グッバイ・ユーテラス
(23)
ギルガメッシュ王が無事冥界から戻ったことはウルクに入った時点でわかったが、姿を見た時は感動も一入だった。
恐らくこの感情の発端は"彼女"のものだろう。それをが受けとり共有している。夢を見なくなったのはそれもあるかもしれない、と考えつつゴルゴーン討伐の話に耳を傾ける。
脱線もしたが一先ずまとまり、達はジグラットを後にする。前を歩く藤丸達の後を追いながら、は1人足を止めた。隣にいたマーリンがこちらに振り向くと同時に「先に行ってて」と声をかけ踵を返す。
来た道を小走りで戻ればギルガメッシュ王が珍しく玉座から降り、階段下でシドゥリさんと何やら打ち合わせをしていた。眠りについた時に身につけ忘れていたという真紅の布も腰に巻かれている。
それを見たら余計に心臓が早鐘を打った。本来なら仕事の邪魔することは不敬なのだろうけどは構わず彼の胸に縋りつく。
「お帰りなさい、ギルガメッシュ王」
顔を彼の胸に押し付けいいたかった言葉を紡げば、腰に手が回り密着するように引き寄せられた。
「ようやく来たか。てっきり我の魔術師は薄情にも素知らぬ顔で出て行くのかと思っておったわ」
「ぐっ……お、遅くなりました」
不意打ちで『我の』なんていうから顔が熱くなる。
ずっと心配していたし、無事に戻ってきてくれて心の底から嬉しいって思ってるから余計に言葉が染みてしまうのだけど、照れてしまう自分はどうにもできず顔を見れぬままギルガメッシュ王から離れた。
「その、とても、嬉しいです。これで心置きなく戦いに行けます。それと、どうか、お元気で」
「……馬鹿者。貴様は必ず戻ってこい」
マーリンが別れの言葉を残したのを聞いても何かしら伝えなければと思ったのだ。
今生の別れになるのなら尚更、と思ったが思ってもみない言葉が返ってきて顔をあげてしまった。呆れた赤い瞳がを見ている。
「無事何もかも終わった暁には称賛と褒美をくれてやる。その時間くらい残しておけ」
「…は、はい!」
腰に回った手がを引き寄せる。その強さに嬉しさとじわりと下腹辺りが温かく疼いた。そんな場合じゃないというのに合わさった視線が妙に熱っぽく見えて思考が蕩けそうになる。
シドゥリさんが咳ばらいをしなければは見惚れたまま目を閉じキスを強請っていたかもしれない。
そんな如何わしいことを考えていた自分に顔を赤くしたはパッと視線を下げると今度こそ彼から離れ、一礼してその場を後にした。
ジグラットの外に出て両手で頬を隠す。これから決戦だというのに間抜けな顔を晒してしまった。
「これはこれで顔を合わせづらい…」
もう既にギルガメッシュ王の元へ戻ることを考えているおめでたい自分に溜息を零し、気合を入れる為に強めに頬を叩いた。痛いけれど頬の赤さはこれで誤魔化せるだろう。
「よし、」と切り替えたは藤丸達がいるカルデア大使館へと急いだ。