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グッバイ・ユーテラス



(6)

もこもこふわふわ。私の肩にはマーリンに似た白さとふにゃりと気持ちを丸くさせる小動物が肩に乗っている。
「フォウさんもさんに慣れたみたいですね」
「逆にが落ち着かないみたいだけどね」
「藤丸、黙って」

引き締めていないと途端に緩んでしまいそうな唇をきゅっと結びニヤつく藤丸を睨みつければ目の前の2人は嬉しそうに微笑んだ。

ギルガメッシュ王と面会してから2週間経ち、ウルクでの生活もだんだんと慣れてきた。
慣れてきたのは生活だけではなくマシュとの呼び方も変わり、カルデアの頃ついぞ見かけることがなかったマシュの友達?である『フォウ』もの肩に乗ったりして戯れるようにもなった。

変わらないのは藤丸くらいだが順応力が2人よりも低いらしいはくすぐったくも温かくて柔らかい感触に戸惑ってしまい赤い顔で小さな身体を優しく捕らえ、膝の上に下ろした。

「今は食事中だからそこで大人しくしていなさい」
「フォウ、」

言い聞かせるように彼を叱ったが見上げる顔はとても可愛らしく、ここに誰もいなければこのまま撫でまわしたい衝動に駆られた。
ふわふわ可愛い、と悶々しているのをマシュと藤丸はよくわかっているらしく「これをあげるから」と自分の食事を手ずからあげている姿にほっこりと微笑んでいた。


「ふぁ〜おはよう」
「遅いです。マーリンの分はもうありませんよ」

前足を掌に乗せはぐはぐと食べている姿にくすぐったいけど可愛い、可愛い、と身悶えていれば寝坊のマーリンが欠伸をしながら階段を降りてきた。
そんなぼんやりさんを近くに座っていたアナがピシャリと切り捨てる。アナを見る限り仲がいいわけではないけど旧知の如く容赦がない。かといって心底嫌ってる節もないからちょっと不思議だ。

本気なのかどうだかわからない顔でショックを受けているマーリンを尻目に達は食事を再開させるとシドゥリさんが来て今日の仕事内容を告げていく。
今日は普通のお手伝いみたいだ。いや、普通の仕事だと思ったら戦闘になったこともあるから気は抜けないけど。

逃げ惑うしかなかった自分を思い出し、もう少し戦闘での自分をどうにかできないものかと考えていたらアナが「ごちそうさまです」と立ち上がった。どうやら今日も花屋さんの手伝いに行くらしい。

「ああ、待ってアナ」
「……なんです?」
緊張と警戒をした表情でゆっくりと振り返ったアナには苦笑して手招きした。

「髪の毛が少し乱れてるわ。直してあげる」

すぐ終わらせるからおいで、と自分の隣にある椅子を引いて促したがアナは訝し気にこっちを見るだけだ。
そんなこと必要ないし触らないでほしい、と顔に出ていたが「いいんじゃない?やってもらいなよ」と藤丸が後押ししてくれ、難しい顔をしていたアナは溜息を吐いてこちらに戻ってきた。

ちょこん、と目の前の椅子に背を向けて座ると「急いでください」とだけいって無言になった。手早く乱れているみつあみの部分を解き、結い直すとアナはそのみつあみを見て何か言いたそうに口を開いたが閉じ出入口の方へと向かっていく。
そして出て行く間際「ありがとう、ございます」といって走って出て行った。


「…意外です。さんはもう少し不器用な方だと思っていました」
「それはどっち?手先の話?それとも性格の話?というか、本人目の前にしていうことかしらマシュ」
『まったくだよ。こっちでは人間らしい優しさの君なんて見たことなかったのに』
「ドクター?帰ったらその高い鼻を"無機能な鼻"に変えて差し上げましょうか?」

サーヴァントである以上見た目に騙されてはいけないが、アナを見ているとどうしても庇護欲というか構いたくなる気持ちの方が大きくなってしまいお節介を焼いてしまっただけなのだがカルデアの面々は面白可笑しくて仕方がないらしい。

魔術で得た知識で嗅覚をなくしてあげようか?とにこやかに冷ややかな声でDr.ロマンに応えれば『ああ〜今のうちにコーヒーをおかわりしてこようかな』とそそくさと通信を切った。チッ逃げたか。

まあどっちにしろ今は何もできないから我慢しよう、と残りを食べきると視線を感じ顔をあげた。いつの間にか白の魔術師が隣に座りにこやかにを見ている。この視線は少し苦手だ。


「確かに意外だ。高飛車とまでとはいわないが以前は人よりも自分の方が秀でていると自信が闊歩していたというのに、随分な変わりようだ」
「……その、あたかも古い知り合いみたいな体で喋るのやめていただけません?」
「何をいう!私はずっと見ていたとも!何かと上から目線だったキミも、藤丸君に嫉妬してプライドをへし折られたキミも、今更素直に慣れず距離感が掴めないまま悶々してるキミも全部知っている!」
「ぎゃあ!な、ななな何いってるのよ!!!」

覗き見じゃないそれ!と顔を真っ赤にし、空になった皿を投げればひょいっと避けられた。
壁にぶつかり割れる音を聞きながら膝の上にいたフォウをポイっと投げつけると今度は見事にヒットし、ついでに引っ掛かれたのか「ドフォウー!」とよくわからない悲鳴をあげている。

肩で息をしたは顔を真っ赤にしたまま床に落ちたマーリンをふんす!と見下ろすとそのまま視線を藤丸達に向けた。


「し、仕事に行くわよ!」
「「は、はい!」」

いつものように絡みづらい、怒った顔で見られた2人は肩を揺らすと出入口に向かうを目線で見送り、そして慌てて動き出す。
出入口を出る頃には自分がやらかした失態に気づきは罪悪感で顔をしかめたが、ついてくる2人の足音を聞いて振り向かずそのまま勇み足で仕事場へと向かった。

その背中を見ながら藤丸とマシュがこっそり『可愛い』と笑っていたのをは知らない。