恋男と右目




ベタベタと綺麗に磨かれた廊下を歩く。時間でいえば今は亥の刻(21時〜23時)で、これから今回起こった騒動の報告やらなにやらに行くところ。とは謙信を迎えに行く時に独眼流に引き離されてそれから見ていない。治療はしてもらってるだろうけど大丈夫かな?

慶次の前には堅物で強面の竜の右目が大して変わらない体格だというのに自分より静かに歩いている。
徹夜だったり散々殴られたり謙信を迎えに行ったりと忙しかったから本当は寝たかったんだけど状況が状況なのでもう少しお預けだ。そんなことを考えながら慶次は腫れた頬を気にしつつ大きな欠伸をかいた。

「…成り行きとはいえこき使って悪かったな」
「いいや。困った時はお互い様だろ?」

欠伸をした俺を肩越しから振り返りそんな言葉をかけてくる小十郎に笑って気にしてないと返した。本当、顔に似合わず気配りうまいんだよなぁ。


「そういや、は大丈夫だったのかい?」

小十郎も武田を迎えに行ったとはいえ、政宗の家臣だ。のことは聞いているだろう。そう思って口にしたのだが「ああ。大丈夫だ」と淡白に返されただけだった。
おいおい、あんだけぶち切れてたのにそりゃないだろうよ。

「…もしかして、ってあんたの娘とか?……じゃねぇよな、さすがに」

あ、こけた。


「た、確かに違うが…。俺はの後見人みたいなもんだ」
「へぇ。じゃあもしかして独眼竜の好い人、だったり?」
「相変わらずてめぇは酔狂な話ばかりするな」

咳払いをしたかと思ったら小十郎は立ち止まり振り返る。呆れ顔ってやつだ。珍しいな。こんなに表情変わるの初めて見たぜ。

「酔狂じゃないぜ。恋はいいもんだ!なんせ恋は」
「ああもういい。てめぇの惚れた腫れた話は腐るほど聞いた」
「ちぇ。そんなんじゃが恋をしても苦労しそうだな」

ぼそりとぼやいたつもりが相手にはしっかり届いてたらしく、鼻先に刀の切っ先をつきつけられた。危な!もう少しで鼻がなくなるところだったじゃねぇか。

「何かいったか?」
「い、いいや?」


この人こんなに感情出す人だったっけ?恋でもしたかな?そんなことを考えながら俺はひきつった顔で笑っておいた。…この様子だと聞いても教えてくれなそうだし、後での顔でも見に行くか。

入り組んだ廊下を歩いていき、つきあたりの部屋に入ると少し小さめの部屋に大の大人が3人待ち構えていた。
目の前にはこの城の主である政宗、それから俺が迎えに行った謙信、武田信玄が上座に座っている。小十郎が入ってこないところをみると4人で話すつもりらしい。

ま、ここに幸村がいたら白熱しそうだからこんな小さな部屋じゃ入れない方が得策か。そんなことを考えつつ慶次は胡座をかいて座った。




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2011.07.25

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