酔っ払い戦争




一時はどうなるかと思っていたけどのお披露目はうまくいったみたいだ。
元々信用しやすいおつむも筋肉のような集団だから幸村と信玄にああまでいわれたらそう簡単に疑う奴は出てこないだろう。
あとは小出しにを人前に出して交流させ、無害な子だと認識させればいい。

「おいしー!あまーい!」
「だろ〜?甲斐の酒は旨いんだぜ〜!」
「それにしても嬢ちゃん、いいのみっぷりだな!どうだい?もう1杯」
「わあ!ありがとうございます〜」

「ちょっとあんたら!ちゃんに何飲ませてんの?!」


酒の飲みすぎでのびた幸村の介抱をしながら今後の予定を組み立てていれば、傍らにいたはずのがいつの間にか酔っぱらい集団に混じって酒を飲んでいた。
その光景を目の当たりにしてツッコミを入れたが酔っぱらい共は聞く耳をもたず、に酒を飲ませようとする。

「だあもう!ダメっていってるでしょうが!」
「ちぇ〜佐助さんのケチ〜」
「「「ケチ〜」」」

徳利を奪えばが口を尖らせ、何故か酔っぱらいのバカ共も口を尖らせる。お前らはキモいんだってーの。

だからいわんこっちゃない。

周りを見ればすでに脱落者も出ている酔いどればかりだ。保護者であるはずの慶次は飲むだけ飲んで今は鼾をかいて眠ってるし、信玄もが部下の面々と話をしだしたところで退席している。
つまり、場をまとめる者ももう遅いからとを部屋につれていく保護者もいないのだ。


「お嬢は何か芸はないのかい?」
「うーん、そうですねぇ」

いっそ幸村を放って一旦を部屋に押し込めてからこの片づけをしてしまおうか、と悶々していると酔っぱらいの1人がに芸をしろといってきた。
農民出の女中に姫様らしい舞とか琴とか琵琶とか出来るわけがない。そう思ってを呼ぼうとすれば彼女と目が合いにっこり微笑まれた。何か考えがあるらしい。

それ以前に結構酒飲んでるはずなのにまだ素面なのか…あの子もしかして酒豪なの?あの年で?

「歌とか」
「歌か!いいな!」
「どんなの歌うんだ?」
「うーん。難しいのはわかんないから英語の…南蛮語の歌でもいい?」


立ち上がったに周りの男達が拍手する。その拍手につられて他の奴らも目を向けた。
その視線に照れながらもはお辞儀をして背筋を伸ばす。
足には信玄から与えられた着物の色に合わせた袴を穿いていて、その凛とした姿は勇ましささえ感じた。息を吸い込む彼女に俺は無意識に息を飲んだ。

「When you wish upon a star...」

奏でられた音は知らない歌だった。今迄聞いたどの歌とも重ならず辿る音も不思議で本当にこれが歌なのかすら疑った。
佐助の聞いたことがあるものといったら地を這うような、経を唱えるようなものか、もしくは働く女達が自分達を活気付ける為に歌う力強い歌くらいだ。それが鳥が囀るような、薄く柔らかな羽衣が舞うような歌がこの世にあるとは。


「(この子、本当に10やそこらの子供と一緒なの…?)」

滑らかに綴られる言葉や包まれるような声色に聞く者は目を、耳を離すことはできない。叙情的で大人びた雰囲気のに皆が一様に釘付けになっていた。
視界の端で蠢くものを見やればさっきまで鼾をかいていた慶次までが起きてまっすぐを見つめている。

きっと歌詞など誰も知りはしないだろう。けれど皆一様に聞き入ってしまっている。
そして男達の目には少女のではなく、女としてのが写っているかもしれない。事実、佐助の目にはいつものではなく羽衣を纏った天女がいるように見える。
大袈裟かもしれないが彼女の歌を聴いているとそう見えてしまうから不思議だ。

「Anything your heart desires...Will come to you...」

歌い終わった彼女と目が合いドクンと心臓が跳ねた。ふわりと微笑んだ笑みに心の臓が持っていかれるかと思った。そんな佐助の心情を余所に、がお辞儀をした途端割れんばかりの喝采が起こった。 もう殆どの奴が酔いも覚めたような顔で称賛している。
「佐助…」
「あれ。旦那いつの間に起きたの?」
「今しがただ。しかし目覚める前に夢を見たぞ」
「どんな?」
「菩薩様が現れ、不思議な歌を歌っておった…」
「……」

起きてきた幸村に声をかけると更に驚くようなことを呟いた。菩薩様って。さすがにいい過ぎだと思うけど。そう思ってを見やれば酒を注がれてまた飲んでいる。あの子どんだけ飲む気なのさ。

「旦那の夢、菩薩様はいないけど夢ではないよ」
「何?」
「あ、幸村さま起きたんですね」


大丈夫ですか?と弾む息と酒が入った赤い顔のが幸村の顔を覗き込む。さっきまであったはずの大人びた雰囲気は残っていない。ただ自分の目が少しおかしいだけ。さらりと流れる髪や見える首筋が妙に色気を感じるなんて。

「その不思議な歌を歌ってたのちゃんだよ」
「なんと!そうであったか!!」
「え?!もしかして起こしちゃいましたか?」

彼女の背を押し幸村の前に座らせると、旦那は酔っていたことも忘れ飛び起き、の手を握り締めた。




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2011.10.25
歌…何にしようか迷いに迷ってこれにしました。怒られそうで怖い…。
そして現代の歌が昔の人に受け入れられるかは定かじゃないです。きっと"変!"って思われそう。

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