旅は道連れ
「さぁて、俺もちょっくら青葉城まで行ってくるか」
「ま…伊達さまに会いに行くの?」
青葉の名に呆けた顔を引き締めると立ち上がった慶次は着物を羽織、身形を整えた。
派手だけど格好いいなぁ。慶次以外こんな着こなしできない気がする、と眺めていると「そうさ」とにっこり笑った慶次が頭に手を置いた。
さっき撫でてて包帯を巻き直すことになったのをちゃんと学んだらしい。
の頭には重傷患者のように包帯が巻かれている。どうやら半兵衛に額も切られてたようで「傷、残らなきゃいいな」と眉を潜めた慶次に凄く心配された。その表れがこの包帯で、別に顔が血だらけになるほど深くないのに(額で深い傷を負ったら死ぬけど)残った包帯を全部使って巻いてくれたのだ。
小屋の外に出ると慶次は節々を伸ばすように腕を高らかに上げる。彼が見上げるのと一緒に空を仰げば東の空が藍色に染まっていて月もうっすら見える。
「今から行くの?」
「ああ。本当は友達がいる間に行ければいいかなって思ってたんだけど、状況が状況だしな」
肩を竦め、力なく笑う慶次には視線を下げた。そうか。半兵衛を逃したということは秀吉と合流する訳で。それは蘭丸も同じであって。2人共わざわざ奥州に視察に来たとということは戦があるのかもしれない。もしくは本当に同盟を組んだのか確認しに来たのかも。
どちらにせよ早く報告した方がいいに決まってる。
「こういう時、早馬でもあればいいのにな」
「それだったら、なんとかなるかも」
「え?」
もしかしたらあの時慶次が聞いてきたのはこういうことを予測していたからなのかも。目を瞬かせる彼を見上げたは胸が痛くて引きつりそうだった。
*
小十郎の屋敷に戻ると何故かみんなが総出で出迎えてくれ、の姿に何が起こったのだと矢次に聞かれた。その説明は慶次が引き継いでくれ、状況を話してもらってる間には厩に行って、前に小十郎に聞いていた1番早くて若い馬を連れてきた。
走れる!と少し興奮気味の早馬を連れて行くと、話を終えたのか慶次が手を振って呼んでいる。
「おっこりゃ速そうな馬だな。いいのかい?こんないい馬を借りちまって」
「緊急だもの。小十郎さまも許してくれると思うわ」
「はどうする?」
どうする?早馬の首を撫でる慶次の問いには首を傾げた。
「あんたも顔見てるし、話も余所者の俺よりは信用しやすいんじゃないかと思ってさ」
「報告するだけなのに当事者は2人もいらないわ」
こっちでやることだってあるもの。
もし戦になんかなればここも戦場になりかねない。準備を今からするなら手伝えることもある。「そうか」と頷いた慶次は馬に跨ると門番が慌しく正門を開く。
「……もしかしてあんた"お姫さん"かい?」
「?違うわ。女中よ」
戦になんかならなきゃいいのに、そんなことを考えながら門の向こうを眺めているとあけすけにそんなことを問われ眉を潜めた。恋だの姫だのこの男は緊迫感ないんじゃないか?慶次らしいけど。
恋、というワードに蘭丸が脳裏を過ぎると自分がしたことも芋づる式に思い出した。
「慶次さん」
「ん、なんだい?」
「政宗さまと小十郎さまに会ったら"ごめんなさい"っていっておいて」
蘭丸を生かしても殺しても戦の切欠になりうるけれど、彼は信長の忠実な部下で戦うことを躊躇しないから。間違いなく彼の手によって傷つく人が出るんだろう、そう予測できて頭を垂れた。
「?!っわひゃ」
前足を鳴らす早馬の足を眺めているといきなり二の腕を掴まれ、そのまま宙に浮いた。気がつけばは慶次の膝の上に乗っていて彼はぽんぽんと私の頭を撫でてくる。
「そう、落ち込むなって。は何も悪いことをしちゃいない。傷ついた人間に手を差し伸べるのは当たり前だろ?」
「でも、そのせいでこうなったわ」
「それだっては知らなかったことだろ?」
宥めるように優しく言葉を紡ぐ慶次には眉を寄せた。ダメだ。今は何を考えても後ろ向きにしかならない。早く部屋に帰って寝てしまえば…そう考え降りようとすると何故か馬がゆっくりと走り出した。
「え?慶次さん?」
「俺さ。前回あそこの門壊しちまったんだよ。もしかしたら追い返されるかもしれなくてさ」
「……」
「だから、一緒に行こうぜ」
お願い。とおねだりするように小首を傾げる慶次がなんとも気持ち悪いというか可愛いというか。呆れて何もいえなくなっては盛大な溜息を吐いた。
別に自分が城の中に入らなくてもいいのだ。門を通ればあとは何とかなるだろう。忘れていたが私はまだ追い出した政宗と小十郎を許してはいないのだ。
「わかったわ。じゃあ城の人達に断ってくるから降ろしてください」
「あーそれも大丈夫。さっきいっといたから」
ということは最初からこうするつもりだったのか。道理で周りが心配そうに見てくるわけだ。視線を明後日の方向に向けてる慶次を半目で見たはもう一度溜息を吐いた。
「溜息ばっか吐いてるといい恋ができなくなるぜ?」
「"幸せが逃げる"ですよ」
どっちも似たようなもんじゃん。と視線を合わせてきた慶次が「じゃ、行くか」とを馬に跨らせた。
「落ちないようにしっかり掴んどけよ!」
「わかってま…っきゃあああっ!!」
慶次が腹を蹴ると早馬が嘶き、走り出す。そのスピードには悲鳴をあげ、彼は更にスピードを上げるように手綱を振るった。
-----------------------------
2011.07.14
BACK //
TOP //
NEXT