会合




同盟を組むってことで奥州に向かったまでは良かったんだけど、その道中は正直散々だった。街道が土砂で埋め尽くされて通れないし、数十の黒頭巾組の偽者に囲まれ攻撃されるしで随分な痛手を負うことになった。
偽者はすぐに見抜いたけど黒幕が竹中半兵衛の仕業とわね。さすがの俺も数十の忍相手は疲れたよ。まぁ、それは上杉もみたいだけど。

「かすがんとこも忍来たんだろ?怪我しなかった?」
「……」

屋根下の上司達の会話を聞きながら話しかけてみたが、目の前のかすがは一心不乱に謙信を見つめたままチラリともこちらを見ない。返事もする気がないのだろう。そんな冷たい態度に肩をすくめた佐助は話に耳を傾けた。


「けいじ。そこにいたのはとよとみのたけなかはんべえでまちがいないのですね?」
「ああ。少しだか刀を合わせてきた。間違いなく竹中半兵衛だったぜ」
「んで、織田んとこのガキか。何故殺さなかった?」
「無理いうなよ。小さい女の子の前でそんなことするわけねぇだろ。それ以前にそういうことはしない主義なんでね」

相変わらず甘いねぇ。その小さな火種のせいで国が落ちたらどうすんのよ。変なところで格好つけたがりなんだから。はぁ、とこれから予測される仕事の量に溜息を吐き出すと慶次はあけすけにとんでもないことを言い放った。


「けど、は立派だったぜ。半兵衛に一歩も引けを取らなかった」
「それで顔に傷を作ってちゃ意味ねぇだろうが」
はぁ、と溜息を吐く政宗に佐助は息を呑んだ。ってまさかあのちゃん?顔に傷?ええ?何やってんの、あの子!!

「その者は婆娑羅者なのか?」
「No.ただの女中だ。訳あって暇を出していたんだがまさか巻き込まれるとはな」
「……ならばそのおなごはとてもめぐまれたこどもなのかもしれませんね」

「Why?どういう意味だ?」

「われわれをおとしいれ、おそったしのびはしばしせんとうののちたいさんしています。わたしのつるぎやかしんではすべてをたおすことはできませんでした。そのしのびがたけなかはんべえのもとにもどったとすればききてきじょうきょうはかこくをきわめたでしょう」

確かに、俺達を襲った忍は結構な数で全部は倒しきれなかった。途中で退散されちまったし。その数と上杉を襲った忍を換算すればどんだけ削ってもが太刀打ちできるような数じゃない。しかもちゃん戦えないし。


「そのおなごをすくったのはてんとけいじのほかにいないでしょう」
「あの気まぐれに落ちた雷がか?」
「うむ。それにはワシも神がかったものを感じている。山の天候は変わりやすいとはいえ、ほぼ同時に雷が落ちるなどまずありえまい。しかもワシや上杉、そしてそのという女子の地まではあまりに離れておる」
「まぁな」
「そして、ワシらを妨害していた土砂を崩しやすくし、上杉が渡るはずだった落ちた橋の変わりに木が倒され、小さな女子の命を救った。故意に技を繰り出せる婆娑羅者でもここまでの芸当はなかなかできまいて」

大将のいうとおり、そこまで同時に起こったとなると仏様の悪戯にしちゃあ出来すぎてる。まだどっかの誰かが落としたっていう方が納得するけど今のところ、そんなことをして喜ぶ輩はこの世にいない。
しいていえばこの屋根下にいる前田慶次ぐらいだけどこいつは属性風だしなぁ。雷属性で考えても双竜以外でそんなことする、もとい出来る奴がいるとも思えない。それに疑問も残る。

天というからには天命や戦人、それにそれ相応の地位の者に与えられるものだ。けどはただの城女中で特別なものなんて何もない。若干ずれてるところがあるけど取りだって変という訳でもない。むしろ助かるべきは残酷だけど竹中半兵衛や森蘭丸でそちらの方がしっくりくるのだ。

織田と豊臣を相手にすることを考えれば今話してることはさして問題じゃないけどなんか妙に引っかかるんだよなぁ。


「てんのめぐりあわせといえど、おだのおにごととよとみのぐんしをまえにしていきのびれたのはさいわいでしたね」
「ああ。けどあのちんまいの…森蘭丸は大丈夫だと思うぜ。あいつに恋してたからな!」

「はぁ?…とと、」


さてさて、どうしたもんかね。と下のやり取りを見ていれば、慶次がまた訳のわからないことを口走り思わず声が漏れた。近くでは「馬鹿め」と唇だけ動かすかすがが見え肩を竦める。すんません、大将。と視線だけくれてくる信玄に心の中で謝った。

こりゃ、ちゃんに説教かな。




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2011.07.25

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