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グッバイ・ユーテラス



(15)

さんさすがです!ちょっと見直しました!」
「まぁね!私もやればできる子なのよ!」

体調もほぼ元通りになり藤丸達の仕事に合流したは起こした魔術回路をふんだんに…とまではいかないが以前よりは意味のある使い方をして貢献していた。
前はちょっと使っただけで魔力が枯渇して身動きも取れなくなっていたので、そこからの飛躍は目覚ましいものだろう。

『惜しいなぁ。ブレスレットがあれば魔力量のチェックもちゃんとできたのに』

マシュに褒めてもらえたことでダ・ヴィンチちゃんも興味が湧いたらしく帰ったら検査のし直しだ!と意気込んでいたがはあの検査をもう1回するのは遠慮したいなぁと肩を竦めた。

ちなみにブレスレットはまだ手元に戻ってきていない。
返してもらうタイミングがなくてマシュに聞かれた時に「壊れちゃって」と嘘をついた。

ギルガメッシュ王に会っていたことはバレているのだから話してもいいのだろうけど、いかんせん内容が内容だけに恥ずかして未だに説明できなかった。
ただマーリンがそれとなくフォローしてくれてたみたいで魔術回路が開いたことだけがマシュ達に伝わっている。

「(それでもDr.ロマンやダ・ヴィンチちゃん達にはバレてるんだろうけどね……と、)」

気遣ってなのかあまり話しかけてこなくなったDr.ロマンに周知の事実として露見してるのだと嫌でもわかって苦い顔になる。
知られていることは十分に恥ずかしかったが結果的に魔術師として使えるようになったのだしあちらとしても問題ないはずだ。お腹の件もマーリンにもきつくいってあるし、ドクター達は知らないない…はず。


不安は尽きないが気にしないでおこう、と気恥ずかしい気持ちを切り替えるとうなじ辺りがピリッと突っ張るような、引っ張られる感覚に足を止めた。
今日は早めに依頼が終わったので日も高い。空を仰ぎ今日は2か所くらい行けるかな、と算段をつける。

「先輩。お疲れですか?それとも夜眠れないとか…」
「いや、十分に寝てるんだけど、なんかこのくらいの時間になると急に眠気がきてさ」
「少し無理のし過ぎではないでしょうか。寝る前の運動は1時間前に終わらせておく方が身体にいいといいますし」
身体を休めるのも大事な仕事ですから、とトレーナーのように助言する自称後輩の表情は真剣そのものだ。藤丸のことはマシュ達に任せておけば大丈夫かな、と思いその場に立ち止まった。

「ごめん。後は任せてもいい?」
「え?はい。それは構いませんが」
「何か用事なら手伝おうか?」
後はギルガメッシュ王に報告するだけだ。藤丸とマシュがいれば事足りる。申し訳なさそうに微笑めば何かを察した藤丸が手伝いを申し出てくれ、マシュも同調するように頷いた。

「ううん。そんな危ないことじゃないから大丈夫。ちょっと探し物があるの」
「探し物、ですか?」

ウルクに来て殆ど共にいたにもかかわらず探し物なんて話は初耳だ、といわんばかりのマシュに今度は藤丸が同意してきたので、は肩を竦めた。

「私にもよくわからないのよ。もしかしたら"彼女"にまだやり残したことがあって呼んでるだけかもしれないし……でも無茶はしないわ。夕食までには帰ってくるから」

だから夕飯作りはよろしくね、と手を振りジグラットとは別の方へと歩き出した。


途中アナが手伝っている花屋に寄って何本か瑞々しい花を買い、目的地へと向かう。この辺りは夢に出ていない場所だから少し警戒しながら足を向ける。
一応ウルク内は安全だけどは戦えるわけではない。この家の物陰から襲われたらひとたまりもないのだ。

それを考えるともう少し身体を鍛えるべきかしら…と悩みつつ路地裏へ足を踏み入れる。曲がった先には生活区の一角に少し開けた場所があった。

元はそこも家だったようだが家主が居なくなったのか役目を終えたかのように家屋が崩れ土台と一部の破片が散らばっているだけだった。
そこに漂う霞のような魔力に引き寄せられ、は中へと足を踏み入れる。少し淀んだ魔力はに纏わりつき、そして流れていく。手を差し出し掴もうとしたが見えるものの実態がないのか手には何も残らなかった。

は2本ほど花を地面に立てると茎を持ちながら呪文を唱える。するとみるみるうちにその霞が花に吸い寄せられ、淀みが全てなくなった辺りで花が枯れ果て塵となって空気に溶けた。


実は魔術回路が目覚める前から実は水との相性が良かった。当時はただ単純に香水が大人の女性っぽくて格好いいから、なんていうふざけた理由で選んだのだけど、概ね間違いではなかった。
近くにあった瓦礫を手にしたは花を立てていた場所を無言で掘り返す。しばらく掘っていると何かにカツン、と当たり、今度は自分の手で優しく砂を避けた。

水気の少ない地面から出てきたのは光り輝く結晶の塊で、掌に乗る程の可愛いサイズだった。赤と緑の結晶を陰ってきた空に透かし、魔力が中に入っていることを確認してポケットに詰め込むとまた髪を引っ張られる感覚がした。

「はいはい。行きますよ、行けばいいんでしょ」
そんな急かさなくたって行くから。その為に花を多めに買ったんだし、そう心の中でぼやきつつは次の場所へと向かった。