# 15

スケジュールは時間通り。
インタビューは滞りなくこなし、今夜のパーティーも時間通りできそうだと時計を確認して頷いた。

某都内ホテルで本日『闇の男爵』シリーズの重版出来のお祝いパーティーがある。映画のお祝いも兼ねているがこちらはアメリカ主催なので今回はおまけで祝う感じらしい。

しかしそれでもやはり嬉しいというか、盛り上がったみたいで編集側は意気揚々と日本の映像製作にオファーして、本日のパーティーに呼んでいるみたいだ。優作さん本人も参加するしうまくいけば日本でも映像化に繋がれば、と考えているらしい。

パーティーは両親のお陰でそれなりに慣れたけどいろんな人と話すのは正直大変だ。疲れをおくびにも出さず打ち合わせをしていると自分を呼ぶ声がかかり振り返った。


「え?有希子さん?」
「ホラホラ見て見て!ちゃん綺麗でしょ?」

いきなり有希子さんに肩を掴まれたはぐるりと反転させられた。そして目の前に現れた沖矢にドキリとして顔が強張る。

「わあ!本当!綺麗!!」
「え?あ!蘭ちゃん?!」

視界の端に映った毛利蘭に無理矢理視線を移動させたは驚き声を上げると彼女の手を取り「久しぶり」と微笑んだ。


「お久しぶりです!…新一はやっぱり来てませんか?」
「うん、ゴメンね。新一君忙しいみたいで。蘭ちゃん元気だった?」
「はい!さんも元気そうで…それに、今日のさん一段と綺麗です!」
「ありがとう。でもこれは有希子さんがメイクしてくれたからで…蘭ちゃんも前会った時より大人っぽくなったね」

今日の服もとても似合ってる。と褒めれば蘭は頬を染め「そんな、でもありがとうございます」と照れた。前の時も思ったが蘭は可憐という言葉が似あう可愛い女の子だと思う。

蘭の笑顔の可愛さには敵わないがも有希子さんのお陰で大分綺麗にメイクしてもらっている。
いつもなら優作さんにかかわる公の場は変装しているのだけど今日くらいはいいんじゃない?という有希子さんの一言での姿で出席していた。

変装が常だった身としては少し落ち着かないけれどこうやって見知りの人達と気兼ねなく話せるのはやはり嬉しい。


「おい蘭。このお美しい女性は一体どちら様で…?」
「もうお父さん!さっき教えたじゃない!この人は新一のお姉さんのさんよ!」
「なぬ?!けど、あの探偵ボウズに姉貴なんて…」

沖矢を視界に入れないように蘭を見ていたらしどろもどろに会話に入ってきた男性に目が行き、これがあの毛利小五郎、と思った。
案の定関係を理解していなかった蘭の父親に最近養子になったんだと話せばとりあえずは納得してくれたようだった。

「まるで姉妹みたいでしょう?」
「は、はは!そ、そうですな!!」

ニコリと小五郎に微笑めばじっとこちらを見つめだらんと鼻の下を伸ばすので視線を逸らすに逸らせず困っていると有希子さんが割って入り、小五郎の視線がやっと外れた。

そしてコナンの「姉妹って…サバ読み過ぎだろ」と小さくつっこむ声が聞こえたが、義母はにこやかにスルーした。



*



パーティーが始まりは壇上袖から抜け出るとコナン達がいる方へと移動した。
今回のパーティーは立食スタイルでテーブルを囲むようにビュッフェも用意されている。そこに行って適当にチョイスをしたは最後に飲み物を貰うと壁沿いに立っているコナンと哀の隣に座り込んだ。

「あら。主催側がこんなところにいていいの?」
「今は休憩中。そっちはちゃんと食べれてる?」


飲み物はしっかり持ってる2人に皿とお箸を差し出すと無言で受け取り食べだした。やはり子供達にはこの人数は難易度が高いらしい。
意外にも哀も手を出したのでコナンが珍しいな、と聞いたらお腹が減ってるのだと返していた。

「阿笠博士が持ってきたやつは食べなかったじゃねぇか」
「だって油ものばかりなんだもの。明日からまたダイエットさせなきゃ…あ、」
「ん?」
「前に貰ったクッキー美味しかったわ。博士は手を付けなかったけど」
「そうなんだ」
「でも紅茶は飲ませてる。効果がありそうだから追加で買ってみたわ」

もう少し続けさせるつもり。と返す哀にも嬉しそうに頷くとコナンが不思議そうにこっちを見てきたので哀が呆れた顔で彼を見やった。


「お前らってそこまで仲良かったっけ?」
「私が元の身体に戻るまでの間面倒みるようにあなたがこの人を寄越したでしょ。その時に話して打ち解けたのよ」
「意外と話せたよね」
「まぁ、話の大半があの人の愚痴だったしね」

お互いいいたいことあったし、と哀と一緒になって視線を送れば阿笠博士と一緒に壇上を見ている沖矢がいて、やはりというか呼んでもいないのに彼が振り返った。
怨念めいた視線を送ったつもりだがそんな視線など気にならないようでこっちを見てにこやかに微笑むと前を向き阿笠博士との会話に戻った。

「それで、この後あなたはロスに戻るの?」
「ええ。2人と一緒に戻るつもり」
「そうなのか」

ああいうのをスカしてる、というんだな。と考えていると哀に問われ頷いた。彼女を見れば少し寂しそうに俯いている。気のせいかもしれないが少し儚い空気を感じた。
次いで義弟が「残らないのか」と残念そうに零すのでこっちは間違いなく使える助手が減るなぁ、という程度に考えてるな、とわかった。



「やだよ。あの人と共同生活なんて。盗聴器つけられるし」
「それはもうないと思うぜ?昴さんだってそう何度もプライバシーに触れねーと思うし」
「どうですかね?哀さん」
「どうでしょうね。私の携帯ハッキングしてたし」

ああ、それは私の耳も痛い。ハッキング出来るように繋げたのはだったので視線を逸らし残ったお皿の物を平らげた。

「でもどうせまたこっちに来るんだろ?どっちかにくっついてさ」
「人を金魚のフンみたいに……まあ来るけどね」

沖矢昴は信用ならない、というのが2人の結論だったので早々に覆ることはないだろう。団結したらひっくり返すのは困難だと知っているコナンはあっさり話題を変えた。

適当なことをいう義弟には酷い言われようだと思ったが有希子さんが定期的に沖矢に会いに行くのは確定しているので否定はしなかった。
それから哀に土産何がいい?と聞くと「博士が太らない食べ物ならなんでもいいわ」とある意味ハードルの高い注文を受けた。