そんなバカな




年甲斐もなく人前で号泣してしまった後にくるのは羞恥心しかない。目の前にはさっきご飯を恵んでくれた男が歩いてる。今日は遅いからと彼の家に泊まることになったのだ。
はじめは恥ずかしいやら申し訳ないやらで断ってたけど行く場所も帰る方向もわからないを見透かしてか男も引かなくて、結局が折れるしかなかった。

命の恩人だというのに恥ずかしくて5メートルくらいの距離間で歩く。足はじりじりと熱くて時々当たる石が顔を歪めたくなる程痛い。そんな足を引き摺って歩いてるのに男との距離は依然開かないままだ。彼の背中には目でもあるんだろうか。

「っ?!」
「?ああ。カラスが飛んだんだろ」
「…そ、そっか」

バサバサバサッという音がして肩を揺らしたは痛い足のことも忘れ前を歩く男の袖を掴んだ。またあの野盗のような男達が追いかけてきたのかと思ったのだ。男の言葉に空を見ると夕焼けに墨を落としたような黒いカラスが飛んでいく。

「……」
まるで燃えてるような赤さだった。東の端はもう夜の色に染まり始めてる。振り返った林の向こうも影を落とすように暗くなっていた。その吸い込まれそうな暗さに身震いをしたは遅れないように早足で男の後を追いかけた。



*



次の日、目覚めると太陽はすっかり天辺まで昇っていた。そんなが今何をしてるのかというと『土下座』である。

拝啓、お父さんお母さん。
聞いてください。昨日餓死しそうだったところをある人に助けてもらいました。しかも折角その人の好意で家…というか屋敷に泊まらせてもらったのに風呂で溺れてしまい、(正確には疲れ果てて風呂の中で寝ちゃったのだけど)命の恩人に2度も助けてもらいました。

ただショックだったのは自分の素っ裸を見られてしまったこと。何故かは小学校高学年くらいの子供の身体に戻ってて。まぁ、24、5歳の身体よりは見られて困るようなものはどうせなかったけど、こう…プライドというか、乙女心というか、何か大事なものを失った気分です。
食事を持ってきてくれた女中さんから話を聞いて、思わず杓子を落としちゃいましたよ。

ああ、過去に戻れるなら仕事と1人暮らしを始めてもう一人前なんだよ!といきがっていた自分に説教してやりたいです。



「顔をあげな。俺はたいしたことしちゃいねぇよ」

苦笑してるのが見えるような口ぶりの男には顔を真っ赤にしたままゆっくりと顔を上げた。恥ずかしいのもあったけどずっと頭を下げてたせいで血がのぼってクラクラする。


「自己紹介がまだだったな。俺は片倉小十郎景綱だ。お前の名は?」
「……………え?………………ぁ………っです」


あれ?あれれ?
上座に座る彼を私は今迄一体どういう風に見ていたんだろうか。

昨日からちゃんと顔を見ていたはずなのに…頬に大きな傷があって髪をオールバックにしてる人知らない訳ないのに。じっと見つめたまま動かないを訝しげに見てくる小十郎に気づいて、なんとか自分の名前をいったが(名字をいわなかっただけ褒めてほしい)混乱はまだ解けない。

そしてそのの混乱を助長するかのようにドタドタと豪快に歩く音が聞こえスパン!という音と共に達のいる部屋の襖が開かれた。


「Hey!小十郎!!昨日畑で拾ったっていうchildはどこだ?!」


この人ってやっぱりあの人だよね??なんて考えてたら今度は英語混じりの若い青年が片方しか見えない左目をキラキラ輝かせ現れた。
その人物には口を開けたまま固まってしまった。


お父さん、お母さん。
どうやら私はBASARAの世界に来てしまったようです。




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2011.04.21

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