# 17

パーティーも事件も無事に終わり、後片付までこぎつけたは編集やスタッフに挨拶してから会場を後にした。
フラフラと疲れた顔で歩いているとエレベーターホール近くで見覚えのある人物が1人立っている。今日もほぼ喋らずに済ませていたので安心していたが、そんなことはなかったようだ。

「お疲れ様でした。送りますよ」
「…ありがとうございます」

にこやかに微笑む眼鏡の彼に素っ気なく返したはエレベーターのボタンを押し、ライトが点灯するのを待つように見上げた。

恐らく有希子さんあたりにでも頼まれたのだろう。
今日はこのホテルに宿泊する予定で、事件も解決したから変更もしなかった。明日はそのまま渡米するのでその方が便利だから、というのもある。
もそのつもりで事前にスーツケースを客室に置いてきているのだが、隣の彼はその部屋まで送ってくれるのだろう。

ランプが点灯しドアが開くと誰もいない個室に2人で入る。宿泊階を押しドアが閉まると同時にこの人に送らせるなんて有希子さんも心配性だな、と溜息を吐いた。


「帰らなかったんですね」

先程の青月さんとのせい、というとこじつけかもしれないが急に異性ということを思い出してしまい、2人きりなのがなんとなく落ち着かなくてそう話しかけると「その後の事件もこの近くだったので」と返された。

そう、ホテルでの事件が解決したと思ったら連動したかのように別の事件が起こったのだ。

そっちは自動車事故という話だったが、気分が悪いという哀とコナンが話したのを切欠に探偵組は一斉に外に出て行ってしまった。
残されたは有希子さんと一緒に優作さんのパーティーをこなし、疲れたであろう両親を早めに引き上げさせた。

パーティーが終わった辺りで毛利小五郎やコナンの姿は見たが全員ではなかったし、蘭に新一の行方を聞かれたりもしたが、その面々も片づけ前には帰っていたのでてっきり沖矢も帰ったものだと思っていた。
チラリと横目で見上げればそれきり喋る気のない横顔があって諦めたように肩を竦めた。


チン、と音が鳴りドアが開く。押した目的の階ではなかったが入ってきたのは製作側の2人の男性だった。どうやらこれからラウンジに行って打ち合わせをするらしい。
飲みながら気軽に話す打ち合わせなので同席しないか?とも誘われたが、パーティー以外でも青月さんの件で体力を使い切っていたは行きたくないなぁ、と思った。
けれど、優作さんの作品の話も勿論するだろうし、非公式の話し合いの時の方がパイプができやすい。参加すべきか、と迷っていたところで不意に腰を引っ張られた。
見れば大きな手がの腰に回っている。

「スミマセン。彼女は今日のパーティーで大分疲れていて…その件はまた次回にしていただけませんか?」

ピタリとくっついた半身はホッとするくらい温かく、声色もいつも以上に申し訳なさそうに感情が乗っていて目を瞬かせ彼を見上げた。


「…あの、やり過ぎだったんじゃないですか?」

製作の2人と別れ、エレベーターのドアが閉まるとは困ったように眉を寄せ、引っ付いたままの沖矢を見上げた。
彼は彼でそうですか?ととぼけた顔で返してくるがこの策士め、と思ったのはいうまでもない。

先程あたかも恋人のように『彼女を早く休ませてあげたいので…』なんて甘く蕩けるような声色でこっちを見るものだから、も製作の人達も動揺してしまったのだ。
勿論沖矢は彼らを追い払う為にやったことで行動に意図はない。
ただ威力がやたらと大きくて、別れ間際に見た2人を思い出し変な噂がたたなきゃいいなと思った。

「それと、いつまでこうしてればいいんですか?」

腰に置かれた手と彼を交互に見やると沖矢はフッと笑みを漏らし「嫌ですか?」とわざとらしく聞いてくる。くっついた方の手の置き場所がなくて仕方なく彼のジャケットを摘まんでいたが喜んでくっついていたわけではない。
ヒールのせいで爪先がそろそろ限界だったのだ。決して異性だと意識してドキドキと緊張して引き離せなかったわけではない。


「こういう格好で歩くのは慣れてないので」
「では、手をこちらに。そろそろ爪先も限界でしょう?」
「…ありがとうございます」

気づいていたか。と脳内の私がつっこんだが疲れていたのは確かだったので素直に差し出された彼の腕に手を絡めた。部屋についたはカードキーを差し込むと沖矢の方を見やった。

お疲れ様です、ありがとうございます、どちらをいおうかと口を開けたところで唇に人差し指を立てられ何故か彼がドアノブを下げた。そして音を立てずに部屋に入るとを招き入れゆっくりとドアを閉める。
出入口から動かないように指で指示され無言で頷けば沖矢は狭い部屋を物色し始めた。どうやら盗聴器やらがないか調べているらしい。

もう好きにしてくれ、と呆れた顔でベッドの下を覗き込む大人を眺めていればお許しが出たのでヒールを脱ぎ捨て近くにあったベッドの端に座りこんだ。
沖矢を見れば窓の外を確認し遮光カーテンで夜の景色を隠したところだ。


「他に誰か来る予定があるんですか?」

コーヒーメーカーのことを思い出し、素足のまま操作をしているとベッドを見ながら沖矢がこちらに歩いてくる。先程よりも遠くなった距離に目を瞬かせ、それからベッドに移した。

「ああ、シングルもダブルも料金変わらないから視界が広い方がいいかなっていわれてこうなっただけですよ」
「……ホォー」
「帰るのが面倒っていっても泊めませんからね」


彼が誰かと同じ部屋で寝るなんてこと絶対ありえないだろう、とわかっていたが変な間に眉が寄り虚勢を張ってしまった。
そしたら案の定「僕は何もいっていませんが?」としたり顔でこっちを見てくる。楽しそうだけど、彼のツボがまったくわからない。