見極め
の処遇を任された小十郎は考えあぐねていた。間者でないのはすぐにわかったが、いかんせん農民の子の割に体力がなく産まれた時から培うような基本的知識が極めて乏しかったりする。
政宗に許可をもらい、忍をつけてみたが報告されるのは毎晩声を殺して泣く姿だけ。
脳裏に竜の化身か妖か、という言葉が過ぎる。前者なら下手なことはできないし、今目の前で泣いたことなど微塵も感じさせないように笑ってる子供を見ていたら妖でも親心が出てしまう。
「小十郎さま!見て見て!大きい大根ですよ!!」
「ああ。随分育っちまったな。城に持っていくか」
「はい!これだけあったら食べがいがありますね!」
畑の手伝いでもするか?と暇を持て余したを連れてきたが正解だったらしい。
掘り起こした大根にはしゃぐ姿はその辺にいる子供となんら変わらない。少し躾けたがは思うよりも聡明で勘がいい。大人のご機嫌伺いが長けている辺り農民というよりも豪族といった組織の中の子供に近いかもしれない。
「…今となっては杞憂な考えだったがな」
「?」
顔まで泥まみれになっているに小十郎は腰を上げると持っていた手拭で彼女の頬を拭いてやった。それを呆けた顔で見ていたが、我に返ると途端に慌てだし「あああっありがとうございます!でも、自分で拭きますから!」と逃げようとする。
「顔も見れねぇのにどうやって拭くっていうんだ。大人しくしてろ」
「はぃ…」
頬を染め、大人しくされるがままになるに小十郎は満足気に手拭で頬を撫でる。
政宗など身分のある者が幼い頃からそれ相応の教育と態度を示さなければいけないことに昔は違和感を感じなかったが、を見いているとどうしてもそれはそれほど必要ないのではないかと思えてしまう。
子供は子供らしくあってほしいと、笑いたい時に笑い、悲しくなれば誰かの胸で泣くのが1番いいのだと最近は頓に考えてしまう。
あったであろう涙の痕を辿り小十郎は屈んで近くなった視線を絡ませた。
「畑仕事は楽しいか?」
「はい!小十郎さまの野菜ってどれも美味しそうでとても楽しいです」
「…そうか」
気遣うような言葉と、本当に楽しんでるような雰囲気に少し迷ったが彼女の名を噛み締めるように呼んだ。
「。お前はこの世で天涯孤独になっちまったが、お前さえよければ…まぁ、本物には程遠いだろうが、俺を家族と思ってくれ」
「え?」
「だからあまり1人で抱え込むな」
驚くの頭を撫でようとしたが自分の手が土塗れだと気がつき固まってしまった。それを見ていたは言葉の意味を理解したのかくしゃりと顔を歪ませると俯き、着物をぎゅっと握り締める。
表情は見えないが隙間から見える赤くなった耳と、雨でもないのにの手の甲にぽたりと落ちる水にどんな顔をしてるのか容易にわかった。
「…そうだ。それでいい」
あまり汚れてない方の手でを抱き寄せてやれば小さな身体がこてん、と小十郎の胸に落ちる。感じる子供特有の温かさに目を細めた。
晴れた昼下がり、遠くて鳶の声だけが響き渡る。そんな穏やかな時間だった。
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2011.05.18
英語は残念使用です。ご了承ください。
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