# 02

「見て見て!小さい新ちゃん!この前見せたアルバムと一緒で可愛いしょう?」
「わぁ。本当に小さいですね」

物理法則すらぶっ飛ばしててビックリです。と犬猫のように抱え上げられた眼鏡の男の子を見て感心したように零したが相手の子は顔を引き攣らせていた。その気持ちもわかる。


「せめてもう少し驚くとか表情動かせねぇのかよ…」
「こーら新ちゃん!」
「だってよぉ!驚く時はもっとわかりやすい顔するじゃねぇか!」
「まあ、事前情報入ってたしね」

沖矢昴の変装チェックを終え、現地解散になったは義母有希子と一緒に新一こと江戸川コナンを阿笠博士宅で待ち伏せし無事捕獲した。
そして冒頭に戻るのだが小さくなった彼に会うのは初めてとはいえ、その前に有希子さんにこれでもかと情報を与えられていたのだ。どうやったって驚く方が難しい。

私に演技を求めないで、と首を振ると下ろしてもらったコナンが手を伸ばしてきたので彼が届きやすいようにしゃがみこんだ。


「ったく。お喋り好きが近くにいるから自分は聞き手でいいや、なんて思って全然喋ってねぇんだろ」
「全然ではないけど…」
「新ちゃんどういうこと?」
「言葉のとおりだろ。笑ったり喋ったりしねーと表情筋はすぐ固まっちまうんだから…はリハビリが必要だって前にもいったじゃねぇか」
「えええぇ〜?でも前よりずっとずっとお喋りするし表情だってわかりやすくなったじゃない。ねぇ?」
「そうですね」
「ほら〜」
「ほら〜じゃねぇーよ!そのレベルの受け答えなんてコミュニケーションの初歩の初歩じゃねぇか!んなもん3分しか走らねぇ博士のダイエットと一緒だっつーの」
「確かに3分じゃ脂肪も燃焼しないわね。むしろ空腹感が増すだけだわ」
「ガーン!」

このやりとりをしている間中、はコナンに頬をマッサージしてもらっていた。小さな手がムニムニと自分の頬を引っ張ったり押したりするのはこそばゆくも少し気持ちいい。

記憶が欠落して表情もどこかに落としてきたからちゃんとした感情表現がいまいちできない。
基本スペック・ポーカーフェイスという名の無表情。意識して口角を上げろと新一だった頃の彼に助言されたのだがまだ合格点には至ってないらしい。


マッサージが終わった後も何やら言い合っている(遊びに行きたい母親と行きたくない息子の攻防)と眺めながら視線を少し動かすとこれまた大人びた少女が雑誌を読みながら飲み物を飲んでいる。佇まいが大人そのものだ。
確かコナンと同じ小学1年生のはず…と眺めていたら視線に気づいた彼女が「何か?」とこちらを向いた。

「挨拶が遅くなってごめんなさい。工藤です。よろしく」
「ええよろしく。灰原哀よ」

手を差し伸べ握手を求めればあっさり返してくれたが対応が大人だ。
出来過ぎた子役って感じだ、と感心していると雑誌に戻したはずの視線をこちらに戻し「初対面でいうのもなんだけど」と切り出した。


「工藤君から事情を聞いたけど、あなた記憶を取り戻したいって思わないの?」
「……あー記憶、ですか」
「そういえば君は記憶をなくしているんじゃったな」

いきなり核心を突いてきた彼女に驚いていると「そうね。さっきよりも驚いた表情になったわ」と頷いていてコナンに呆れた顔で彼女を睨んだ。


「灰原ぁ〜うちので遊ぶなよ…けど、あれ以降も記憶は戻ってねぇのか?」
「そうね。ぼんやりと浮かんだり夢を見たりしてるけど起きると消えちゃうみたいで"気がする"くらいかな。記憶を取り戻したいかどうかと聞かれたら…少し微妙かも」
「……」
「取り戻したところで過去は変えられないし、元の両親も帰ってこない。それに今繋がってる人達がガッカリするような人間だったら怖いし、ね」
「そう、」
「人身売買してたグループの残党がまだ捕まってないから、記憶を取り戻せばもしかしたら手伝いになるかもしれないけど」
「それはダメだ!」


犯人グループは検挙されたけどコミュニティが大きいらしくて警察が今も走り回っている。一握りの人身売買グループを捕まえたところでどうしようもないくらいあの世界は闇が深い。

正直記憶を掘り返したところで有益な情報が得られるかは謎なのだけど、もしあるなら多少無理をしてでも取り戻すべきかもしれない。
そんな話を警察側のカウンセリングでいわれたなぁ、と考えていたらコナンが叱るような声で叫んだ。

「昔の記憶ならともかく、事件のことを無理して思い出す必要はねぇよ。つーか、取り調べを受けたせいでの表情が戻らなくなっちまったんじゃねーか!これ以上なくさせるようなマネできるかよ!ショック療法とかいわれてもやるんじゃねぇぞ!」
「う、うん…」
「それに思い出したところで、捕まってる奴らのことしか出てこねぇよ。でかい組織がそんな簡単に売られる側に顔を見せるわけねぇしな」

尤もらしいことを息巻くコナンに何度か瞬きをすると哀がフッと笑みを作り彼を見やった。


「随分とご執心ね。気持ちはわかるけど…でもそうなると事件はいつまでもコールド・ケースのままよ?」
「バーロー。誰が未解決にするかよ。全部事が済んで元の身体に戻ったらそっちの事件も片づけてやらぁ」

それまではコイツに無茶はさせねぇよ、と言い切るコナンに哀は「はいはい」と少し呆れた顔で笑ったがは純粋に格好いい、と思った。見た目は小学生だけど。

出来た義弟で鼻が高いよ、と感動していると、それを代弁するかのように有希子さんが「さっすが新ちゃん!私の息子!!」と大喜びで抱きしめ、息子は頬を染め慌てふためきさっきまでのキメ顔が瞬間風速のように消えていった。