# 08

結局、青月さんの行動は謎のまま夢だったのかもしれない、と思いつつ彼と別れた。そしてその数日後、工場に行くと黄色いテープが張られ、立ち入り禁止になっていた。

「え、なにこれ…」

近くにあった張り紙を見れば差し押さえと従業員の解雇、工場の倒産の旨が書き綴ってあった。それを何度か見直したが文字がそれ以上変化することはなく、は無職になってしまった。

「ええ、嘘…」

フラフラと歩いた先にあった公園のベンチに座り込んだは頭を抱えた。
まだ1ヶ月も働けていない。給料も発生しないんじゃないか?…いやこれはまだいいけど、アパートも出て行かなきゃいけないってこと?工場で何があったの?
そんな兆しも不穏な空気もなかったはず…そう思ったがとある人物を思い出しポケットを漁った。


取り出したメモ紙には青月さんの電話番号が記してある。
朝食を食べた後『キミは悪用しなさそうだからこれを渡しておくよ。何か困ったことがあったらかけてきてくれ』だなんていってたけどもしかして、これを予測してのことだったのだろうか。

よく考えたらあの日以降青月さんの姿は見ていないし、車もが知らない間に引き取られていった。そういえば、青月さんの車ないなぁ、と思った辺りから小栗のセクハラもなくなった気がする。というか顔を見ていない。

もしかして小栗が…?と思ったがでも彼はあくまで主任であって社長じゃない。工場を差し押さえる程となるとそれこそ社長が裏で何かやっていたレベルだ。

「いや、それよりも、私の家…」

殆ど荷物を増やしていないとはいえ、こうもあっさり住む家がなくなるとは思ってなくてガックリと肩を落とした。



仕方なく小学校が終わる頃合いを見計らって新一ことコナンにメールするとすぐさま電話で場所を聞かれ公園で待ち合わせることとなった。
待つ間にアパートに戻り、管理会社に連絡をとったがやはり社長と連絡がついていないみたいで、しかし退去してもらうことは決定事項だと告げられまた溜息を零す。

布団やちゃぶ台などの大きなものはそのままに、スーツケースに入っていたものを全て詰め直し、少し増やした荷物を抱えて部屋を出た。しょんぼりとしたまま待ち合わせの公園に戻れば、出入口のところでコナンが苛立たし気に腕を組んで立っていてそれだけで身が竦んだ。

「こんにちは、コナン君」
「?こんにちは…」


怒られるのが目に見えた態度に少しばかり躊躇したけど、他にどうしようもないので声をかければ彼は驚きながらもいつもより高い声色で子供らしく挨拶をしてくれた。

が、何故自分の名前を知ってるんだ?という顔でこちらを見返し、凝視していくうちに目が半目になり「もしかして、か?」という頃には声色がいつもよりも低くなっていた。

「ご名答。さすが名探偵」
「……」

力なく賛美すれば顔を引き攣らせたコナンが盛大な溜息を吐き、の手を掴んだ。こっち、と引っ張る彼に首を傾げるとどうやら沖矢にも連絡したらしい。

近くのパーキングで待っているのでそこに向かうのだという。
程なくしてパーキングに辿り着けば、可愛いてんとう虫のようなフォルムの車が目に入る。運転席にはやや狭そうな体躯の沖矢がこちらを見てにっこり微笑んでいた。変装した姿は知らないはずなのに余裕の笑みだ。


「どうでした?社会勉強の方は」
「…まぁまぁです」

サラリと嫌味を言われ適当に返しつつ、乱暴に座り込んだ。小さな車体がそれなりに揺れドアを閉めると隣に座るコナンに「ったくさぁ」と苦々しい顔で睨まれる。ああ、説教されるなこれ。

「メールでいきなり『HELP』って来たから焦っちゃったよ」
「ごめん。これでも一応緊急だったから」
「しかも住み込みみたいなことしてさ。別にお金に困ってないでしょ」
「うぅ、はい、」
さんは社会勉強の一環で就職したかったらしいですよ。僕と共同生活するよりも安アパートの方が気兼ねしないといってましたし」
「…そんなこといいましたっけ?」


あれ、根に持ってるのかな沖矢昴。共同生活嫌そうだと思ってたの私だけ?孤独を愛するなんたらだと思ってた。と沖矢を見ればコナンがこれまた大きなため息を吐くので視線を戻す。

「昴さんは知らないと思うけど、姉ちゃんは就職やバイトをすると何かしら事件に巻き込まれるから、外で働くなってきつくいわれてたんだ。それでなくても例の件があって大人しく過ごせっていわれてたのにさぁ」
「だ、だって日本の方が治安がいいかと…」
「それにその変装も。何で男の変装なんかしてるの?ボクが気づかなかったらどうするつもりだったの?」
「そ、そうなってもコナン君なら大丈夫かなぁって……というか、巻き込まれ体質なのはそっちもじゃない。名探偵」
「ボクはいいの!」


半分は自ら足つっこんでるようなもんだし、とのたまう義弟に不満そうに目を細めれば運転席から笑い声が聞こえぎょっとした顔で振り向いた。
ハンドルに両手を乗せたまま沖矢はこちらを振り返り微笑ましそうに笑みを浮かべている。その保護者みたいな笑みをなんとかしてくれないだろうか。

「まるで姉弟のようですね」
「共通点が嫌すぎるので訂正してください」

事件に好かれた記憶はないです。とくつくつと笑い続ける沖矢をジト目で睨んだ。