気にすんな




はぁ、と政宗は溜め息を吐いた。堅苦しい同盟の儀も終わりやっと自由時間が出来たのだ。昨日から寝るのもままならず、準備だなんだと会議尽くしでろくにの相手もしてやれなかった。
小十郎と前田を先見隊として送り出した後、を女中に任せ、綱元や家臣と織田、豊臣をどう迎え撃つか、戦場の選定や動かせる人員の選抜を話し合っていた。明日は武田上杉を交えての軍議になる。その前に暫しの休息なのだ。

「ったく、の奴faceなんぞに傷なんか作りやがって」

小十郎ではないが文句のひとつもいいたくなる。
薬師の話じゃの額の傷は痕となって残るらしい。

女にとって傷は一生の汚点だ。今のご時世美人にこしたことはないが、女は健康であり子を産むのに丈夫でなくてはならない。それは病気1つで、傷1つで、見方が変わってしまうほどに周りの連中はくだらない思い込みをしている。
政宗は子供の頃にそれを痛いほど味わった。そんな世の中にもいるのだ。

生き残ったことを褒めるべきか慰めるべきか。そんなことを考えながら政宗はドタドタとに宛がった奥の間へと急いだ。


、入るぜ」

ガラッと戸を開けると部屋を照らす行灯でが起きてるのが見えた。寝顔を拝んで帰るつもりが少しは話せるらしい。そう思ったが、逸らされた顔に目を見開き了解を得ず部屋の中へと入った。

「何のご用でしょうか」

白い夜着が行灯の光に照らされ一段と妖艶に写る。その影に隠された顔を見ようと手を伸ばせば拒絶するような声が返ってきた。


「仕事がひと段落したからお前の顔を見に来たんだ。どうだ。傷は痛むか?」
「お陰様でなんともないです」
「薬師から傷の話は聞いたか?」
「特には…小十郎さまに全部お話したと聞いてます」

なら、痕が残る話はまだされてないのか。少し安心したような息を漏らすと、政宗はの傍らにどっかりと座り込んだ。

自分の顔に傷が残ったなんて話をしたら普通の女は尼になるか自害するかのlevelだ。それを危惧してこうやって夜中だというのに足を運んだり屋根裏に忍をつけたりしたのだ。少々やりすぎでにバレやしないか気になったがこの雰囲気だと忍をつけてることは気づいてないだろう。


「同盟はいかがでしたか?」
「Ah..滞りなくすんだぜ。お前のお陰だ」

Thank You。と礼をいったがは顔をこちらに向けたものの「そうですか」と伏せ目がちに返すだけだった。さっき見た涙は間違いないらしいな。

「お役にたてて何よりです。…政宗様。明日もお早いのでしょう?夜更かしは身体に障ります。どうかお部屋でお休みくださいませ」
「そうもいかねぇ。こっちはやっと出来た時間なんだ。お前のsmileを拝むまでは帰らねぇよ」
「ご冗談を。お疲れなのでしたらそれこそ自室でお休みください」

顔を下げてるせいで額に巻かれてる包帯が痛々しく見える。顔にできた傷なんぞ他人に見せたくいない気持ちはわかるが(だから奥の間に置いたんだが)どうしても帰る気にはなれなかった。
手を伸ばしの頬に触れようとすれば肩を揺らし背けられる。そのわかりやすい行動に政宗は彼女の手を握り引っ張った。


。Look at me.」
「……」

顔を上げないに声をかけたが逆に手を引っ張り返され、の腕がつっぱる。

「お前の無事を確かめたいだけだ。こっちに来い」
「大、丈夫ですから。ちゃんと反省してますから放っておいてください」

わけのわからないことをいうに、どうやら傷のことだけじゃなさそうだと踏んだ政宗はそのまま引っ張る力を強め自分の腕の中に閉じ込めた。子供と大人、女と男の差だ。が俺に勝てるわけがない。
さっきまで寝ていたせいか少し体温の高い背に手をあてるとはビクッと肩を揺らしたが腕を突っぱねたり暴れたりはしなかった。

「Hey.一体何の反省をしてるんだ?」

自分の命を危険に晒すようなことをしたことを反省してるのか?それは明日辺りに小十郎がみっちり説教するつもりだろうから今は考えなくたっていいだろう。そう思ったが少し違うらしい。


「……蘭…敵を逃したことです」
「お前のせいじゃねぇよ」
「でも、私が逃したせいでみんなを危険に」
、」

ぐいっと顎を持ち上げれば今にも泣き出しそうな潤んだ瞳とかち合った。こんな震えた身体でよくそんなことがいえたもんだ。

「馬鹿だな。怖い思いをして死にそうになったのはどこのどいつだ?むしろ生きて帰ってこれたことに驚いてるくらいなんだぜ?」
「……でも、」
「んな奴らは全部俺がまとめて潰してやる。だからお前は気にすんな」

顔に張り付く汗ばんだ顔を着物で拭ってやればの瞳から大きな粒が零れ落ちた。こんな小さな身体で、戦える術もなく死にそうになったんだ。怖くないわけない。そんな恐怖よりもその後に起こることを心配するなんざ普通の女子供が考えることじゃないぜ?




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2011.08.14
英語は残念使用です。ご了承ください。

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