# 05

義理の両親の近くにいると見目が整っている人を多く見るが、彼もかなりレベルだった。
あのバランスで褐色金髪なんて早々に忘れるはずないのだけどどこで会ったのだろうか?いや、見た、のかな?掘り返しても出てこない記憶に腕を組む。

工藤夫妻や新一(コナンも)、哀や阿笠博士、それに沖矢…みんなどこかしら記憶の端に引っ掛かってる。そしてとうとう見知らぬ男性まで見覚えがあるような気がしてきた。

まるで予知夢でも見たかのような感覚に首を捻る。
人身売買がどれほど恐ろしく辛い経験か、と口々に同情され労わってもらったがそっちの記憶の方よりもよっぽど引っ掛かるのも変な話だ。私の脳はどうなっているんだろう。


ぼんやり考えていたらまた怒鳴られたので慌てて平謝りし部品が入ったケースを持ち上げ移動する。ここには危険物もあるのだ。あまりぼんやりしていると平気で指がなくなる危険もある。しっかりしなくては、と重い荷物を持ち赤くなった指を振った。

、仕事には慣れたか?」
「あ、小栗さん」

いきなり声をかけられいささか驚いた。振り返れば主任の小栗がにこやかに立っていての隣に来ると肩に手を回し「どうだ?」と聞いてくる。
最近管理職に繰り上がり現場にはあまり出てこないと聞いたのだけど、が入ってからは姿を見ない日がなかった。

そして思った以上にスキンシップが好きらしくことあるごとにに触っては仕事で戸惑ってないか気にかけてくれていた。

「(このやたらと触ってくるのさえなければいい人なんだけどな…)はい。皆さんのおかげで慣れてきました」
「その割には毎日怒鳴られてるじゃないか。気合い入れてやろうか?」
「い、いえ、ヒッ」


ニヤニヤと肩を撫でる感触が少々気持ち悪いが丁重に断るとお尻を叩かれ…というか揉まれ軽く悲鳴が漏れた。
今自分はここで働くために変装をしていてひ弱な青年の格好をしているのだが何故そんなことをされるのか理解できず硬直した。流石に下半身まで作りこんでいるわけではなかったのでそういう意味でも血の気が引く。

しかし相手は「何、女みたいな声出してるんだ。こんなの挨拶の内だろ」と笑ってまたお尻に触ってきて、今度はいやらしく撫でてきたので跳び上がるように彼から離れた。


「ああ、いたいた」

もしかして、バレたのか?と不規則に鳴る心臓を抑えていると、どこからともなく爽やかな声が響き小栗と一緒に振り返った。

作業している騒音に混じって聞こえた声はさながら清涼水の如く、見れば薄暗い工場に挿し込む朝焼けのように輝きそうな存在感の人がこちらに向かって歩いている。
彼は爽やかな笑顔を貼り付け、片手を軽く上げ挨拶くしてきたのでも返すように会釈をした。

「良かった。キミを探していたんだよ」
「え、俺、ですか?」

愛想笑いを浮かべ挨拶をする小栗を無視した彼は、隣に来てリードするようにの背を押し歩き出す。そんな対応に小栗は驚いたようだが彼は気にする素振りは一切ない。まるでいないかような扱いだ。


「僕の車が見当たらないんだ。移動したのかい?」
「あ、はい。作業工程で移動するので…今はあっちにあります」
「なら、案内してくれるかい?」

工場内はそれほど大きくないが機材が所狭しと置いてあるので少し入り組んでいる。その為お客さんの視界に入らなかったのだろう。
そう思ったがこの笑顔を見ていると自分を助けてくれたようにしか思えなくて、金髪で褐色のお客さんをチラチラと見つめながら彼の車があるところまで案内した。