉になんとか答えると仁王はが持ってる自転車のハンドルを覆うように掴んで道の端に寄せた。
人通りの少ない、裏道に入るそこは丁度外灯から外れていて一気に暗くなる。視界の悪さに焦ったが仁王には手に取るように見えるらしくを引き寄せるとそのまま口を塞いだ。

後ろ頭に回った手にドキドキしながら大人しくしていると唇を割るようにざらついた、生温かい物が口内に入りビクッと肩が跳ねた。それはの舌先を撫でるとそのまま離れ、仁王の口も離れた。



「っ…今、え?」
「今のは予行演習ってところかの」

これもとしたいことのひとつじゃ、と視界の悪い中で仁王が笑みを作ったのがわかった。私"と"したい…?


「俺はとしたいことがたくさんあるからの。まぁ、楽しみにしておきんしゃい」


ニヤニヤと笑う詐欺師にとりあえず身の危険的な感じだけはよくわかっては赤くなっていいのか困っていいのか分からず「い、一応、覚えておく」とだけ返した。

そして、それを聞いて「真面目か!」と仁王が吹き出したのは言うまでもない。
だって他にどう答えろって言うんだよ!




ダブルデートも予定に組んであげてください。
2013.09.19