# 12

新一の幼馴染である毛利蘭が定期的に工藤邸に来ては掃除をしてくれているということを聞いたは、今日がその日だとコナンから言伝をもらい荷物をベッドの下奥に仕舞って自分がいた痕跡を消し外に出た。

別に顔を合わせたくないわけじゃなかったが十中八九友人である鈴木園子という女の子もいるというのでなんとなく別の機会がいいと思ったのだ。
新一と対面した時に蘭とも顔を合わせたから事情は粗方知ってるだろうけど、友人にまでその事情を話してるとは思えなかったし相手は女の子だ。根掘り葉掘り聞かれるのは性に合わない。

彼は彼で適当に『恋人同士でも構いませんが』とのたまったのも逃げた理由のひとつである。かといって自分の欠けた生い立ちを説明するには重過ぎるので、蘭に会うのはまた次回に、と思い工藤邸を後にした。


「冗談なのか本気なのか境目がわかんないんだよなぁ…」

真面目な顔でいうから間に受けてしまうのだけど、あれは狙っていってるのだろうか。そうならば少々性質が悪い気がするな、と沖矢の恋人宣言を苦い顔で思い出しつつ、ふと目に入った喫茶店に入る。
人が少なかったのと静かそうな雰囲気にここならゆっくりできそうだと思ったのだ。

先程図書館に行ってみたがどこも満席だったし、ファミレス等は騒がしくて落ち着かない。こういう設定金額が少々高めの喫茶店の方が落ち着けそうだとドアを開けると愛想のいい女性が出迎えてくれ席に通された。

奥に先客がいたので又隣の席に座るとお冷が出てきた。
メニューを見て適当に選び告げれば店員の女性はにこやかにオーダーを繰り返しカウンター奥へと入っていく。その背を見送りは鞄から小説を取り出すとイヤホンを耳に入れ音楽を流した。


「お待たせしました」


音量を最低限にしていたお陰で声と一緒にテーブルにサンドイッチが乗せられた皿の陰が視界に入る。既に来ていたコーヒーを持ち、スマホを退けて礼をいうと「ごゆっくり」と聞き覚えのある声に気がつき顔をあげた。

視界に入った色素の薄い髪に目を丸くした。目が合った彼はニコリと微笑むとそのまま背を向けカウンターに戻って行く。
スラリとした背中を見てやっぱり青月さんだ、と思った。

視線を下げれば形が整えられた完璧なサンドイッチが目に入る。これ、もしかして青月さんが作ったのかな?と思いつつひとつ摘まんで食べてみればじゅわっと美味しさが口内に広がり頬が緩む。
片手間に食べようと思って注文したがは小説をソファに追くとサンドイッチを引き寄せ口いっぱいにひとつひとつ頬張った。


「ふぅ、」

美味しかった。とコーヒーをすすると視界には男女の店員さんが目に入る。親しげに話す姿を見てそれなりに長いのかな、と思った。
だから青月さんはあんなにも料理が上手かったのかと納得したがこの喫茶店であの車はどうなんだろう、とも思った。

実は結構なお金持ちなのだろうか。ここだけで維持できる車じゃないぞアレ、と修理した車を思い出していると新たなお客さんが来たのかドアベルが鳴る。


入ってきたのは女子高生達で、華やかな顔ぶれと話し方で席に座り青月さんを呼び寄せる。
はいはい、と慣れた感じに注文を取りに行った青月さんを横目で見ながら伺っていると女子高生達は皆彼をうっとりとした顔で見つめ注文が終わっても青月さんを離さんばかりに話しかけていた。

おや、名前は安室さん、ていうのか。ん?あむぴ??
どちらにしても青月さんではないらしい。

その後も女子大生やら奥様方がやってきては青月さんを"安室さん"と呼ぶので聞き間違いではないのだろう。
混んできた店内に居心地が悪くなってきたサラリーマン達が退席していく。もこれ以上居座るのは無理か、と断念して鞄を肩にかけると残りのコーヒーを煽り、席を立った。


「ご馳走様でした」

会計が終わり、少し高めの声でそう告げれば"安室さん"はにこやかに微笑み「またのお越しをお待ちしてます」といい慣れた言葉を返してくれた。
あんな微笑みでいわれたら女性は喜んで足を運ぶだろうな。そんな考えが浮かぶ程度には威力の高い対応だった。


「あれ、毛利探偵事務所…?」

も青月さんが作る料理なら通ってもいいかもなぁ、と思ったが現在の店内を見ると時間を見誤れば入ることも出来なそうだと思い知る。それに名前も『安室さん』だったし。

会計の時に改めて見たけど青月さんにしか見えなくて他人の空似にもできそうになかった。謎な人だな、と見上げれば見覚えのある名前が鎮座していてここがコナンの居候先か、と今更のように知った。