乱入者
「こんな嵐に隠れて無粋なマネをしようなんざ、この俺が許さねぇぜ」
ガキン!という金属音と声にの時間が再び動いた。吐き出す息と一緒に目を開けると目の前には黄色と大きな身体が視界の大半を覆っていて半兵衛の姿は見えない。
「前田…慶次…。一体何しに来たんだい?」
「ちょっと野暮用でね。んなことより、あんたいつからこんなか弱い女の子をいたぶる趣味になったんだ?」
水分を吸った長い髪をはためかせ、重い剣を振り回す。その動きにあわせて半兵衛も後ろに飛び退いた。慶次の後ろからその様子を伺っていると、剣を下ろし濡れた髪をかき上げた半兵衛と目が合った。
呆れたような、脱力してるような、なんともいえない表情に思わず目を瞬かせる。
「戦うつもりはないよ。こちらも随分時間を無駄にしたからね」
「?」
「今日のところはこれで失礼するよ」
「……」
「…君とはまた会えそうだ」
剣を構える慶次に目もくれず、半兵衛はにだけ言葉を発しそのまま背を向け森の中に紛れてしまった。それを見届けたは今度こそ安堵してその場にへたれこむ。
生きてた…その実感に身体が震えた。
「おいおいっ嬢ちゃん大丈夫か?!うわっ額が切れてるじゃねーか!」
「…平気…」
座り込んだを心配して覗き込んでくれた慶次に返事をしたはいいが、か細い声に更に心配させてしまう。その困り果てた顔になんだか笑みが浮かんだ。
けれどすぐに蘭丸のことを思い出したは、慌てて立ち上がるとふらついた足取りでさっき雷が落ちた場所に走った。
「おいっあんまり近づくなって。危ないぞ!」と気遣って慶次が声をかけてくれたがは構わず木の枝を折りながら蘭丸の姿を探した。枝が頬をかすり、腕を傷つけ中に進むと足元に木ではない何かがぶつかり、急いで枝をかき分ける。
足元にいたのはやはり蘭丸で、気絶してるのか瞼は落ちたまま動く気配はなかった。その姿に緊張が走り震える手で首を触れば温かい体温と生きてる音が伝わってくる。よかった、生きてる。
「嬢ちゃん。さっきから何探して……え?…そいつって」
「この子を助けたいの!手伝って!」
さすがに木の下敷きになってる蘭丸を引きずり出すのは困難だったので、慶次に手伝ってもらうと雨も小降りになり空が段々明るくなってきた。
「一体こいつとどういう繋がりなんだ?」
枝を切り落してもらい、蘭丸をこれ以上濡らさないように木陰まで連れて行くと、慶次はまじまじと蘭丸を見詰めながらそう呟いた。
繋がりも何もまだ会って間もないんですが。そんなことを考えながら蘭丸の腕や足、それから着物に血が滲んでないかとか怪我の状態を確認して立ち上がった。見た感じ倒れた木で大きな怪我はしてないみたい。
「この山を下っていくと右側に無人の小屋があるの。そこまでこの子を連れてってもらえませんか?」
「え?いいけど…助けるのか?」
「私、薬箱持ってきます」
助けるのか?という慶次の顔は少しばかり不安げで戸惑うものだったけど、はそれを見ないようにして背を向けた。慶次は蘭丸が織田の人間で奥州の敵だということを心配してるんだろう。
戦いが嫌だというから敵でも手当てをするのは当たり前だろうとか同じことを考えてると思ってたんだけど…慶次がそんな顔をするなんて思わなかったな。
「小半時したら戻りますから」
慶次の表情が少し気になったものの、そういっては慶次達を残し山を駆け下りた。
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2011.07.14
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