グッバイ・ユーテラス
(12)
今日の夜空を気分よく眺めながらほろ酔い気分でカルデアの者達が集う大使館に足を踏み入れると、藤丸君達が何やら真剣で焦った表情で話し合っている。
おや?と思い気軽に話しかけたら何でもっと早く帰ってこないんだとアナに叱られてしまった。
「さんがまだ帰ってきていないんです!」
「ギルガメッシュ王のところに行ったんだけど、マーリンは見てない?」
詰め寄るように藤丸君達が矢継ぎ早に事を説明してきたがマーリンには何をそんなに慌てているんだと、居場所ならロマニ達が確認してるはずだろう?と首を傾げた。
「ドクターは宮殿にいたことまでは確認しているんですが、その後は口を濁してしまって…」
「ウルクから出た可能性はないだろうからそのうち帰ってくると思うけど…それにしたってもう遅い時間だし、心配で」
確かに月は大分高く昇っている。謁見時間ギリギリで向かったと考えれば数時間帰ってきていないということだ。ふむ、と顎に指をかけ落ち込む青少年を見ていたが見上げる視線に気がつき目線を落とした。
綺麗に結われたみつあみを揺らしたアナが不満げにこっちを見ている。否、彼女の場合これは心配の裏返しだろう。
「マーリン。本当に誰とも会っていないんですか?」
「そういわれてもね。私は馴染みの店に顔を出していただけで今日はあっちに行っていないからなぁ」
というか、ロマニが口を濁すとはどういうことだ?と思考を巡らせると後ろの気配に気がつき振り返った。
出入口の柱にもたれかかるように寄りかかっているのは、今まさに探している本人で、心配している藤丸達のことなど目に入っていないかのような表情でぼんやりとこちらを見ている。
らしくない彼女の姿に少し身体をずらせば視線がこちらに向いた。そして目が合った途端、ガラにもなくドキリと驚いてしまった。
「!」
「さん!」
出口を塞ぐように立っていたマーリンがずれたお陰で藤丸達にも見えるようになり2人は慌てて駆け寄ってくる。
マーリンを押し退けるように来たことにはちょっとショックを受けたが「マーリン邪魔です」とアナに文句をつけられたのが1番傷ついた。
「ごめん。遅くなっちゃって…夕飯はもう食べた?」
「はい。さんの分も残ってますよ。食べますか?」
「ううん。お腹減ってないから…悪いけど先に休ませてもらってもいいかしら」
「具合、悪いのか?」
藤丸達を前にした途端、ぼんやりしていたの瞳に光が宿り申し訳なさそうに微笑んだ。その笑みに藤丸達は少し驚いたように目を見開き、頬を染め慌てたように前のめりになった。
今にもに触れそうになった瞬間、マーリンはローブでその手を遮り、を隠すように自分の懐へ包み込んだ。
「そうみたいだね。少し熱もあるようだ。私が責任をもってを寝室まで送ろう」
「で、ですが」
「なぁに、さすがの私も具合の悪い女性に手を出すほど飢えていないさ」
「…マーリン」
そういうところが信用に欠けるんです、とアナに睨まれても飄々と笑い、「それじゃキミ達も早く寝るんだよ」とお兄さん風を吹かせてと階段を上った。
心配そうに見送る子供達を尻目に彼女に割り当てられた私室に入るとを寝台に寝かせ杖を振るった。この時代にドアはないのでちょっとした目隠しの魔法をかける。外から見たらが健やかに眠っているだけの魔法だ。
寝かせたを見やればいつも着ていたカルデアの礼装ではなくウルクの衣服を纏っていて、少しばかり新鮮な気持ちになる。
しかしその衣服すらも暑いのか脚をくねらせ肌を露わにした。
「これはまた、随分と」
上気する頬に肌はしっとり汗ばんでいて髪が頬に張り付いている。それを指で整えてやればそれすら刺激が強いのかビクッと身体をしならせ「ん、」と耐えるように唇を噛んだ。
視線を首や鎖骨に落とすとこれみよがしに所有印が付けられていて、丸みを帯びた肩には薄くなっているが噛み痕もある。
それを見て状況を全て理解したマーリンは苦笑して目を細めた。
どうやらギルガメッシュ王がの魔術回路を全て起こしたらしい。歪だったオドが全身隅々に行き渡っている。それを確認し、「ふむ、」と顎に指をかけるとの閉じた瞼が震えた。
ぼんやりとした潤んだ瞳がこちらを見やる。瞳に自分が映ったことを知り、マーリンは傍らに腰掛け彼女が見やすいように顔を近づけた。
藤丸達と話した時は気を張っていたのだろう。「ま…りん」と掠れた、彼女が発したものとは思えないくらい特別甘みを帯びた声色にの限界が見てとれた。
「ごめんなさぃ…でも、もう大丈夫、だから」
「気にしなくていい。私もそろそろ寝ようと思っていたところだ……辛そうだが眠れそうかい?」
「うん、多分…」
階段をろくに登れず体重をかけてしまったことを申し訳ないと思ったのか、本当は律儀な性格故か、は素直に謝ってきたが、その愁傷な表情はトロンと潤んだ瞳に拍車をかけ懇願してるようにさえ見える。
薄く開いた唇から漏れる吐息もなかなかに艶やかで誘惑されてるような気分になった。
緩やかに上下する柔らかそうな双丘の谷間にマーキングさえなければ手ずからの熱を解放してあげれたのだけど後が怖いし、今回はこの色濃く熟れた感情を摘み取ることにしよう、と杖を立てる。
「なら、深く眠れるように私が手伝ってあげよう」
「マーリン…?」
「おやすみ、。良い夢を」
軽く振れば花が咲き乱れの上に落ちていく。そしての身体に染み込むように花が溶けるように消えていった。そこから甘い香りが広がりは程なくして瞼を閉じ、深く息を吐く。
花を消したマーリンは試しに噛み痕が残る肩や二の腕を擦ると、ビクッと反応し身体を震わせたものの閉じた瞼が開くことはなかった。
ちゃんと眠りについたことを確認して上掛けを掛けてやる。
その際、乱れた裾から覗かせた内腿にもキスマークがあった時は何とも言えない顔になったが見なかったことにした。
「まったく。よりにもよってこっちの方法で起こすとは…いやはや、ギルガメッシュ王の性癖も極まったというか…いやむしろ両方をわざと選んで楽しんだのか…?
戦力が増えて結果オーライ、といいたいところだが、ロマニが聞いたら卒倒するだろうな、これは」
視線の先には熱に浮かされたが悩ましく眠っている。一気に回路を起こされた影響で熱が出ているのだろうがギルガメッシュ王と交わったことも大いに影響があるように思えた。
男女の情事を大人のロマニがとやかくいうことはないだろうが、今はカルデアの責任者でのことも藤丸君達と同じように気にかけ心配している。
以前覗き見た時は不器用な彼女にどこか親近感を抱いていたようだったからが変わってしまうことはロマニにとっても多少のショックはあるだろう。
一時的にでも使い物にならなくなるようなら(反応が面白そうだし)事前に言っておこうか、と考えつつマーリンはに手を伸ばす。
先程まで滑らかで綺麗だったオドが微かに1点だけ光を強くする。
その光に疑問を抱き上掛けの上からその正体を探れば、思ってもみないことに気がつき、思わず「んん?んんんんんんん??」と自分でも信じがたい声が漏れ出た。