覚めない夢・3




雪も降り始め、冬篭りに備え城は慌ただしかった。政宗も違わず決裁の書類を眺めていると音もなく迷彩柄の忍が降り立つ。

「うーさぶっこっちは冬が早いねぇ。お陰で手足が凍りそうだよ」
「Relieve. それも今日で終わりだ」
「!…へぇ、やっと飲む気になったんだ」


畳んだ書状を猿飛に投げつけると「確かに」と奴は胡散臭い笑顔を浮かべ、それを懐に仕舞った。中には武田との同盟の件が書かれている。正直、同盟なんざ興味なかったが勢力を伸ばす織田、豊臣に対抗すべく武田と上杉が組むとあっちゃ話は別だ。

今年は豊作と呼べる年だったがその前までが散々だったのだ。一昨年は飢饉に喘ぎ、去年は酷い感冒が蔓延し悩まされた。力を温存し春に動き出したとしても武田・上杉両方を相手にするには今の兵力では十分とはいえないだろう。
時間稼ぎ、というのは性に合わないがこれを機に内情を探るのも悪くないという小十郎と綱元の進言により、表面上は受け入れることにしたのだ。

あとは雪が解けてからだな、と考えているとふと思い出したかのように猿飛が政宗を見やった。

「あ、そういやあの子は今日城にいないの?」
「Ah?誰のことだ」
ちゃん」


思いもよらない奴に思いもよらない名前を出され、目を見開いた。が、それを悟られないように盛大に息を吐くと奴はじっと観察するように見つめ「ああ、知らないんだ」と見透かすような言葉を吐く。

「今は夕餉の手伝いでもしてるんだろ。それでなくとも冬支度で忙しいんだ。テメェと会う時間なんざ作らねぇよ」
「あら〜?竜の旦那ってば妬いてんの?」
「…Ha!テメェはここで死にてぇらしいな」
「うわわっマジになんないでよ!早速同盟を破棄する気?!」
「So do it.そん時はテメェの首を持って武田をぶっ潰しに行けばいいだけさ」
「げっ」

ニヤニヤと笑みを浮かべていた猿飛に渾身の殺気をぶつければすぐさま降参とばかりに両手をあげた。本来の目的は返答の受け取りであって政宗をからかいに来たわけではない。それをわかっていた政宗も程々のところで引き、刀を納めた。


「冗談は抜きにしてもちゃんの居場所、本当にわかんないんだけど」
「……見つからねぇのか?」
「俺様が確認した限りではね。気配も感じないしそろそろ右目の旦那にもちゃんが行方不明だって伝わる頃じゃない?」

ドタドタと珍しいほど荒れた足取りが聞こえ「ほら来た」と猿飛が襖を見やる。その音を聞いた政宗にも少なからず不安が過ぎる。

「見張りを外してくれるなら、俺様がちゃんを探してあげてもいいけど?」
「その必要はねぇ。余所者のテメェはさっさとそれを持って甲斐に戻りな。日が落ちれば手足が凍えるどころじゃすまないぜ」
「余所者、ねぇ……仕方ないか。ちゃんが心配だけど、城主にいわれちゃしょうがないってね」


「…何故、そこまでに肩入れする?」
「あの子、色々怪しくて気になるんだよね。変な子だし。それに、」

肩を竦め、へらりと笑った猿飛が目を合わせるように視線を寄越してくる。勘ぐるような視線に睨めば奴は目を細め笑みを深くした。


「あんな特出するとこのない"ただの娘に夢中になってる"アンタを見てるのが面白くてさ」


ガラッと勢いよく襖が開くと抜刀していた小十郎が猿飛のいた場所を切りつける。しかし奴の方が一瞬早く消えていた。

「政宗様。追いかけ切り捨てましょうか」
「放っておけ。それよりもを探すのが先だ」
「…っ!では、手の空いている者全てにの行方を探させましょう」
「All right.任せたぜ」

天井を睨みつける小十郎にの救出を任せ、黒脛巾組には猿飛が奥州を出るまで目を離すなと命じた。

「それと、を探すことに疑問を持つ奴、陰口を叩く奴、手を抜いた奴を全員俺のところに連れて来い」
「………」


「俺の目を盗んでを貶めようと考えてるfoolな奴らにはたっぷり灸をすえてやらねぇとな」


内心腸が煮えくり返りそうだった。余所者の猿飛が気づかなければ見落としていたことに自分自身が腹立たしくてならない。
の安否を気にしながらも政宗の頭の中は彼女を奪った奴等を心底殺してやりたいと思った。




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2011.05.06
英語は残念使用です。ご了承ください。

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