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なんとか無事黒子も見つかり、先輩達とも合流できた火神は欠伸を噛み殺した。プロレス技をかけられてる探し人であるケガ人を尻目に先輩達の後を歩くと、ふと1人いないことに気がつく。
慌てて振り返れば歩道沿いのフェンス近くでが茫然とした顔で立っていた。そういえば黒子と黄瀬を見つけてからずっと放置したままだった。
シメられている黒子ではなく地面かどこか、宙を見つめたまま茫然としてる彼女になんとなく焦りを感じて足早に戻り肩に触れるとの視線が少しだけ動いた。
「おい、大丈夫か?」
「…うん。だいじょ…」
「えっええっ?!うおおおおおおおっ」
肩に触れた時、震えた気がしたがこいつはいつも俺を見るとビクつくと知っていたので大したことはないと思った。しかし、次の瞬間が言いきる前に彼女の瞳からぼろぼろと涙が零れ落ち思わず声を上げた。
火神の声で驚いた先輩達は振り返りを見つけて慌てて戻ってきた。
「ちょっと火神君!さんに何したの?!」
「い、いや、俺は何もしてねぇ!…ですよ!」
こんなに震えてるじゃない!と火神を押し退けを抱きしめたカントクに怒られた。しかし火神もわけがわからず、ただ自分のせいじゃないと叫んだが誰も信じてくれなかった。
とりあえずお前は距離とっとけ、と主将に追いやられ火神は歯噛みしたが何も言い返せず不貞腐れたように背を向けるしかなかった。
用がない者は帰っていいとカントクがいったが泣いてる女子を置いていけるはずもなく、火神を含め皆それとなく距離をとっての様子を伺っているといつの間にか隣に黒子が立っていておおいに驚かされた。
「おまっ!せめて声くらいかけろよ」
「すみません。火神君がさんを真剣に見つめていたので…」
「…その語弊のある言い方やめろ」
心臓の辺りを押さえつつ苦言を呈すれば黒子はの方を見て「大丈夫ですよ」とよくわからない切り返しをされた。
「火神君がさんを泣かせたという罪は冤罪だとわかったので。カントクも怒ってないそうです」
「ったりめーだ。んなことするかよ」
何が悲しくて自分の部活のマネージャーを泣かさなきゃなんねーんだ。
呆れた口調で返せば黒子も溜息を吐き「黄瀬君の気まぐれにも困ったものです。普段は自分から声をかけたりしないのに」ともう一度の方を見やった。
「行った方向がさんがいる方とは別だったので安心していたんですが…」
「え、もしかして黄瀬に声かけられて泣いてるのか?」
そのくらいで?と脳裏を過ったが先程のとの会話を思い出し手で口を覆った。
俺にとってはたいしたことなくても人間不信になるまでトラウマになった原因のひとつである黄瀬がわざわざ声をかけてきたとなれば、にとっては"たかが"といえない出来事だろう。
「黒子…お前さ、アイツの事情知ってるのに何でバスケ部に誘ったんだよ」
黄瀬がいるバスケ部なんてにとっては地獄じゃないか、と隣にいる何考えてるかいまいちわからないチームメイトに問いかけると彼は少し驚いた顔でこちらを見やった。
「知っているんですか?」
「さっきお前探してる時に少し聞いた」
「そうですか。さんが火神君に……」
「?どうかしたかよ」
「いえ……黄瀬君のことはボクの配慮が足りなかったんですが、でもさんを放って置くこともできなかったんです」
「どういうことだよ」
黒子にしてはわかりやすくいいづらそうに視線を泳がせるので何となく視線を留めてしまった。
まだ日は浅いがバスケ以外のことで黒子が執着を見せたことはなかったと思う。
火神が驚きながらも続きを即すと、入学したもののはどこにも仮入部した形跡すらなく、友達もろくに作っていないらしい。
人それぞれだからそういう奴もいるんだろうが、そもそも誠凛を受験したらどうだと誘ったのも黒子なのだという。
「ボクはお喋りが得意な方ではありませんし、合う趣味も本を読むことくらいです。その本の好みもバラついていて……平たく言えば、出身中学が同じというだけでろくに噛み合うものがないんです。
だからというか、バスケ部に誘うくらいしか思いつかなくて……。
ただのお節介だと自覚はしているんです。でも、いつかさんに"誠凛なんか行くんじゃなかった"といわれるんじゃないかと、そういわれてしまうことをボクは恐れているのかもしれません」
日も大分陰り、空が藍色に染まる。公園の外灯が灯って黒子の影が言葉がより一層消え入りそうに感じた。
短く息を吐いた火神は黒子の襟首を掴むとそのまま歩き出した。ズルズル黒子を引っ張った先はのところでベンチに座っていたとカントクが驚いたように火神を見上げていた。
「。お前誠凛に来たこと後悔してるか?」
「え?」
「っ火神君!」
「黒子についてきたことを後悔してるか?」
片方の手はポケットにつっこみ、もう片方は黒子の襟首を掴んで引き摺ってきた火神はそれは怖く見えただろう。外灯くらいしかろくに光がないのにの顔色はとても悪そうに見えた。
襟首を絞められて苦しそうに火神の名を呼ぶ黒子を無視したままを見下ろすと彼女は放心した顔のまま火神を見返した。
そして何度か瞬きすると目に光が宿る。それはまだ残っている涙がそう思わせたのかもしれない。
「思ってないよ」
「……」
「そんなこと思ったことない」
目も赤く目尻も真っ赤に腫れた顔で返したの言葉は公園に静かに響いた。その言葉を聞いた黒子はもがいていた動きを止め大人しくなり、火神もどこか安堵して「そっか」と息を吐いた。
「ならいい」
「ぅ、わ」
やや乱暴にの髪をかき混ぜると「んじゃ、俺帰ります」とカントク達に声をかけ背を向けた。
「んじゃまた明日な。マネージャー」
そういったら「泣かせた奴が帰ってんじゃねーよ!」と冤罪なのに主将に殴られたけど。
2019/06/07
火神視点でお送りしました。