グッバイ・ユーテラス
(16) ※Attention参照
この感覚は実は魔術回路が開いてからずっと感じていた。けれど体調が不安定の間は探しに行けなかった。
「大分集まったけど、これどうしよう…」
私室の床に座り込み、広げた布の中から出てきたのは結晶が8つ。形もそれぞれだが色も豊富で見目鮮やかだ。
仕事終わりの1、2時間に引っ張られたところに行っては吹き溜まりにあった靄を結晶に変えていた。ほとんど毎日花を買いに来るにアナも不思議に思ったらしく昨夜言い難そうに聞いてきたので藤丸やマシュにも事の詳細を話しておいた。
アナ曰く「ろくに戦えないんですから変な場所に近づかないでください」と忠告され、「多分、生者にはよくないものです」と教えられた。
今のところ花のエネルギーを使った魔術で自分への害もなく結晶にした後はそこの一帯の淀みも消えたので問題はないと思う。Dr.ロマンにも大丈夫だろう、といってもらえたし。
ただ、マシュには「花を使った魔術だなんてマーリンさんとお揃いですね」といわれアナと一緒に苦い苦い顔になったが。きっとマシュに他意はないのだ。きっと。
思い出さなくてもいいことを思い出し、必要に迫られただけで選択も間違ってないのになんか負けた気がして悔しい。
帰ったら絶対別の方法探そう、と思い結晶の1つを手にした。
部屋の明かりに照らした結晶は鈍い光を反射させる。その動かした角度から結晶の色に混じって魔力が蠢くのが見える。魔力を圧縮したこれは恐らくいい感じに威力の高い武器になるだろう。
明かりにするもよし、火力にするもよし、あと自分では使えるかわからないが魔獣を攻撃する武器にもなるだろう。
これに関しては自分の能力と使い方がものをいうのでよく考えてからじゃないと使えない。なんせ魔術師になりたくてもなれない、かといって見た目や身体を酷使することに興味はなく文系並みに椅子に座っていることが多かったインドア派だ。
アナのいう通り戦いになる様ならマシュやサーヴァント達に任せて補助に回る方がいい。
この結晶もその時の為に取っておこう、そう思い視線を下げれば布の上にあった結晶が3つほど消えていた。
「え?」
もしかしてどこかに転がしてしまったのだろうか?と周りを見回したが見当たらない。試しに立ち上がろうと手をついたら布の上の結晶が更に2つなくなっていた。
その瞬間、に緊張感が走る。
殺気のような気配は感じない。もしあればマシュか誰かが知らせてくれるはずだ。それにここはウルク市内。ギルガメッシュ王の目がある中で不審者がここにやってくるとは思えなかった。
ならば、と思っていたところで布の上にあった結晶が全部消えていた。残るはが手にしている結晶1つのみ。
「誰か、いるの…?」
声が震えないように、慎重に言葉を紡ぐ。しかし私室には以外誰も現れず静かな部屋に声だけが響いた。
誰もいない?なら何で結晶だけが消えていくの?と手元の結晶を見た途端、摘まんでいた結晶がヒュッと手から抜け落ち、そしてその結晶の色がお腹の中へと溶けて消えていった。
はしばらく瞠目したまま動けなかった。それはそうだろう。8つの結晶が消えたのだ。しかもその結晶が、恐らく全部のお腹の中に消えた。にわかに信じがたい光景に固まっていたが、ふと、思い出した。
動くだけでも億劫だった身体がお腹の中を認識した途端嘘のように熱が引き体調が戻ったことを。それからずっと何かに引っ張られるような感覚を毎日感じていた。
「……まさか、魔力を食べる為に…?」
少し食欲が増した気がしていたけどそれだけじゃ足りなかった、ということだろうか。むしろ、魔力を主食にしてる、とか?
けれど自分の魔力が減った感じはあまりしない。最初が最初なだけに違和感がこないのだ。
お腹に手を宛て問いかけてみたが答えてもらえるわけはなく…ただ、これからもこのお腹の為に結晶探しは必要なのだろう。少しの満腹感と満足感を感じて息を呑む。
「?」
「?!っぅえ?ふ、藤丸?!ど、どどどどうしたの?!」
お腹に手を宛てたまま固まるにいきなり声がかかり肩が跳ねた。変な恰好だったことは十分自覚していてそれを誤魔化すように座り直したが声まではどうにもできなかった。
藤丸はというと挙動不審のを微妙な顔で見てきたがつっこむことはせず、むしろ眠そうな顔のまま頬を掻き「あのさ、」と続けた。
「明日も仕事手伝ってくれるよね?」
「あ、当たり前じゃない!」
むしろ手伝わないわけないでしょう、と返すと藤丸はホッとした顔で微笑むのでドキリとした。何でそんな安心した顔をするんだろう。
そんな疑問を浮かべていたら奥の方から「どうですか?先輩」というマシュの声が聞こえてきて、そして藤丸の後ろからひょこっと彼女もフォウと一緒に顔を出した。
何でそんな伺うような恰好で2人はこっちを見ているんだろう。
「さん。でしたら明日は報告もご一緒してください」
「え?」
「シドゥリさんがいうには、さんが報告に来ないことが気になってしょうがないようなんです」
「へ?」
「のこと聞かれなかったからこっちも気にしてなかったんだけど、ここ数日ちょっと不機嫌そうにしてるからさ」
「あれだけの多忙さですしカリカリしてしまうのも道理ですが、でもやはり今日は特にご機嫌斜めだったかと」
「フォフォーウ!」
「最近はさんも活躍されてるので1度報告に来てみてはいかがでしょうか」
「……あえて、聞くけどそれってもしかして…」
「勿論、ギルガメッシュ王が、です」
聞くまでもないのはなんとなくわかっていたが、それでも確認しておきたくて聞いてみたけど聞くんじゃなかった、と肩を落とした。先が思いやられる。